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第2話
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「銀行、辞めて来たよ・・・」
いつものように泥酔して帰宅した俺は、吐き捨てるように女房の沙織にそう告げた。
「そう? いいんじゃない? それで。
このまま銀行員をしていたら、あなたは人間じゃなくなる。あなたは人じゃない、悪魔よ!」
私はキャビネットからジャックダニエルを取出すと、そのままラッパ飲みをした。
「沙織の言う、通りだ。俺は、悪魔だ、吸血鬼だ。
毎日、毎日、大量出血して、いる、瀕死の、人間から、さらに血を吸い取るのが、俺の仕事だ・・・。
「お父さんを返せ!」「主人を、返して」と、泣き叫ぶ経営者の遺族たち・・・。それよりも、恐ろしい、のは、その悲惨な状況に、何も、何も感じなく、なりつつある、自分だ。
こんな、仕事は、悪魔のやる、仕事だ。人間のする、仕事じゃ、ない・・・」
そして女房は言った。
「ごめんなさい。私、もう限界なの。私は悪魔の妻にはなれない。
渚は私が育てます、離婚して下さい」
別に酔っていたからではないが、私は女房の沙織のその申し出に正直、安堵した。
私はすでに、人間としての感情を失くしていたからだ。
翌朝、妻は小学5年生の娘を連れて家を出て行った。
3日後、私は家の近くの喫茶店に沙織を呼び出した。
「またお酒を飲んでるの?」
「それはもう、お前には関係のないことだ。俺があのマンションから出て行くから、そこでお前と渚が暮らせばいい。
生活費については俺の口座から引き落としてくれ。
一括だと夫婦間贈与になるおそれがあるからな? 渚は元気か?」
「元気よ、渚はいつも私の味方だから。あなたこそこれからどうするの?」
「俺のことは心配するな、ひとりなら何をしても食ってはいける。
今までと同じように、適当に暮らすさ」
私はキャッシュカードとクレジットカードをテーブルに置くと、背広の内ポケットから離婚届の入った茶封筒を取り出し、沙織に渡した。
「サインはしてある。今まで苦労をかけてすまなかった。
君はいい女だ、今度はまともな普通の男でも見つけて人生をやり直してくれ」
「もう結婚も男もたくさん。私は渚と静かに暮らすわ」
目の前の珈琲がどんどん冷めていく。
まるで俺たち夫婦のように。
女房の沙織は離婚届の入った封筒をそのまま握り締め、俯き泣いた。
私は席を立ち、振り返らずに店を出た。
清々しい気分だった。
それは家族から自分が解放されたという喜びではなく、悪魔となった自分から、女房を解放出来たからだった。
私はそのまま、夜の雑踏へ紛れ込んでいった。
雨の中を傘も差さずに。
いつものように泥酔して帰宅した俺は、吐き捨てるように女房の沙織にそう告げた。
「そう? いいんじゃない? それで。
このまま銀行員をしていたら、あなたは人間じゃなくなる。あなたは人じゃない、悪魔よ!」
私はキャビネットからジャックダニエルを取出すと、そのままラッパ飲みをした。
「沙織の言う、通りだ。俺は、悪魔だ、吸血鬼だ。
毎日、毎日、大量出血して、いる、瀕死の、人間から、さらに血を吸い取るのが、俺の仕事だ・・・。
「お父さんを返せ!」「主人を、返して」と、泣き叫ぶ経営者の遺族たち・・・。それよりも、恐ろしい、のは、その悲惨な状況に、何も、何も感じなく、なりつつある、自分だ。
こんな、仕事は、悪魔のやる、仕事だ。人間のする、仕事じゃ、ない・・・」
そして女房は言った。
「ごめんなさい。私、もう限界なの。私は悪魔の妻にはなれない。
渚は私が育てます、離婚して下さい」
別に酔っていたからではないが、私は女房の沙織のその申し出に正直、安堵した。
私はすでに、人間としての感情を失くしていたからだ。
翌朝、妻は小学5年生の娘を連れて家を出て行った。
3日後、私は家の近くの喫茶店に沙織を呼び出した。
「またお酒を飲んでるの?」
「それはもう、お前には関係のないことだ。俺があのマンションから出て行くから、そこでお前と渚が暮らせばいい。
生活費については俺の口座から引き落としてくれ。
一括だと夫婦間贈与になるおそれがあるからな? 渚は元気か?」
「元気よ、渚はいつも私の味方だから。あなたこそこれからどうするの?」
「俺のことは心配するな、ひとりなら何をしても食ってはいける。
今までと同じように、適当に暮らすさ」
私はキャッシュカードとクレジットカードをテーブルに置くと、背広の内ポケットから離婚届の入った茶封筒を取り出し、沙織に渡した。
「サインはしてある。今まで苦労をかけてすまなかった。
君はいい女だ、今度はまともな普通の男でも見つけて人生をやり直してくれ」
「もう結婚も男もたくさん。私は渚と静かに暮らすわ」
目の前の珈琲がどんどん冷めていく。
まるで俺たち夫婦のように。
女房の沙織は離婚届の入った封筒をそのまま握り締め、俯き泣いた。
私は席を立ち、振り返らずに店を出た。
清々しい気分だった。
それは家族から自分が解放されたという喜びではなく、悪魔となった自分から、女房を解放出来たからだった。
私はそのまま、夜の雑踏へ紛れ込んでいった。
雨の中を傘も差さずに。
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