5 / 15
第5話
しおりを挟む
彼のデートプランは私を十分に蕩けさせてくれた。
先程とは打って変り、そこはまるでハリウッド映画のような、大人が愛を語るにふさわしいショットバーだった。
カルテットの演奏する『My funny valentine』とカクテル。
私たちの会話はめっきりと減り、代わりにスキンシップが多くなっていた。
焼肉屋での彼は、どうやら私を楽しませるために酔ったフリをしていたらしく、このBARでは大人の色気漂うgentlemanだった。
それはエリート銀行員というより、どこかの国の諜報部員? スパイのようにミステリアスだった。
そして何故か時折、横顔に悲しみが覗いていた。
私は彼の肩に頬を寄せた。
「ごめんなさい、ファンデが付いてしまったわね?」
「スーツをクリーニングに出す時、お店の人に自慢するよ。「素敵な彼女にマーキングされたんだ」ってね?」
彼は私の肩をやさしく抱いてくれた。
私はこのまま彼に抱かれたいと思い、とあるカクテルをオーダーした。
「アフィニティを下さい」
「私にもそれを」
私たちの想いが重なった。
そのカクテルの意味は、「あなたと触れ合いたい」という酒言葉だった。
給料日後の金曜日のラブホテルは、どこも満室だった。
ロビーには若いカップルが1組、部屋が空くのを待っていた。
「別の場所に行きますか?」
「ううん、もう疲れたから歩きたくない・・・」
そう言って私は彼に寄り添い、甘えた。
これから始まろうとしている行為を妄想すると、カラダが火照った。
下りのエレベーターが開き、中年の不倫らしきカップルがホテルを出て行った。
部屋の掃除が完了し、部屋待ちをしていた先程のカップルが手を繫ぎ、昇りのエレベーターに乗ってロビーを出て行った。
1時間程して、ようやく私たちの番になった。
私たちは待ちきれず、エレベーターの中で熱いキスを交わした。
彼のキスはパーフェクトだった。
私はそのまま崩れ落ちてしまいそうだった。
部屋に入ると彼は私の服を脱がせ、自分も服を脱いだ。
「シャワーを浴びさせて・・・」
「いいよそのままで。沙恵は綺麗だよ、汚れてはいない」
確かにさっき、トイレでのエチケットは済ませて置いた。
私は彼の言葉に従うことにした。
ダンスもセックスも男次第だ。
彼の鍛え抜かれた肉体。私は彼の背中に必死にしがみ付いた。
「ずっとご無沙汰だったの、やさしくしてね?・・・」
彼は十分過ぎる前戯を終えると、ゆっくりと私の中に入って来た。
最初、メリメリとした感触はあったが、やがて快感へと変わった。
私は女であることの喜びに打ち震え、セカンドバージンを彼に捧げた。
行為の間、彼は私を誉めちぎってくれた。
「美しい胸だ」「なんて白いきめ細やかな肌なんだ」「サラサラのきれいな髪だね?」
そして耳元で囁く、「愛しているよ、沙恵」という甘いセリフ。
彼は言葉でも私を酔わせてくれた。
私はこの時初めて「イク」という浮遊感を感じ、頭の中が真っ白になった。
今まで私は恋愛を知らなかったのだと思う。
愛されることもなく、誰も本気で愛することもせずに今日まで来たのは、愛すべき人に出会わなかったからなのかもしれない。
でも今は満がいる。
私は満に出会うために生まれたのだ。
「沙恵、君は本当に素敵だよ」
「ありがとう満。こんな風にされたの、初めて」
「この恋、これからも大切にしていきたい」
「私も・・・」
「ひと目惚れだったんだ。沙恵に。
スーパーで君を見掛けたあの日からずっと。
そしてまた、郵便局で君と偶然出会うことが出来た。
僕は宿命すら感じたよ。
君からの電話をいつも心待ちにしていたんだ。
でも、君からの電話は来なかった。
僕は居ても立ってもいられずに、君の職場へ押しかけた。
もしもあの時、君に「NO」と言われたら、僕は沙恵を諦めるつもりだった。
でも君は僕の誘いを受け入れてくれた。
本当にありがとう」
「私ね、あの時、すごく嬉しかったの。でも怖かった。
からかわれているのかと思ったから。
だってあなたがあまりに素敵な人だったから」
「沙恵に出会えて、本当に良かったよ」
「私もよ、今、すごくしあわせ」
「結婚を前提に、僕と付き合って欲しい」
「嬉しい・・・。こちらこそ、よろしくお願いします」
不思議だった。「結婚」という言葉を封印して来た私が、まだ出会ったばかりの男性に、一度抱かれただけのこの男に、その申し出を素直に受け入れている自分に。
私たちは再び熱いキスを交わした。
ずっと昔から愛し合っている恋人同士のように。
この日を境に、私の人生は大きく変わろうとしていた。
私は遂に、孤独という寂しさとの決別を果たしたのだった。
先程とは打って変り、そこはまるでハリウッド映画のような、大人が愛を語るにふさわしいショットバーだった。
カルテットの演奏する『My funny valentine』とカクテル。
私たちの会話はめっきりと減り、代わりにスキンシップが多くなっていた。
焼肉屋での彼は、どうやら私を楽しませるために酔ったフリをしていたらしく、このBARでは大人の色気漂うgentlemanだった。
それはエリート銀行員というより、どこかの国の諜報部員? スパイのようにミステリアスだった。
そして何故か時折、横顔に悲しみが覗いていた。
私は彼の肩に頬を寄せた。
「ごめんなさい、ファンデが付いてしまったわね?」
「スーツをクリーニングに出す時、お店の人に自慢するよ。「素敵な彼女にマーキングされたんだ」ってね?」
