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第1章 エステルハージ侯爵家を狙う罠
第6話 みーちゃんとカシウス殿下
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バルダザール伯が拘束され連行された後。
マリナもライハートにエスコートされ、主を失ったバルダザール伯邸へと帰った。
エステルハージ侯爵家の応接室には、アリーシア、お父さま、カシウス殿下の三人が残される。
「私の命のみならず、エステルハージ侯爵家も守って頂き、本当にありがとうございます」
「……帝国の益になる行動をとったまでだ。それに、貴公の策だったのだろう? そなたの娘からそう聞いたが?」
カシウス皇子がちらりとアリーシアの方を見る。
「? それは、どういう……」
意味がわからず怪訝な顔するお父さま。
もちろん何も知らないのだから仕方がない。
「お、お父さま! 今回のお仕事は西の王国との交渉だったのでしょう? そこで、賊に襲われたと聞きました」
「ん? そうだ。夜盗の格好をしていたが、間違いなく正規の訓練を受けた者たちだった。殿下が駆けつけてくださらなければ、危なかっただろう」
「お父さまが無事で、本当に良かったです! カシウス殿下、やっぱり、西の王国が犯人なのでしょうか?」
「……確実な証拠は見つかっていないが、おそらくは。ただ、帝国内にも手引きした者がいる」
殿下の視線が痛いが、なんとか強引に話題を変える。
「まさか弟が、わが家を乗っ取るために、西の王国と手を結ぶとは」
「バルダザール伯が主犯と考えるには、大掛かりすぎる……真相を調べるために、貴公にも働いてもらうぞ」
「このご恩に報いるためにも、帝国のため、カシウス殿下のため、力を尽くします!」
なんとか追及を逃れ、アリーシアはほっと息を吐くのだった。
その後、殿下とお父さまは今後の込み入った話をするとのことで、アリーシアは先に自室に戻った。
そこでやっと肩の力を抜き、ベッドへと身を投げ出す。
そして、手に持っていた袋の中からみーちゃんを取り出した。
「あー、やっと外に出れた。作戦は大成功ね!」
「窮屈な思いをさせてごめんね。ありがとう、みーちゃんのおかげよ!」
アリーシアはみーちゃんを胸に抱きしめる。
どうすればよいのか、とっかかりがなかったアリーシアに、「カシウス殿下に助けてもらおう!」とみーちゃんが言ってくれた。
そして、カシウス殿下が執務している邸宅への抜け道。内密にカシウス殿下に出会う方法をみーちゃんが教えてくれたから、この作戦を実行することができた。
父の生存を伏せてバルダザール伯をおびき出す部分はアリーシアのアレンジだったが、ここまでうまくいくとは。
「みーちゃんはアリーシアの守護霊さまなんだから、当たり前よ!」
アリーシアの胸にうずもれたみーちゃんも得意げに胸をそらせる。
「カシウス殿下も、私の言うことを聞いてくれるなんて」
「それはアリーシアが頑張ったから!」
たしかに、昔の自分だったら、第一皇子に直接会えたところで、うつむいて何も話すことはできなかっただろう。
(娘が、みーちゃんを通して私に力を与えてくれている)
そう考えると、とても心強く、なんでもできそうな気になってくる。
「それに、秘密の抜け穴を教えてくれたのは、おと……じゃなかった、カシウス殿下だもの」
「カシウス殿下が?」
「もちろん、今のカシウス殿下じゃなくって、皇帝になった未来のカシウス陛下だけどね!」
「え、陛下が?」
