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第3章『女王陛下と剣聖』
第63話「辺境への旅⑧…疑念」
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「話はわかりました。協力はします」
クレールとて金貨2千枚をぽんと出せるわけではない。
元はオルビアの公爵だから、ある程度の私財は持っている。しかし、金貨2千枚となると右から左というわけには行かなかった。
ただ、『金貨2千枚相当』で良いなら手持ちの品で賄える。
バジーリオから贈られた魔法の刀なら、金貨2千枚どころの値打ちじゃない。それを大きく超える価値がある。
人助けの為と言えばバジーリオも納得するし、むしろ喜んでさえくれるはずだ。
「……あ、あ、ありがとう! う、ううっ」
クラウスにしても、これで即座に解決するとは思っていない。
望まない結果を導いたとしても、恨んだりは絶対にしない。今までの経緯を考えれば優しい弟に拒絶される可能性だってあったのだ。
そういう風に覚悟をしていた部分もあった。
こうなる事を大方の予測で分かり切ってはいたが、それでもこうなった事を本心から有難く思って、思わず涙が溢れて来ている。
これには、さすがにフローラも、このクラウスの態度が演技だとは思えないでいる。
騙すつもりだとしたら、相当な役者と言う事になるが、彼女の知るクラウスとは人物像が異なる。異質と言っても良いくらいだ。
しかしながら、未だ疑念は払拭できてはいない。
けれども、『もし本当なら?』というような想いも生まれてきていた。
「ただ兄上、焦る気持ちも分かります。でも、この件はちゃんと調べた方がいいと思います」
クラリスの言い分が出任せか、或いは間違いなら、クレールにとっても場合によっては朗報となる。
プリシラのせいでフローラが酷い目に遭ったことは、クレールも許せない想いはあったが、しかし、もしプリシラが存命だったなら助けてやりたいと思う気持ちもある。しかも自分なら救えると思えたなら、この剣聖クレールの性格からすると、そうしない事のほうがよっぽど有り得ない。
ただそれでも、冷静さには欠けていなかった。
「あ、ああ。つい気が急いてしまったが、でも……どうやって?」
フロキに恩義を感じているクラウスでは、思いつくのは難しい。
そもそもフロキを疑っていないのだから。
「私に任せてもらえますか? プリシラは姪でもあります」
「分かっている。この期に及んで、そなたを疑ったりするものか。そんなつもりならここへは来ていない」
「では……兄上は普段通りにしていてください」
「わかった。心配は要らないだろうが気を付けてくれ。そなたも大事な弟だ……」
何度か頭を下げた後、クラウスは何時ものように仕事をする為に、この場を去って行った。
クラウスが去った後、しばらく沈黙がこの部屋を支配していた。
どう言うべきか迷いはしたが、フローラはこう言って声を掛けてみる事にした。
「俄かには信じられませんが……」
「お気持ちは分かります。まずは相手の素性を調べてみませんと……」
「そうですね。兄君のご様子から、嘘を言っているようには思えませんでした。もし不安な気持ちに付け込んで騙す者が居るなら許せません」
「同感です。兄上は過去に取り返しのつかない過ちを犯しましたが、だからといって騙して良い理由にはなりません。もし騙されているなら手段は卑劣極まりないものです」
フローラは素直に頷いていた。
とにかくやり方が卑劣すぎると、フローラも心で強く感じていたのだ。
「申し訳ありませんがフローラさまは……」
「分かっていますよ。私はここで待っていますから」
調べ事をするなら一人の方が何かと都合が良い。
それに少なからず危険も伴うからと、クレールは一人で行動するつもりでいた。
(もしも兄上を騙しているなら許さんぞ。プリシラの死を穢す者が居るなら……斬り捨てる!!)
*****
フロキの兄貴の運命は!(´ー+`)
*****
クレールとて金貨2千枚をぽんと出せるわけではない。
元はオルビアの公爵だから、ある程度の私財は持っている。しかし、金貨2千枚となると右から左というわけには行かなかった。
ただ、『金貨2千枚相当』で良いなら手持ちの品で賄える。
バジーリオから贈られた魔法の刀なら、金貨2千枚どころの値打ちじゃない。それを大きく超える価値がある。
人助けの為と言えばバジーリオも納得するし、むしろ喜んでさえくれるはずだ。
「……あ、あ、ありがとう! う、ううっ」
クラウスにしても、これで即座に解決するとは思っていない。
望まない結果を導いたとしても、恨んだりは絶対にしない。今までの経緯を考えれば優しい弟に拒絶される可能性だってあったのだ。
そういう風に覚悟をしていた部分もあった。
こうなる事を大方の予測で分かり切ってはいたが、それでもこうなった事を本心から有難く思って、思わず涙が溢れて来ている。
これには、さすがにフローラも、このクラウスの態度が演技だとは思えないでいる。
騙すつもりだとしたら、相当な役者と言う事になるが、彼女の知るクラウスとは人物像が異なる。異質と言っても良いくらいだ。
しかしながら、未だ疑念は払拭できてはいない。
けれども、『もし本当なら?』というような想いも生まれてきていた。
「ただ兄上、焦る気持ちも分かります。でも、この件はちゃんと調べた方がいいと思います」
クラリスの言い分が出任せか、或いは間違いなら、クレールにとっても場合によっては朗報となる。
プリシラのせいでフローラが酷い目に遭ったことは、クレールも許せない想いはあったが、しかし、もしプリシラが存命だったなら助けてやりたいと思う気持ちもある。しかも自分なら救えると思えたなら、この剣聖クレールの性格からすると、そうしない事のほうがよっぽど有り得ない。
ただそれでも、冷静さには欠けていなかった。
「あ、ああ。つい気が急いてしまったが、でも……どうやって?」
フロキに恩義を感じているクラウスでは、思いつくのは難しい。
そもそもフロキを疑っていないのだから。
「私に任せてもらえますか? プリシラは姪でもあります」
「分かっている。この期に及んで、そなたを疑ったりするものか。そんなつもりならここへは来ていない」
「では……兄上は普段通りにしていてください」
「わかった。心配は要らないだろうが気を付けてくれ。そなたも大事な弟だ……」
何度か頭を下げた後、クラウスは何時ものように仕事をする為に、この場を去って行った。
クラウスが去った後、しばらく沈黙がこの部屋を支配していた。
どう言うべきか迷いはしたが、フローラはこう言って声を掛けてみる事にした。
「俄かには信じられませんが……」
「お気持ちは分かります。まずは相手の素性を調べてみませんと……」
「そうですね。兄君のご様子から、嘘を言っているようには思えませんでした。もし不安な気持ちに付け込んで騙す者が居るなら許せません」
「同感です。兄上は過去に取り返しのつかない過ちを犯しましたが、だからといって騙して良い理由にはなりません。もし騙されているなら手段は卑劣極まりないものです」
フローラは素直に頷いていた。
とにかくやり方が卑劣すぎると、フローラも心で強く感じていたのだ。
「申し訳ありませんがフローラさまは……」
「分かっていますよ。私はここで待っていますから」
調べ事をするなら一人の方が何かと都合が良い。
それに少なからず危険も伴うからと、クレールは一人で行動するつもりでいた。
(もしも兄上を騙しているなら許さんぞ。プリシラの死を穢す者が居るなら……斬り捨てる!!)
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フロキの兄貴の運命は!(´ー+`)
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