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第6話

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 最終的に面接者を10人に絞った。
 ここから5組を選ぶことになる。
 最初の面接者は阿佐田哲也というか、電撃ネットワークの南部虎弾なんぶとらたのような感じの、62歳の小説家志望の老人だった。

 「夏目治なつめおさむです。夏目漱石の「夏目」と太宰治の「治」と書きます。最初、父は芥川龍之介の大ファンだったこともあり、私に「龍之介」と名付けようとしたそうですが、「龍」という漢字が子供の私が書くのは大変だろうと、簡単に書ける、太宰治の「治」にしたようです。「龍」ですと16画ですが、「治」なら半分の8画で済みますからね? あはははは
 父は私を『令和の文豪』にしたかったようです。
 お陰でサインが凄くラクです。サイン会をするのにも実に都合がいい」
 「サイン会もなさるんですか?」
 「いえ、「もしそうなったら」の話です。あはははは。
 私の夢はGINZAセックス、じゃなかった『GINZA6』のTSUTAYA書店さんで、草間彌生さんの水玉オブジェの前でサイン会を開くことなんです。
 もちろん男性読者さんはお断りですよ、壇蜜や檀れい、檀ふみのような聡明で美人でオッパイの小さい、セクシーな女性と握手をし、ハグをして、チュウをして、パンティに油性マジックでサインをするのが憧れです。
 「壇! 壇! 壇!」って、まるであのホットドッグマンがやっている人材紹介会社、『あったかワンワン』の宣伝広告みたいですけどね? あの広告、しつこいですよね~ あはははは
 恋愛ドラマでこれからチョメチョメという時に限って途中で流れるあのCM。
 いやあ、あれには参りますよねえ? ホント迷惑。
 サイン会の後、みんなで銀座のクラブでどんちゃん騒ぎをしてそれから・・・」

 夏目治さんは自分の世界に入り、遠い目をしていた。
 気分はもう乱交パーティのようだ。

 「わかりました、もう結構です。それではなぜ『陽だまり荘』にご入居を希望されたのかお聞かせ下さい」
 「面白い小説が書けると思ったからです。
 だってワクワクするじゃないですか? 様々な個性のある人たちと同じ釜の飯を食べて生活をするなんて。
 これからの日本の少子高齢化問題のヒントがこのシェアハウスにはあると思ったからです。
 だからといって、私は岸田総理の手下でも、ましてや安倍派のクソ議員たちの仲間でもありませんのでご心配なく。
 よろしくお願いします」
 「ありがとうございました。結果は後日、こちらからお知らせします」
 

 岬は査定書に✕印を、渚は△印を点けた。

 「駄目かな? さっきの夏目さんは? 小説家なんて、俺は面白いと思うけどなあ?」
 「小説家だなんて言うけどさあ、あのお爺さん、ウイッキー・メディアにも出てないわよ。
 ウソなんじゃないの? 小説家だなんて」
 
 渚の意見は意外だった。

 「悪い人じゃなさそうだよ。お試しで入居させてあげたら? ひとり暮らしのお爺さんだし、孤独死でもしたらかわいそうだよ。大家さんが」
 「渚はそう言うけど、岬はどうだ? 俺は賛成だけど」
 「渚がそう言うならお試しということならいいわよ。でもヘンな人だったらすぐに出て行ってもらうわよ?」
 「よし、まず一組は決まりだ。あと4組だな? 次の方どうぞ」

 
 やって来たのは江口洋介似の医者だった。年齢は40歳。バツイチ。娘さんは医学生らしい。

 「私は救命救急医をしていますので、あまり家には帰れません。でも・・・」
 「合格! 合格です! 今夜から入居して下さい! 私のお部屋で一緒に同居しましょう!」

 岬は大興奮だった。まるでサカリのついたサルのように。
 岬は査定書に赤いマジックで、でっかい花まるを描いた。

 「ママ、落ち着いてよ」
 「落ち着いているわよ! 合格よ合格! 絶対合格!」

 (俺は松雪泰子がいいけどなあ)

