【完結】夕凪(作品230822)

菊池昭仁

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第8話

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 翌日、俺は美佐子を連れて徳次郎さんのところへ挨拶にやって来た。

 「徳次郎さーん、おはようございまーす」

 すると徳次郎が家の奥から返事をした。

 「おう、あがれー!」

 徳次郎さんと奥さんが朝食を食べているところだった。

 「八代、そのべっぴんさんは誰だ? 網にかかった人魚か?」
 「美佐子です。俺たち結婚して島で暮らすことにしました」
 「初めまして美佐子です。どうぞよろしくお願いします」
 「八代、おめえも隅におけねえ奴だな?
 漁師としてはまだ半人前のくせに、そっちの方の段取りは出来てんだからよ。あはははは」
 「よかったじゃないかアンタ、またこの島に人が増えて」
 「そりゃそうだ」

 俺たちは嬉しそうに笑った。
 まるで自分の実家の父と母に、結婚の報告に訪れたような気分だった。

 「朝ごはんまだでしょう? 何もないけど食べて行きなよ」
 「ありがとうございます、それじゃ遠慮なく」

 俺と美佐子は徳次郎さん夫婦と家族のように食卓を囲った。



 徳次郎さんたちが美佐子の歓迎会を港町食堂で開いてくれた。


 「よしみんな! 乾杯するぞ!
 島へようこそ、美佐子ちゃん! あんたも今日から俺たちの仲間だ!
 困ったことや、分からないこと、それから八代に虐められたらいつでも俺たちに言え!
 俺たちが八代をしばくからな! あはははは
 それじゃあ、乾杯!」
 「かんぱーい!」


 美佐子はすぐに島のみんなと打ち解けた。


 「えらい美人じゃねえか? 八代、おめえもやるなあ!」

 島で一番仲のいい三郎が、ビール片手に俺と美佐子の傍にやって来た。
 三郎とは同じ歳だったこともあり、何かと島での俺の世話をしてくれていた。
 今の家も三郎の紹介だった。


 「サブちゃん、よろしくな?」
 「美佐子ちゃん、ウチのコウとも仲良くしてやってくれ。
 女房は中国人だ。困ったことや、わからないことがあればいつでも相談してくれ」
 「ありがとう三郎さん。よろしくお願いしますね?」

 美佐子は三郎のグラスにビールを注いだ。


 幸子ママと絵里も話に加わった。

 「こんにちは美佐子さん。ここの店主の幸子と絵里でーす。
 これで島の美人トリオが誕生ね?」

 そう言って幸子たちは笑った。

 「この島には何もないけど、このきれいな海と、この島の人たちの優しい人情があるわ。
 それだけは東京には負けない。
 ね、絵里?」
 「それだけは何処にも負けませんよ。
 私も結婚してこの島でずっと暮らすつもりです」
 「絵里、島の誰と結婚すんだよー!」

 酔った登が言った。

 「安心して、他から連れてくるから。
 島以外のイケメン君をね?」
 「おめえまで島の外からイケメンかよ? そのうち島はかわいい子供たちでいっぱいになっちまうなあ?」
 「そうだ美佐子さん、ウチのお店を手伝ってくれないかしら?
 絵里と私ではもう限界なのよ、よかったらどう? 時給は850円で安いけど、余った食材は持って帰っていいからさあ。現物支給。あはははは」
 「えーっ、いいんですか? 私も何かしなくっちゃって思っていたんです。
 是非雇って下さい」
 「幸子ママ、人使い荒いですよ」
 「こら絵里、余計なことは言わないの」

 みんなが大笑いをした。
 この島は俺たちにとってパラダイスだった。 
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