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第3話
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私は家に帰って岬と渚に遺産相続の話をした。
「ここを引っ越すことにした」
「あなた、今日は4月1日、エイプリル・フールじゃないわよ。つまらない冗談は止めてくれる?」
「バッカみたい。そんなの出来もしないくせに」
思った通りの反応だった。
私は自信たっぷりに言ってやった。
「親父が俺に遺産を残してくれていたんだ」
「だからそんな出鱈目な話は止めてって言っているの!」
「ホントなんだ。俺も驚いたんだ。それで今日、管財人の弁護士と会って来た。ほら、これが証拠だ」
私は西川弁護士の名刺を彼女たちに見せた。
「えっ? あの『行列に並ぶなんてまっぴらゴメンだ 法律案内所』の西川さんじゃないの! ホントなの!」
「俺がお前たちにウソを吐いたことがあるか?」
急に色めき立つ女房と娘。
「それでそれで? いくらなの? お義父さんが残してくれた遺産って? 300万円? まさか1,000万円なんてことはないわよね?」
私は相続金のことは黙っていることにした。
話せば必ずあれが欲しい、これが欲しいと、岬は地に足がつかなくなってしまう。
カネは人を簡単に変えてしまう。
「現金は僅かだが、世田谷の家を譲り受けることになった。
明日早速、みんなでその家を見に行ってみないか?」
「行く行く! 絶対に行く! 高級住宅街、世田谷にお家だなんて最高じゃないの!
出来れば現金の方が良かったけど、世田谷だもんね?」
「私、転校するのイヤだな・・・
娘の渚は今、サッカー部のイケメン・キャプテン、隼人君と付き合っているらしい。
彼氏と別かれるのがイヤなのだろう。
「まだそこに住むなんて決めたわけじゃないから安心しなさい。
お家がボロだったら解体して土地だけ売っちゃえばいいんだから」
(岬、それは出来ないんだ)
「そうなの? じゃあ見に行ってもいいけど・・・」
岬は親父の家を売る気満々だった。
なぜなら岬もここを離れる気はなかったからだ。ファミレスの店長とチョメチョメをしていたからだ。
「駅の近くに豪邸を建てましょう! それならいいでしょう?」
「うん、それなら賛成! 大賛成だよママ!」
そんな彼女たちを見て、パトラッシュは寂しそうだった。
パトラッシュは話は出来ないが、人間の話は理解出来る犬だったからだ。
私はパトラッシュを抱きしめて言った。
「パトラッシュ、明日はお前も一緒に見に行こうな? 親父が残してくれた世田谷の家を」
「ワン!(楽しみだね? パパ!)」
翌日、私たちはクルマのナビに従い、世田谷の家にようやく辿り着いた。
だがそこにはとてつもなく大きな、お城みたいな洋館が建っていた。
「ナビだとここなんだけどなあ。それらしい古くて小さな家は見当たらないなあ?
みんな凄い豪邸ばかりだ」
「本当にここで間違いないの?」
「あの人に訊いてみよう。すみませーん、この辺りに田所榮太郎の住んでいた家はありませんか?
榮太郎は私の父なんです」
その御婦人は凄く高そうな白いボルゾイを散歩させている最中だった。
「ここのお屋敷ですけど」
「このベルサイユ宮殿みたいなお屋敷が父の家!」
「そうですよ、この町内ではいちばん大きなお屋敷ですわ。おほほほほ」
私は西川弁護士から受け取った、ゲート開閉のリモコンのスイッチを押した。
「ひらけ~、ポンキッキ!」
すると大きな両開きのアイアン門扉がゆっくりと開いた。私はゆっくりとクルマを敷地内へと進入させて行った。
300坪はあろうかと思われる敷地は緑に囲まれ、レトロな洋館が建っていた。
私たちは言葉を失い、しばらく呆然としていた。
まるで夢を見ているのかと思った。
「ここを引っ越すことにした」
「あなた、今日は4月1日、エイプリル・フールじゃないわよ。つまらない冗談は止めてくれる?」
「バッカみたい。そんなの出来もしないくせに」
思った通りの反応だった。
私は自信たっぷりに言ってやった。
「親父が俺に遺産を残してくれていたんだ」
「だからそんな出鱈目な話は止めてって言っているの!」
「ホントなんだ。俺も驚いたんだ。それで今日、管財人の弁護士と会って来た。ほら、これが証拠だ」
私は西川弁護士の名刺を彼女たちに見せた。
「えっ? あの『行列に並ぶなんてまっぴらゴメンだ 法律案内所』の西川さんじゃないの! ホントなの!」
「俺がお前たちにウソを吐いたことがあるか?」
急に色めき立つ女房と娘。
「それでそれで? いくらなの? お義父さんが残してくれた遺産って? 300万円? まさか1,000万円なんてことはないわよね?」
私は相続金のことは黙っていることにした。
話せば必ずあれが欲しい、これが欲しいと、岬は地に足がつかなくなってしまう。
カネは人を簡単に変えてしまう。
「現金は僅かだが、世田谷の家を譲り受けることになった。
明日早速、みんなでその家を見に行ってみないか?」
「行く行く! 絶対に行く! 高級住宅街、世田谷にお家だなんて最高じゃないの!
出来れば現金の方が良かったけど、世田谷だもんね?」
「私、転校するのイヤだな・・・
娘の渚は今、サッカー部のイケメン・キャプテン、隼人君と付き合っているらしい。
彼氏と別かれるのがイヤなのだろう。
「まだそこに住むなんて決めたわけじゃないから安心しなさい。
お家がボロだったら解体して土地だけ売っちゃえばいいんだから」
(岬、それは出来ないんだ)
「そうなの? じゃあ見に行ってもいいけど・・・」
岬は親父の家を売る気満々だった。
なぜなら岬もここを離れる気はなかったからだ。ファミレスの店長とチョメチョメをしていたからだ。
「駅の近くに豪邸を建てましょう! それならいいでしょう?」
「うん、それなら賛成! 大賛成だよママ!」
そんな彼女たちを見て、パトラッシュは寂しそうだった。
パトラッシュは話は出来ないが、人間の話は理解出来る犬だったからだ。
私はパトラッシュを抱きしめて言った。
「パトラッシュ、明日はお前も一緒に見に行こうな? 親父が残してくれた世田谷の家を」
「ワン!(楽しみだね? パパ!)」
翌日、私たちはクルマのナビに従い、世田谷の家にようやく辿り着いた。
だがそこにはとてつもなく大きな、お城みたいな洋館が建っていた。
「ナビだとここなんだけどなあ。それらしい古くて小さな家は見当たらないなあ?
みんな凄い豪邸ばかりだ」
「本当にここで間違いないの?」
「あの人に訊いてみよう。すみませーん、この辺りに田所榮太郎の住んでいた家はありませんか?
榮太郎は私の父なんです」
その御婦人は凄く高そうな白いボルゾイを散歩させている最中だった。
「ここのお屋敷ですけど」
「このベルサイユ宮殿みたいなお屋敷が父の家!」
「そうですよ、この町内ではいちばん大きなお屋敷ですわ。おほほほほ」
私は西川弁護士から受け取った、ゲート開閉のリモコンのスイッチを押した。
「ひらけ~、ポンキッキ!」
すると大きな両開きのアイアン門扉がゆっくりと開いた。私はゆっくりとクルマを敷地内へと進入させて行った。
300坪はあろうかと思われる敷地は緑に囲まれ、レトロな洋館が建っていた。
私たちは言葉を失い、しばらく呆然としていた。
まるで夢を見ているのかと思った。
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