前世の陛下とは言葉を交わした回数もわずか。何を考えているかわからない人だった。
常に無表情で、笑いかけてくれたことなど一度もない。
(無表情なのは今も一緒だけど……)
でも今は無表情の中でも少し感情や考えが分かるような気がする。
皇妃の時は陛下を怒らせてはいけないと常にびくびくしていた。
本当の陛下のことを見ていなかっただけなのかもしれない。
それより、みーちゃんの言葉で気になることがある。
「みーちゃん、未来の陛下に会ったことがあるの? 行方不明になったはずなのに!」
巻き戻る前の記憶では陛下は行方不明と聞かされていた。
(私の処刑を取り仕切ったのも、代わりに即位した第二皇子だった)
「それは……その、みーちゃんは守護霊だから、いつなのかはよくわかんない! でも、未来の陛下に会ったのは本当よ!」
「うーん……」
もう力が残っていないとはいえ、みーちゃんが時間を巻き戻したからこそ今があるのだ。
(もしかしたら、時間を遡る途中で、まだ生きている陛下に会ったのかな? 私のことには関心がなかったと思いこんでいたけど、本当はそうじゃなかったのかも……)
――みーちゃんだけじゃなく、陛下も運命を変えるためについてくれている。
そう考えると、アリーシアの胸はじんわりと温かくなってくる。
「それで、この後どうしようか?」
「もうすぐデビュタントでしょう? そこで、カシウス殿下とは結ばれるんだから、後は殿下に任せればだいじょーぶ! それでどーんと解決よ!」
――なるほど、たしかにそうかもしれない。
前世で誰も伴わずにデビュタントに参加したアリーシアは、カシウス殿下に初めて出会った。
その後、アリーシアは皇妃としてカシウス殿下から指名されたのだ。
だが、まだバルダザール伯の背後にいる者たちの正体をつかめていないし、処刑の時に第二皇子の側にいた、ライハート卿のことも気になる。
まだまだアリーシアと娘であるミーシャの敵を排除できたとは言えない状況だ。
「殿下にばっかり頼ってちゃダメよね。私も頑張らないと――」
コンコン
その時、ドアをノックする音が響く。
「カシウスだ、少し話をしたい」
「カ、カシウス殿下!? 少しお待ちください!」
あわててベットから飛び起き、簡単に服装の乱れを直す。
「ど、どうぞ!」
カシウスを招き入れ、メイドに頼んでお茶を運んでもらう。
静かにお茶を飲むカシウス。
しばらく気まずい沈黙が流れた後、カシウスが口をひらく。
「……先ほど、部屋に入る前、誰かと話していなかったか?」
「えっ!? それは、独り言です! 私、独り言のくせがあって!」
みーちゃんとの話を聞かれたようだが、ごまかすしかない。
「子供のような高い声が聞こえたのだが……」
「そ、それは……ほら、独り言の時に、おままごとみたいに声をかえて話すのです。
おほほほほ……」
ムリに甲高い声を出してみるが、カシウス殿下は無表情のままだった。
「………………まあいいだろう。では、今回の作戦、本当は誰が考えたんだ? エステルハージ侯は邸宅の抜け穴のことも知らなかったぞ」
「……………………」
(未来のあなたです!)
と言えたら楽だが、そういうわけにはいかない。
言葉に詰まったアリーシアを横目に、カシウスはおもむろに立ち上がる。
そして、ベットの上に座っていたみーちゃんを持ち上げた。
「この人形……東国に伝わる呪いの力を感じる。そなたの母親はわたしの母と同じ東国の出。東国の者から指示を受けているのか?」
「ち、違います! 違いますけど……」
(まさか、みーちゃんのことが見破られてるなんて!)
