★【完結】街中華『ちゃらんぽらん』(作品241015)

菊池昭仁

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その12

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 久しぶりのお休みである。料理長のラオチュウとショウ・コウシュは、湘南新宿ラインの電車でお花見へと向かっていた。

 「ラオチュウ料理長、電車の中がやけに静かですね?」
 「みんなスマホに夢中だからな?」
 「音楽を聴いたりドラマを見たり、LINEをしたりゲームをしたり、マッチング・アプリをしたり・・・。あっ、あのオッチャン、エッチな動画を見てますよ!
 あの家族なんか無言でスマホをいじってます。会話もしないで家族なのに」
 「最近のアメリカではアプリにも飽きて、通話とメールしかやらない人間も増えているそうだ」
 「ボクのスマホは出会い系アプリでいっぱいですよ」
 「便利な世の中にはなったが、人と人とが会ってする会話が少なくなってしまった。
 学校でも会社でもそして家族や恋人同士でもみんなスマホに夢中だ」
 「面倒くさい人づきあいもいりませんからね? それにメールだと言い難いことも簡単に言えちゃいますから」
 「顔が見えないからな? 相手の反応がわからないから言いたい放題だ」
 「もしかするとポケベルで十分だったのかもしれませんね?」
 「俺の若い頃はポケベルもなかった。だから山ほど手紙を書いたもんだ。
 家の電話だから長電話も出来なかったしな? だからこそ、一緒にいる時間が大切だった」
 「今の子たちは異性と付き合うことも、結婚にも興味がないみたいですからね?」
 「便利になるということは、簡単に出来るということだ」
 「会社を辞めるのも、メールや代行業者に依頼する時代ですからね?」
 「着いたぞ」
 「凄い! 桜が満開ですねえ!」
 「何やってんだ?」
 「動画を撮っているんですよ、SNSに上げないと。「桜なう」っと」
 「そんなのどうでもいいから桜を楽しめ。この大切なひと時を」

 他の人たちも桜を愛でるのも忘れ、夢中で動画を撮っていた。

 (子供の運動会みたいだな? 思い出に残すことばかりで、子供の今を見てはいない。
 思い出に残すより、今が大切なのに)

 ラオチュウは寂しくなった。

 春はすぐに終わってしまうのに。

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