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第六章

4.

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  男性は自己主張が少ない雰囲気だった。
  髪も短すぎず長すぎず、服装は何度も水をくぐった様子が伺えるけれど清潔感のあるシャツ。黒いギャルソンエプロンを付けているのがとてもよく似合っている。
 ギラギラした美貌はないが、安心感のある容姿。中肉中背より気持ち痩せ形。たぶん人によっては好みに当てはまるのだと思うが、目を逸らしたら顔の造作を忘れてしまいそうなさりげなさがあった。
──さりげなく温かい接客、っていうのがプロっぽいな……。
 美里はこれだけ無個性だと、本当に会ったことがある人なのか自信がなくなってきた。
微笑みの作り方も完璧で、ふんわりと彼が笑うだけで心癒される。
──でも、あやかしたちが視えるってことは、この人も同じなんだ。
「……ひょっとして、また何らかの術にかかったとか?」
 知らず知らず美里は初めて出会う人を凝視してしまっているらしい。影がそれに気付いて、それとなく注意してくれたのか。からかわれたのか。
「術にかかるって何……?」
 恥ずかしさと、ムッとしたのとで美里は尖った声を出した。そのすぐ後に、こんなに素直に感情を出せるようになった自分に驚く。
「あの人、これまでと違って善良そうだからな……」
 影は男性を一瞥すると、しかし首を傾げた。
「どちらかと言えば気配が薄すぎるのが気になるぐらいだ」
 美里と影が男性を話題にしていると、「ありがとうございました」と穏やかな声がして、開いたドアから風が吹き抜けていく。
 テーブルの上には、小さな葉に変わり、硬貨が数枚置かれていた。
 束の間開かれたドアから、さらに濃くなった霧が入り込む。
「お客さん、帰ったんですね……」
 美里はつい、男性に話しかけてしまっていた。男性は微笑んで頷く。
「ええ。とても静かな方々なんです」
 言われてみれば、お喋りをしているのは影と美里、それにハツミ叔母さんだけだ。
「……さてと、お客さまも一段落つきましたし、そろそろ入口を閉めましょうか」
 にこやかに微笑んで、男性は空になったカップを集め、洋館の入口に「CLOSED」の札を下げた。
「これで、今日は皆さんだけの貸し切りになりました。これから夕食の支度にかかりますので、先にお部屋に荷物を運びましょうか」
 男性に促され、美里たちは洋館の二階へ案内された。

「お一人一部屋ずつ、お使いください。何かご用がありましたらそちらのお電話で……」
 通された部屋は、ドールハウスのように可愛らしいインテリアだった。花柄のベッドカバーに同じ柄の散ったカーテン。美里は思わず声を上げてしまった。
「かわいい……!」
 男性ははにかみながら、「お隣はもう少しシックなインテリアですので」と教えてくれた。確かに影は部屋の可愛らしさに圧倒されていた。
 別に影が好みならこの部屋を譲っても構わないけど──。
「セイジくん」
 ふいにハツミ叔母さんが呼びかけると、男性はわずかに眉を動かした。穏やかな表情が心持ち曇った気がした。
「はい……」
 すぐに落ち着いた声色に戻ったセイジさんが、返事をしながらハツミ叔母さんを見る。叔母さんは、小さな子どもに向けるようなまなざしをしていた。
「月乃さんは元気だよ」
 え、とセイジさんは顔色を変える。今度はすぐには表情は戻らなかった。
「今の暮らしのことは、伝えてないよ」
 ハツミ叔母さんの声は平板だった
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