「東国の呪術は帝国にとって禁忌の力だ。露見すれば、そなただけでなく、エステルハージ侯もただではすまない」
「お、お父様は関係ありません! 私が――」
「私が?」
そこで言葉に詰まる。
(どうすれば、わかってもらえるの)
――今のカシウス殿下に本当のことを言って理解してもらえるだろうか。
前回、作戦を聞きいれてくれたのは理にかなっていたからこそ。
死に戻りの話はあまりに現実感がなさすぎる。
「こらーーーっ! アリーシアをいじめるなーーっ!」
ふたりの沈黙を、みーちゃんの声が破った。
「み、みーちゃん!?」
カシウス殿下もさすがに驚いたのか、目がわずかに見開かれる。
「……これは……呪いの力なのか?」
「そのとーり! わたしがアリーシアの首飾りに宿った精霊、みーちゃんよ!」
みーちゃんは、止める間もなく、カシウス殿下に自分のことを話しだす。
いわく、もともとは自分が母親の形見である首飾りに宿っていた精霊であること。
アリーシアの危機を助けるため、人形にその身を移し替えたこと。
そして、確実ではないが未来を知ることができることを。
「なるほど、たしか東国には神託という形で未来を知る方法があると聞いたことがある」
「そう、それそれ! さすがカシウス殿下はよく知ってるね!」
第一皇子相手でも、みーちゃんは砕けた口調のままで、カシウス殿下もそれをとがめることはない。
気安くカシウス皇子と話せるみーちゃんが少し、うらやましい。
「カシウス殿下、みーちゃんのことは私の責任です。どうかこのことは……」
「……帝国に害をなすつもりがないなら、問題ないだろう。禁忌ではあるが、使おうとして使ったわけではないしな」
「では!」
「だが、陛下に知られては一大事だ。他の者がいるときには力を使ってはならぬ。気づくものが出てきてもおかしくないからな」
「は、はい。わかりました!」
そう言ってカシウス殿下は扉へと向かう。
「では、また来る」
「えっ、またいらっしゃるのですか?」
思わず聞き返してしまうが、不敬にあたっただろうか?
「なんだ、来てほしくないのか?」
「い、いえ、もちろん大歓迎です!」
また来てほしいというのは本心からの言葉だ。だが、まだある隠し事ががバレないかがどうしても気になってしまう。
「私はそなたの後見人になったのだ。それに、その人形……みーちゃんの話も興味深い」
「そ、それは……ありがとうございます」
「うん、また来てね!」
カシウス殿下から「みーちゃん」という言葉が出てくるとは。
表情はいつものまま崩れていなかったが、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいるようにアリーシアには感じじられた。
こうして、カシウス殿下も去り、嵐のような一日は終わった。
お父さまは助かり、マリナ一家によるエステルハージ侯爵家の乗っ取りも防いだ。
(カシウス殿下にみーちゃんのことを知られてしまったけど、秘密にしてもらえたし、むしろ良かったかも)
すべては順調に進んでいる……アリーシアはそう思っていた。
父親から、アリーシア自身の婚約を聞かされるまでは。
マリナもライハートにエスコートされ、主を失ったバルダザール伯邸へと帰った。
エステルハージ侯爵家の応接室には、アリーシア、お父さま、カシウス殿下の三人が残される。
「私の命のみならず、エステルハージ侯爵家も守って頂き、本当にありがとうございます」
「……帝国の益になる行動をとったまでだ。それに、貴公の策だったのだろう? そなたの娘からそう聞いたが?」
カシウス皇子がちらりとアリーシアの方を見る。
「? それは、どういう……」
意味がわからず怪訝な顔するお父さま。
もちろん何も知らないのだから仕方がない。
「お、お父さま! 今回のお仕事は西の王国との交渉だったのでしょう? そこで、賊に襲われたと聞きました」
「ん? そうだ。夜盗の格好をしていたが、間違いなく正規の訓練を受けた者たちだった。殿下が駆けつけてくださらなければ、危なかっただろう」
「お父さまが無事で、本当に良かったです! カシウス殿下、やっぱり、西の王国が犯人なのでしょうか?」
「……確実な証拠は見つかっていないが、おそらくは。ただ、帝国内にも手引きした者がいる」
殿下の視線が痛いが、なんとか強引に話題を変える。
「まさか弟が、わが家を乗っ取るために、西の王国と手を結ぶとは」
「バルダザール伯が主犯と考えるには、大掛かりすぎる……真相を調べるために、貴公にも働いてもらうぞ」
「このご恩に報いるためにも、帝国のため、カシウス殿下のため、力を尽くします!」
なんとか追及を逃れ、アリーシアはほっと息を吐くのだった。
