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第11話
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東京に戻り、俺は渚と俺の自宅で蟹と鱒寿司を食べていた。
蟹の殻剥きと渚は格闘していた。
いつもなら女と蟹を食べる時は俺が女の蟹の殻を剥いてやるのだが、渚はそれを楽しめる女だった。
「昨日、絵葉書届いていたよ。絵葉書なんて貰ったの初めて。ありがとう省ちゃん、今度一緒に旅行に連れて行ってね?」
「届いたか? 絵葉書っていいもんだろう? 今はスマホで動画も送れる時代だが、手書きの絵葉書も中々いいもんだ。 俺は旅先で絵葉書を書くのが好きなんだよ、「ああ、俺は今、旅をしているんだなあ」ってうれしくなる。絵葉書は出す方も受け取る方もワクワクするものだ」
渚は蟹を食べながら言った。
「新潟の温泉は良かったの?」
「ちょっといい老舗の高級旅館だった。『潮騒閣』という、皇族も利用するような明治から続く旅館だった。
今度、一緒に行こうな?」
「高級旅館かあ、憧れちゃうなあ」
「部屋に檜の露天風呂が付いていてさあ、海が見えてとても素晴らしい旅館だったよ。
渚と一緒に泊まりたかった」
「へえー、それじゃあお風呂で出来るわけだ。うふっ」
「そういうわけだ、あはははは」
それから私は富山や金沢での話はしたが、雪乃のことは話さなかった。なぜか渚に話す気にはなれなかったのである。
(惚れた? 後ろめたい?)
雪乃は今までに付き合ったことがない、ミステリアスな美女だった。
私はそれを密かないい旅の思い出として心に留めて置きたかった。
その夜、久しぶりの逢瀬に俺たちは燃えた。
「すごくね、すごく寂しかったんだから」
「俺もお前に早く会いたかった」
俺は懸命にピストン運動を繰り返し、渚もそれに歓喜した。
長い行為が続いた。
私は不謹慎にもそっと目を閉じ、雪乃を抱いている自分を想像していた。
喘ぐ渚に俺は雪乃を重ねた。
金曜日の夜、思いがけず雪乃から電話が掛かって来た。
「『月の砂漠』のチイママ、雪乃です。覚えていますか?」
「もちろんですよ、美人と美味い酒は忘れませんから」
「ならよかった。今夜は華金ですよ? 何していたんですか?」
「家で飲んでました、フェリー二の映画を観ながら」
「お一人で?」
「残念ながらいつもひとりですよ」
俺は咄嗟に嘘を吐いた。
「本当はアダルトなやつじゃないんですか?」
「そういう時もありますけどね?」
「これからお店に来ませんか? 今日はなぜか暇なの」
「座っただけで5万円の銀座にですか? 僕のような男に銀座は敷居が高すぎますよ」
「初回だから今夜は2万円にしてあげる」
「それならキャバクラと変わりませんね?」
「変わるわよ、だってこの私が有明さんの専属キャバ嬢になってあげるんだから」
「そうでした、雪乃さんは別格ですからね? では1時間後にお店にお邪魔します」
「お気をつけて。お待ちしております」
俺の心はときめいた。スーツに着替え、銀座へと向かった。
蟹の殻剥きと渚は格闘していた。
いつもなら女と蟹を食べる時は俺が女の蟹の殻を剥いてやるのだが、渚はそれを楽しめる女だった。
「昨日、絵葉書届いていたよ。絵葉書なんて貰ったの初めて。ありがとう省ちゃん、今度一緒に旅行に連れて行ってね?」
「届いたか? 絵葉書っていいもんだろう? 今はスマホで動画も送れる時代だが、手書きの絵葉書も中々いいもんだ。 俺は旅先で絵葉書を書くのが好きなんだよ、「ああ、俺は今、旅をしているんだなあ」ってうれしくなる。絵葉書は出す方も受け取る方もワクワクするものだ」
渚は蟹を食べながら言った。
「新潟の温泉は良かったの?」
「ちょっといい老舗の高級旅館だった。『潮騒閣』という、皇族も利用するような明治から続く旅館だった。
今度、一緒に行こうな?」
「高級旅館かあ、憧れちゃうなあ」
「部屋に檜の露天風呂が付いていてさあ、海が見えてとても素晴らしい旅館だったよ。
渚と一緒に泊まりたかった」
「へえー、それじゃあお風呂で出来るわけだ。うふっ」
「そういうわけだ、あはははは」
それから私は富山や金沢での話はしたが、雪乃のことは話さなかった。なぜか渚に話す気にはなれなかったのである。
(惚れた? 後ろめたい?)
雪乃は今までに付き合ったことがない、ミステリアスな美女だった。
私はそれを密かないい旅の思い出として心に留めて置きたかった。
その夜、久しぶりの逢瀬に俺たちは燃えた。
「すごくね、すごく寂しかったんだから」
「俺もお前に早く会いたかった」
俺は懸命にピストン運動を繰り返し、渚もそれに歓喜した。
長い行為が続いた。
私は不謹慎にもそっと目を閉じ、雪乃を抱いている自分を想像していた。
喘ぐ渚に俺は雪乃を重ねた。
金曜日の夜、思いがけず雪乃から電話が掛かって来た。
「『月の砂漠』のチイママ、雪乃です。覚えていますか?」
「もちろんですよ、美人と美味い酒は忘れませんから」
「ならよかった。今夜は華金ですよ? 何していたんですか?」
「家で飲んでました、フェリー二の映画を観ながら」
「お一人で?」
「残念ながらいつもひとりですよ」
俺は咄嗟に嘘を吐いた。
「本当はアダルトなやつじゃないんですか?」
「そういう時もありますけどね?」
「これからお店に来ませんか? 今日はなぜか暇なの」
「座っただけで5万円の銀座にですか? 僕のような男に銀座は敷居が高すぎますよ」
「初回だから今夜は2万円にしてあげる」
「それならキャバクラと変わりませんね?」
「変わるわよ、だってこの私が有明さんの専属キャバ嬢になってあげるんだから」
「そうでした、雪乃さんは別格ですからね? では1時間後にお店にお邪魔します」
「お気をつけて。お待ちしております」
俺の心はときめいた。スーツに着替え、銀座へと向かった。
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