 
 2組目も決まった。


 「では『爆笑疑問』さんどうぞ」
 「ハイどうもー! 『爆笑疑問』の裏口入学疑惑、証拠不十分で有耶無耶になった割り算が出来ない大田原でーす!」
 「その相方、お刺身のツマみたいに存在感の薄い、ちっちゃい方でーす! 奥さんは美人でーす!」
 「あなたたちは賃貸に住む必要はないんじゃないですか? ちっちゃい方の人は10億円の豪邸もあるし」
 「どんなバカが住んでいるのかと思っただけだぴょーん!」
 「ただの冷やかしですか? お引き取り下さい」

 岬と渚も私と同意見だった。

 「ごめんなさい、私、『爆笑疑問』って大っキライなの。『日曜日本』でも教養の欠片もない司会をしているし」
 「私もキライ。面白くもなんともないから。ただうるさいだけだし」
 「バカ野郎! 俺の嫁は偉いんだぞ! 芸能プロダクション、『地球』の社長なんだぞ!」
 「あの大阪の独裁者、弁護士、トオルもいるしね? もうお帰り下さい」
 「訴えてやる!」


 「次の方どうぞー」

 今度は岬が応対に当たった。
 朝倉サト、82歳。長男は東大法学部を出て財務省事務次官を経て、現在は民自党幹事長。
 長女はバイオリニストで音大教授。子供たちは僧侶、弁護士、検事、裁判官に開業医に医学部教授。
 孫、曾孫ひまごたちも『華麗なる一族』だった。
 つまりみんな偉そうな人たちで大金持ちだった。
 サトさんも元局アナで、才色兼備の美熟女であり、今でも43歳にしか見えない。
 そんな人がなぜシェアハウス、『陽だまり荘』に入居したいのだろう?

 「私、サトさんの大ファンなんです!
 でもどうしてあなたのように恵まれた人がこのシェアハウスに?」
 「理由を言わなければいけませんでしょうか?」
 「知らない人たちと暮らすんですよ? 大丈夫ですか?」
 「大丈夫です。ぜひお仲間に入れていただけませんか?」
 「ママ、サトさんならいいんじゃない? 上品でやさしそうだし」
 「そうね? それじゃあ合格にしますが、もしあわなければ遠慮なく出て行ってもかまいませんからね?」 
 「ありがとうございます」

 ということで3組目も決まった。
 その後は歌舞伎町のホスト、セクハラ部長は除外した。


 次の面接者はシングルマザーの川村静香、28才だった。
 娘の由佳ゆかちゃんは5才。保育園に通っていた。

 「家賃を三ヶ月も滞納してしまい、今月までにアパートを出ていかなければなりません。
 どうか私と娘を助けて下さい」

 私たちは静香さん母子を気の毒に思い、入居を許可することにした。
 もしも家賃の5万円が支払えない時は、私が立て替えてあげるつもりだった。

 
 他の面接者は性格的なものや話し方があわなかったのでその場で断った。
 そして最後に面接したのは売れないお笑い芸人、山下清一、45才だった。
 めずらしく渚が質問をした。

 「山下さんは山下清に似ているって言われませんか?」
 
 確かに「おにぎりを下さい」と言ったら山下画伯にそっくりだった。
 坊主頭にランニングシャツ、小太りでお腹も出ている。

 「はい、よく言われます」
 「履歴書にお笑い芸人と書いてありますけど、どんなお笑いなんですか?
 私、お笑いが大好きなんです」
 「そうでしたか? ボクのお笑いは山下清のものまねです」
 「うわー、やってやって!」

 山下がモノマネをやろうとした時、渚と岬はすでに笑い転げて椅子から落ちていた。

 「あはははは あはははは お腹痛い! 山下さん! 合格です!合格!」
 「何もしなくても面白いわ! この『陽だまり荘』が楽しくなりそう!」
 「ボ、ボク、まだ何もしてないんだな? お、おにぎりを下さい」
 「あはははは あはははは ママ、パパ、山下さんは合格でいいよね?」
 
 そして入居者の5組が決定した。

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