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第10話

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 金沢もすっかりと変わってしまっていた。
 金沢と言って思い出すのは不遇の文学者、室生犀星である。
 私生児として生まれ、高等小学校を中退。育ての母親の息子である義兄が務める裁判所の給仕となり、文学と親しむようになる。
 幼少時に孤児として引き取られた雨宝院が犀川の左岸にあり、その犀川の風情を好んだ彼が、ことから室生犀星と名乗るようになったという。
 そんな金沢を流れる浅瀬の美しい犀川が私も好きだった。
 そして内容は忘れてしまったが、五木寛之の小説、『内灘夫人』を思い出す。内灘という地名が何故か気に入っていた。

 
 私は近江町市場へ向かい、加能蟹などの海産物を買い、渚と食べる為に自宅へ送ることにした。
 いっぷく横丁で金沢おでんを摘みながら能登の酒、『竹葉ちくは』を熱燗にして飲んだ。
 赤巻き蒲鉾に車麩、筍に香箱蟹などを食べた。いかにも金沢らしい上品なおでん出汁だった。
 

 宿は金沢の中心である香林坊に取った。小さいが趣のある、蔵を改築した漆黒の日本旅館であった。
 学生時代、悪友と金沢にナンパに来て、焼肉とピザの食べ放題を梯子したのを思い出す。
 金沢は雨や雪が多い。

    弁当忘れても傘忘れるな

 という言葉があるくらい、金沢は天気が悪い。そして今日の金沢も吹雪になっていた。
 俺はバスのフリー乗車券を求め、金沢の街を散策することにした。

 長町武家屋敷跡地の土塀の狭い道を歩いた。
 カフェやBARも多い東茶屋街も散策した。外国人も多かった。
 カフェで珈琲を飲みながら、私はまた渚に絵葉書を書いた。兼六園の絵葉書だった。
 旅先で私はよく絵葉書を書く。それは自分が異郷にいることの自覚と、それを相手に伝えたいという思いがあるからだ。

 21世紀美術館を見て、金沢城址公園に行った。
 雪吊が施された樹木に雪が積もり、美しさが際立っていた。
 兼六園のフォトスポットである燈籠の前で自撮りをし、渚に送った。
 すぐに返信があった。


     いいなあ 金沢
     今度連れて行ってね

               蟹を買って俺の自宅に
               送ったから 休みの日
               一緒に食べよう

     うん 楽しみにして
     いる
     気をつけて帰って来
     てね


 渚は決して「早く帰って来てね」とは言わない。渚は大人の女だった。


 海鮮が続いたので、夕食は能登豚のトンカツにした。
 柔らかく甘みがあって旨かった。


 朝、宿で和定食とビールを飲み、私は東京への帰途に就いた。


  
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