その後、殿下とお父さまは今後の込み入った話をするとのことで、アリーシアは先に自室に戻った。
そこでやっと肩の力を抜き、ベッドへと身を投げ出す。
そして、手に持っていた袋の中からみーちゃんを取り出した。
「あー、やっと外に出れた。作戦は大成功ね!」
「窮屈な思いをさせてごめんね。ありがとう、みーちゃんのおかげよ!」
アリーシアはみーちゃんを胸に抱きしめる。
どうすればよいのか、とっかかりがなかったアリーシアに、「カシウス殿下に助けてもらおう!」とみーちゃんが言ってくれた。
そして、カシウス殿下が執務している邸宅への抜け道。内密にカシウス殿下に出会う方法をみーちゃんが教えてくれたから、この作戦を実行することができた。
父の生存を伏せてバルダザール伯をおびき出す部分はアリーシアのアレンジだったが、ここまでうまくいくとは。
「みーちゃんはアリーシアの守護霊さまなんだから、当たり前よ!」
アリーシアの胸にうずもれたみーちゃんも得意げに胸をそらせる。
「カシウス殿下も、私の言うことを聞いてくれるなんて」
「それはアリーシアが頑張ったから!」
たしかに、昔の自分だったら、第一皇子に直接会えたところで、うつむいて何も話すことはできなかっただろう。
(娘が、みーちゃんを通して私に力を与えてくれている)
そう考えると、とても心強く、なんでもできそうな気になってくる。
「それに、秘密の抜け穴を教えてくれたのは、おと……じゃなかった、カシウス殿下だもの」
「カシウス殿下が?」
「もちろん、今のカシウス殿下じゃなくって、皇帝になった未来のカシウス陛下だけどね!」
「え、陛下が?」
前世の陛下とは言葉を交わした回数もわずか。何を考えているかわからない人だった。
常に無表情で、笑いかけてくれたことなど一度もない。
(無表情なのは今も一緒だけど……)
でも今は無表情の中でも少し感情や考えが分かるような気がする。
皇妃の時は陛下を怒らせてはいけないと常にびくびくしていた。
本当の陛下のことを見ていなかっただけなのかもしれない。
それより、みーちゃんの言葉で気になることがある。
「みーちゃん、未来の陛下に会ったことがあるの? 行方不明になったはずなのに!」
巻き戻る前の記憶では陛下は行方不明と聞かされていた。
(私の処刑を取り仕切ったのも、代わりに即位した第二皇子だった)
「それは……その、みーちゃんは守護霊だから、いつなのかはよくわかんない! でも、未来の陛下に会ったのは本当よ!」
「うーん……」
もう力が残っていないとはいえ、みーちゃんが時間を巻き戻したからこそ今があるのだ。
(もしかしたら、時間を遡る途中で、まだ生きている陛下に会ったのかな? 私のことには関心がなかったと思いこんでいたけど、本当はそうじゃなかったのかも……)
――みーちゃんだけじゃなく、陛下も運命を変えるためについてくれている。
そう考えると、アリーシアの胸はじんわりと温かくなってくる。
「それで、この後どうしようか?」
「もうすぐデビュタントでしょう? そこで、カシウス殿下とは結ばれるんだから、後は殿下に任せればだいじょーぶ! それでどーんと解決よ!」
――なるほど、たしかにそうかもしれない。
前世で誰も伴わずにデビュタントに参加したアリーシアは、カシウス殿下に初めて出会った。
その後、アリーシアは皇妃としてカシウス殿下から指名されたのだ。
だが、まだバルダザール伯の背後にいる者たちの正体をつかめていないし、処刑の時に第二皇子の側にいた、ライハート卿のことも気になる。
まだまだアリーシアと娘であるミーシャの敵を排除できたとは言えない状況だ。
「殿下にばっかり頼ってちゃダメよね。私も頑張らないと――」
コンコン
その時、ドアをノックする音が響く。
「カシウスだ、少し話をしたい」
「カ、カシウス殿下!? 少しお待ちください!」
あわててベットから飛び起き、簡単に服装の乱れを直す。
「ど、どうぞ!」
カシウスを招き入れ、メイドに頼んでお茶を運んでもらう。
静かにお茶を飲むカシウス。
しばらく気まずい沈黙が流れた後、カシウスが口をひらく。
「……先ほど、部屋に入る前、誰かと話していなかったか?」
「えっ!? それは、独り言です! 私、独り言のくせがあって!」
みーちゃんとの話を聞かれたようだが、ごまかすしかない。
「子供のような高い声が聞こえたのだが……」
「そ、それは……ほら、独り言の時に、おままごとみたいに声をかえて話すのです。
おほほほほ……」
ムリに甲高い声を出してみるが、カシウス殿下は無表情のままだった。
「………………まあいいだろう。では、今回の作戦、本当は誰が考えたんだ? エステルハージ侯は邸宅の抜け穴のことも知らなかったぞ」
「……………………」
(未来のあなたです!)