彼は私の肩をやさしく抱いてくれた。
私はこのまま彼に抱かれたいと思い、とあるカクテルをオーダーした。
「アフィニティを下さい」
「私にもそれを」
私たちの想いが重なった。
そのカクテルの意味は、「あなたと触れ合いたい」という酒言葉だった。
給料日後の金曜日のラブホテルは、どこも満室だった。
ロビーには若いカップルが1組、部屋が空くのを待っていた。
「別の場所に行きますか?」
「ううん、もう疲れたから歩きたくない・・・」
そう言って私は彼に寄り添い、甘えた。
これから始まろうとしている行為を妄想すると、カラダが火照った。
下りのエレベーターが開き、中年の不倫らしきカップルがホテルを出て行った。
部屋の掃除が完了し、部屋待ちをしていた先程のカップルが手を繫ぎ、昇りのエレベーターに乗ってロビーを出て行った。
1時間程して、ようやく私たちの番になった。
私たちは待ちきれず、エレベーターの中で熱いキスを交わした。
彼のキスはパーフェクトだった。
私はそのまま崩れ落ちてしまいそうだった。
部屋に入ると彼は私の服を脱がせ、自分も服を脱いだ。
「シャワーを浴びさせて・・・」
「いいよそのままで。沙恵は綺麗だよ、汚れてはいない」
確かにさっき、トイレでのエチケットは済ませて置いた。
私は彼の言葉に従うことにした。
ダンスもセックスも男次第だ。
彼の鍛え抜かれた肉体。私は彼の背中に必死にしがみ付いた。
「ずっとご無沙汰だったの、やさしくしてね?・・・」
彼は十分過ぎる前戯を終えると、ゆっくりと私の中に入って来た。
最初、メリメリとした感触はあったが、やがて快感へと変わった。
私は女であることの喜びに打ち震え、セカンドバージンを彼に捧げた。
行為の間、彼は私を誉めちぎってくれた。
「美しい胸だ」「なんて白いきめ細やかな肌なんだ」「サラサラのきれいな髪だね?」
そして耳元で囁く、「愛しているよ、沙恵」という甘いセリフ。
彼は言葉でも私を酔わせてくれた。
私はこの時初めて「イク」という浮遊感を感じ、頭の中が真っ白になった。
今まで私は恋愛を知らなかったのだと思う。
愛されることもなく、誰も本気で愛することもせずに今日まで来たのは、愛すべき人に出会わなかったからなのかもしれない。
でも今は満がいる。
私は満に出会うために生まれたのだ。
「沙恵、君は本当に素敵だよ」
「ありがとう満。こんな風にされたの、初めて」
「この恋、これからも大切にしていきたい」
「私も・・・」
「ひと目惚れだったんだ。沙恵に。
スーパーで君を見掛けたあの日からずっと。
そしてまた、郵便局で君と偶然出会うことが出来た。
僕は宿命すら感じたよ。
君からの電話をいつも心待ちにしていたんだ。
でも、君からの電話は来なかった。
僕は居ても立ってもいられずに、君の職場へ押しかけた。
もしもあの時、君に「NO」と言われたら、僕は沙恵を諦めるつもりだった。
でも君は僕の誘いを受け入れてくれた。
本当にありがとう」
「私ね、あの時、すごく嬉しかったの。でも怖かった。
からかわれているのかと思ったから。
だってあなたがあまりに素敵な人だったから」
「沙恵に出会えて、本当に良かったよ」
「私もよ、今、すごくしあわせ」
「結婚を前提に、僕と付き合って欲しい」
「嬉しい・・・。こちらこそ、よろしくお願いします」
不思議だった。「結婚」という言葉を封印して来た私が、まだ出会ったばかりの男性に、一度抱かれただけのこの男に、その申し出を素直に受け入れている自分に。
私たちは再び熱いキスを交わした。
ずっと昔から愛し合っている恋人同士のように。
この日を境に、私の人生は大きく変わろうとしていた。
私は遂に、孤独という寂しさとの決別を果たしたのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
★【完結】ラストワルツ(作品231202)
菊池昭仁
恋愛
地方銀行に勤めるOL、主人公:西條縁(ゆかり)は結婚に焦りを感じていた。上司との不倫が破局し、落ち込む縁。同期の女子行員たちや友人たちが次々と結婚し、しあわせそうな家庭を築いていく中、高まっていく結婚願望。そこで縁は猛然と婚活を開始する。マッチングアプリ、婚活パーティー、お見合いと様々な出会いを求め、三人の男性を候補に挙げた。医者、コック、公務員。それぞれに一長一短があり、なかなか結婚相手を選べない。結婚適齢期も不確定な現代において、女性の立場で考える結婚観と、男性の考える結婚の意識の相違。男女同権が叫ばれる日本でいかに女性が自立することが難しいかを考える物語です。
★【完結】樹氷(作品240107)
菊池昭仁
恋愛
凍結されていた愛が今、燃え上がる。
20年前、傷心旅行で訪れたパリで、奈緒は留学生の画家、西山伊作と恋をした。
そして20年後、ふたりは偶然東京で再会する。
忘れかけていた愛が目の前に現れた時、ふたりの取った行動とは?
★【完結】ダブルファミリー(作品230717)
菊池昭仁
恋愛
結婚とはなんだろう?
生涯1人の女を愛し、ひとつの家族を大切にすることが人間としてのあるべき姿なのだろうか?
手を差し伸べてはいけないのか? 好きになっては、愛してはいけないのか?
結婚と恋愛。恋愛と形骸化した生活。
結婚している者が配偶者以外の人間を愛することを「倫理に非ず」不倫という。
男女の恋愛の意義とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる