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4 ハニークッキー
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しおりを挟む「……え?」
普段、昴に向けられる柔らかくて優しくて温かい声と真逆の――
芯まで凍えてしまいそうな、固い声。
「コレ。他の人に食べさせるために焼いたんだ」
「そ、空くん? あの、お、怒ってる?」
「ええ、怒ってないよ? 喜んでもらえるといいね。いや……大丈夫。だって昴くんの作るクッキーは世界一美味しいからね!
それにしてもはじめてじゃない? 昴くん今の書店に長く働いてるけれど同僚にお菓子を持っていくなんて。そんなに仲良くなったんだ? ねえどんな人? あの髭の店長? 背の高い男? 派手でうるさい女? ねえ昴くんはいったい誰と仲良くなって誰に渡すためにクッキーを作ったの?」
空の声はいつもの柔らかいものに戻っていた。
表情も薄く微笑んで、目尻を優しく下げている。
それなのに昴の胸はドクドクと心拍を早くする。今すぐ床に跪いて空に謝罪の言葉を叫びたくなった。けれど、いったい何を言えば正解なのか検討がつかなかった。
「な、仲良く、なったというか……話しをしていて……その……全然…………」
「……」
「そ、そらくん?」
思わず縋るように手を伸ばして、それは空に届かない。
……今、避けられた?
「うん。今日はもう休もうか! 昴くんもお風呂入っておいで?」
「空くん、あの」
「ごめんね、俺、やることが出来たから行くね。お風呂から出たら髪乾かしてから寝るんだよ?」
「そらくん、ま……まって」
カタカタと震えながら青ざめる昴を見て、空はいつも通り笑った。けれど昴の身体を温めるように抱きしめることはせず、踵を返して玄関へと足を進める。追いかけようとしたけれど、足に根が生えたように昴は動くことが出来ない。
はくはくと口を動かして――玄関のドアと、鍵が閉まる音が静かに響いた。
「そらくん、そらくん――」
一人になった部屋で、昴のか細い声が落ちる。拾う人はいない。
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