と言えたら楽だが、そういうわけにはいかない。
言葉に詰まったアリーシアを横目に、カシウスはおもむろに立ち上がる。
そして、ベットの上に座っていたみーちゃんを持ち上げた。
「この人形……東国に伝わる呪いの力を感じる。そなたの母親はわたしの母と同じ東国の出。東国の者から指示を受けているのか?」
「ち、違います! 違いますけど……」
(まさか、みーちゃんのことが見破られてるなんて!)
「東国の呪術は帝国にとって禁忌の力だ。露見すれば、そなただけでなく、エステルハージ侯もただではすまない」
「お、お父様は関係ありません! 私が――」
「私が?」
そこで言葉に詰まる。
(どうすれば、わかってもらえるの)
――今のカシウス殿下に本当のことを言って理解してもらえるだろうか。
前回、作戦を聞きいれてくれたのは理にかなっていたからこそ。
死に戻りの話はあまりに現実感がなさすぎる。
「こらーーーっ! アリーシアをいじめるなーーっ!」
ふたりの沈黙を、みーちゃんの声が破った。
「み、みーちゃん!?」
カシウス殿下もさすがに驚いたのか、目がわずかに見開かれる。
「……これは……呪いの力なのか?」
「そのとーり! わたしがアリーシアの首飾りに宿った精霊、みーちゃんよ!」
みーちゃんは、止める間もなく、カシウス殿下に自分のことを話しだす。
いわく、もともとは自分が母親の形見である首飾りに宿っていた精霊であること。
アリーシアの危機を助けるため、人形にその身を移し替えたこと。
そして、確実ではないが未来を知ることができることを。
「なるほど、たしか東国には神託という形で未来を知る方法があると聞いたことがある」
「そう、それそれ! さすがカシウス殿下はよく知ってるね!」
第一皇子相手でも、みーちゃんは砕けた口調のままで、カシウス殿下もそれをとがめることはない。
気安くカシウス皇子と話せるみーちゃんが少し、うらやましい。
「カシウス殿下、みーちゃんのことは私の責任です。どうかこのことは……」
「……帝国に害をなすつもりがないなら、問題ないだろう。禁忌ではあるが、使おうとして使ったわけではないしな」
「では!」
「だが、陛下に知られては一大事だ。他の者がいるときには力を使ってはならぬ。気づくものが出てきてもおかしくないからな」
「は、はい。わかりました!」
そう言ってカシウス殿下は扉へと向かう。
「では、また来る」
「えっ、またいらっしゃるのですか?」
思わず聞き返してしまうが、不敬にあたっただろうか?
「なんだ、来てほしくないのか?」
「い、いえ、もちろん大歓迎です!」
また来てほしいというのは本心からの言葉だ。だが、まだある隠し事ががバレないかがどうしても気になってしまう。
「私はそなたの後見人になったのだ。それに、その人形……みーちゃんの話も興味深い」
「そ、それは……ありがとうございます」
「うん、また来てね!」
カシウス殿下から「みーちゃん」という言葉が出てくるとは。
表情はいつものまま崩れていなかったが、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいるようにアリーシアには感じじられた。
こうして、カシウス殿下も去り、嵐のような一日は終わった。
お父さまは助かり、マリナ一家によるエステルハージ侯爵家の乗っ取りも防いだ。
(カシウス殿下にみーちゃんのことを知られてしまったけど、秘密にしてもらえたし、むしろ良かったかも)
すべては順調に進んでいる……アリーシアはそう思っていた。
父親から、アリーシア自身の婚約を聞かされるまでは。
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