★【完結】猫になった銀次郎(作品241122)

菊池昭仁

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第1話

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 俺は夢を見ているのかと思った。顔を撫でるとその手は白い猫のような毛で覆われていたからだ。
 びっくりして全身を見ると、なんと俺は生まれて間もない子猫になっていた。
 しかも狭い段ボールの中に入れられて。

 「これは夢ニャ、俺が猫にニャルわけがニャイ! あれれ、言葉もおかしいぞニャ?」

 俺は猫語を話していた。
 恐る恐る両手を見ると、手のひらがピンクの肉球になっているではないか!

 「ニャーっつ! ニャンニャこれニャアアア!」

 俺は『太陽にほえろ』の松田優作の殉職シーンのように猫語で天を仰いだ。

 (捨てニャ子?)

 元々俺は親から捨てられた捨て子だった。生まれてすぐ、『ちびっこハウス』の前に今と同じように段ボールに入れられて捨てられていたらしい。
 中学を出ると俺は施設を飛び出し、『猫撫ねこなで組』のヤクザになった。

 ほっぺをつねろうとしたが何しろ猫の手である、つねることが出来ない。
 仕方なく爪を出し、夢から醒めるために鋭い爪でチンコに触れた。

 「ギャーッ! 痛いニャあああ!」

 痛かったが夢から醒めない! 俺は焦った。

 (これは夢ではニャいということなのかニャ!)

 俺はチカラの限り泣き続けた。

 「ニャー! ニャー! ニャー! ニャー!(誰か助けてくれニャー!)」

 
 すると足音が近づいて来るのが聞こえた。

 (女の足音がするニャ? ローファーにゃ? 女子高生かニャ?)

 「あーっ、かわいそうに。君、捨てられちゃったの? なんて酷いことをするのかしらねー」
 「ニャー! ニャー!(そうニャ姉ニャン、早くここから助けてくれニャ!)」

 それは制服を着た、ポニーテールの女子高生だった。いい匂いがした。
 俺はその女子高生にやさしく抱き上げられた。

 「かわいい」
 「ニャア(お前もかわいいぞニャ)」
 「このまま置いて帰るわけにはいかないわよね? そんなことしたら死んじゃうもん、まだこんなに小さいのに」
 「ニャアニャア!(ホントニャ、死んでしまうニャ!)」
 「とにかくウチに連れて帰らないと。一緒に帰ろうね? 子猫ちゃん?」
 「ニャアー(アンタは命の恩人ニャ、この恩義は一生忘れニャイからニャ。この姉ちゃんの親なら多分大丈夫ニャろう? 俺を飼ってくれるはずニャ)」



 でもそれは甘かった。

 「えへへ ママ、かわいいでしょ? 捨てられていたの。ウチで飼ってもいいでしょう? ねっ、お願い!」

 女子高生は母親に両手を合わせて俺のためにお願いをしてくれた。

 「駄目よ。ウチにはもう一平がいるじゃない。二匹は飼えないわ、すぐに元居た所に返してらっしゃい」
 「ニャア!(ママさん、あそこにいたら死んでしまうニャ。どうかここに置いてくれニャ! お願いニャ!)」
 「そんなことしたらこの子、死んじゃうよー」
 「ニャー(そうニャ、あともうひと押しニャ! 頼むぞ女子高生!」
 「それなら他に飼い主が見つかるまでよ」
 「ありがとうママ!」
 「ニャアニャア!(ありがとママさん、大好きニャ!)」
 「良かったね? 子猫ちゃん?」
 「ニャア(ありがとニャン、姉ニャン)」

 というわけで、ひとまず俺の命は救われた。
 新しい飼主が見つかるまでの間、俺はこの猫山家で暮すことになったのである。
 
  
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