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第4話
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仏壇の上に、やさしく微笑む男の遺影が置かれていた。
「旦那か?」
「そうよ、いい男でしょ?」
(この男を忘れるために、千雪は酒とクスリ、そして男に溺れたわけか?)
「メシを食べに行こう、何がいい?」
「餃子とビール」
有楽町の中華料理店でビールを飲み、餃子と黒酢酢豚、海老チャーハンを食べた。
「こんな時間に起きるなんて久しぶり。運動の後のビールは最高ね?」
千雪は嬉しそうに生ビールを飲んだ。
「この酢豚、お肉が大きいわね? 私にも少し、チャーハン頂戴」
私は皿ごとチャーハンを千雪の前に置いた。
「うわー、美味しい! もう少し食べてもいい?」
「全部食べてもいいぞ」
「ありがとう、凄く美味しい」
その店は小さい店だったが味は確かだった。
昼間の千雪は笑顔が清楚な丸ノ内のOLのようだった。
(千雪を本当の笑顔にしたい)
私はそう思って千雪の食べる姿を見ていた。
「ゆりかもめに乗ってお台場に行ってみないか?」
「もういいよー、お酒買ってお家で飲もうよ」
「潮風にあたりたいんだ」
「しょうがないなー、じゃあちょっとだけだよ」
ゆりかもめに乗ると、千雪は遠い目をして旦那を想い出しているようだった。
「ゆりかもめなんて久しぶり」
寂しそうに車窓を眺める千雪。
お台場の海風は強かった。
船の霧笛や飛行機の爆音が聞こえていた。
「千雪、俺の親友に精神科医をしている奴がいる。明日、診てもらおう」
「いいよ、このままで」
「どうして?」
「もう無理だから」
私は千雪の手を強く握った。
「俺がついている、一緒に治そう」
「ありがとう三島さん。でも私はもういいの。
もっと早くあなたに会いたかった」
千雪は私の手を強く握り返して来た。
それが千雪の答えだった。
私は高校の同級生だった精神科医の栗田に電話を掛けた。
「めずらしいな慶? どうした? 売れっ子作家さん」
「実はお前に診て欲しい女がいるんだ」
「お前の女か?」
「俺の知り合いだ」
「明日の12時でどうだ?」
「すまんな? 彼女、アル中なんだ」
「そうか? まあ程度にもよるが、そう大変じゃないだろう」
「それだけじゃないんだ」
まるでそれを予想していたかのように栗田が言った。
「クスリか?」
「そうだ」
「取り敢えず診察してみよう。話はそれからだ」
「よろしく頼む」
「その女に惚れているのか?」
「まあな?」
そこは大学病院の精神科の診察室というより、どこかの工場の事務所のような部屋だった。
「どうぞお掛け下さい。えーと、高岡千雪さんですね? じゃあ慶、ちょっと外で待っていてくれ。
いくらお前でも医者には患者さんの守秘義務があるからな?」
「わかった。よろしく頼む。千雪、外で待ってるからな?」
「うん」
診察を終えると、栗田は私と千雪に言った。
「アル中の方は何とかなりそうだが、クスリの方は一度、クスリが抜けてから検査するとしよう。
そうしないと警察やマトリへ報告しなければならんからな?」
「お前に迷惑がかかるようなら、医者を変えてもいい」
「俺を誰だと思っている? これでも医大の准教授だぞ、心配するな」
「悪いな、栗田」
「クスリを絶つためにはダルクがいいかもしれんな?」
「ダルクか?」
「ああ、辛いだろうが千雪さんの為だ」
「任せるよ、俺に何か出来ることはないか?」
「耐えることだ。彼女の苦しむ姿に」
そして千雪は福島のダルクで合宿生活をすることになり、私もその近くの温泉旅館に滞在することにした。
「旦那か?」
「そうよ、いい男でしょ?」
(この男を忘れるために、千雪は酒とクスリ、そして男に溺れたわけか?)
「メシを食べに行こう、何がいい?」
「餃子とビール」
有楽町の中華料理店でビールを飲み、餃子と黒酢酢豚、海老チャーハンを食べた。
「こんな時間に起きるなんて久しぶり。運動の後のビールは最高ね?」
千雪は嬉しそうに生ビールを飲んだ。
「この酢豚、お肉が大きいわね? 私にも少し、チャーハン頂戴」
私は皿ごとチャーハンを千雪の前に置いた。
「うわー、美味しい! もう少し食べてもいい?」
「全部食べてもいいぞ」
「ありがとう、凄く美味しい」
その店は小さい店だったが味は確かだった。
昼間の千雪は笑顔が清楚な丸ノ内のOLのようだった。
(千雪を本当の笑顔にしたい)
私はそう思って千雪の食べる姿を見ていた。
「ゆりかもめに乗ってお台場に行ってみないか?」
「もういいよー、お酒買ってお家で飲もうよ」
「潮風にあたりたいんだ」
「しょうがないなー、じゃあちょっとだけだよ」
ゆりかもめに乗ると、千雪は遠い目をして旦那を想い出しているようだった。
「ゆりかもめなんて久しぶり」
寂しそうに車窓を眺める千雪。
お台場の海風は強かった。
船の霧笛や飛行機の爆音が聞こえていた。
「千雪、俺の親友に精神科医をしている奴がいる。明日、診てもらおう」
「いいよ、このままで」
「どうして?」
「もう無理だから」
私は千雪の手を強く握った。
「俺がついている、一緒に治そう」
「ありがとう三島さん。でも私はもういいの。
もっと早くあなたに会いたかった」
千雪は私の手を強く握り返して来た。
それが千雪の答えだった。
私は高校の同級生だった精神科医の栗田に電話を掛けた。
「めずらしいな慶? どうした? 売れっ子作家さん」
「実はお前に診て欲しい女がいるんだ」
「お前の女か?」
「俺の知り合いだ」
「明日の12時でどうだ?」
「すまんな? 彼女、アル中なんだ」
「そうか? まあ程度にもよるが、そう大変じゃないだろう」
「それだけじゃないんだ」
まるでそれを予想していたかのように栗田が言った。
「クスリか?」
「そうだ」
「取り敢えず診察してみよう。話はそれからだ」
「よろしく頼む」
「その女に惚れているのか?」
「まあな?」
そこは大学病院の精神科の診察室というより、どこかの工場の事務所のような部屋だった。
「どうぞお掛け下さい。えーと、高岡千雪さんですね? じゃあ慶、ちょっと外で待っていてくれ。
いくらお前でも医者には患者さんの守秘義務があるからな?」
「わかった。よろしく頼む。千雪、外で待ってるからな?」
「うん」
診察を終えると、栗田は私と千雪に言った。
「アル中の方は何とかなりそうだが、クスリの方は一度、クスリが抜けてから検査するとしよう。
そうしないと警察やマトリへ報告しなければならんからな?」
「お前に迷惑がかかるようなら、医者を変えてもいい」
「俺を誰だと思っている? これでも医大の准教授だぞ、心配するな」
「悪いな、栗田」
「クスリを絶つためにはダルクがいいかもしれんな?」
「ダルクか?」
「ああ、辛いだろうが千雪さんの為だ」
「任せるよ、俺に何か出来ることはないか?」
「耐えることだ。彼女の苦しむ姿に」
そして千雪は福島のダルクで合宿生活をすることになり、私もその近くの温泉旅館に滞在することにした。
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