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第28話

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 俺は裁判に負け、離婚して奈緒と娘たちを失った。
 そして咲子とも別れた。

 「奥さんと離婚したんだって? 山ちゃんから聞いたよ。
 チャンス到来! これで私たち、やっと夫婦になれるね?」
 「サキ、そろそろいいだろう?
 金持ちのイケメンでも探せ、お前ならどんなやつも寄って来る」
 「イヤだよ、私はヒロちゃんが好きなんだもん!
 ねえ、ヒロちゃんのお嫁さんにしてよ!」
 「こんな飲んだくれと結婚しても、先は見えている。
 もう遊びは終わりだ」
 「酷い! 遊びだなんて!
 私はいつも真剣だったのに!」
 「お前は俺のタダのセフレだ。
 そして俺はサキの単なるプロデューサー。
 もういいだろう? 俺に頼らなくてもお前は立派にやっていける」
 「なんだかサキがヒロちゃんを利用していたみたいじゃないの?」
 「だってその通りだろう?
 でも俺はそれを責めているんじゃない。
 自分の夢を掴むためには利用出来る物はすべて利用する。
 マドンナだってあの地位を築くために、どれほど多くの男たちに抱かれたか知れない。
 それは悪ではない」
 「最初はそうだった。ヒロちゃんを利用したのは事実よ。
 でも今は好きなの、あなたのことを愛してしまったの。
 お願いだからそんなことは言わないで。
 何でもするから、ね、お願い」
 「俺は大切な物を失った。
 出て行ってくれ、もう終わりにしよう」
 
 俺はジャックダニエルをラッパ飲みした。


 「私と別れて絶対に後悔するわよ」
 「もうしてるよ」

 それが咲子との別れだった。


 (俺が浮気したのは誰のせいだ? 俺のせいか?)

 俺はやれることはすべてやった。
 娘だけでも取り戻す、必ず。
 凛と華に会いたい。

 俺は決心した。
 パリに娘たちを取り戻しに行くことを。

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