75 / 77
第3章『女王陛下と剣聖』
第61話「辺境への旅⑥…欲の皮」
しおりを挟む
「へい! らっしゃい!!」
「よう! オークの旦那」
クラウスの露店にあのフロキが顔を出していた。
この村を仕切っているチンピラで、クラウスの依頼でプリシラの行方を探している事になっている。
今日も上納金と捜索費用の徴収にやって来ていた。
ただ、今日はいつもと様子が違っていた。
「あ、フロキさん。どうも!」
クラウスの中では、フロキは頼れる顔役のような存在になっていた。
まさかずっと騙されたままだとは、毛ほども思っていない。
「いい知らせがあるんだ。あんたの娘が見つかったかもしれないぜ」
無意識だろうが、フロキは胡散臭さ満点の顔をしている。
顔なじみで無ければ、この顔つきだけでも人を遠ざける。
そんな感じの嫌な表情をして、クラウスにプリシラが見つかったと報告をした。
「お、おお……本当ですか?」
ここ数か月ずっと探していたのだ。
思わずフロキに掴み掛かろうとする衝動を、クラウスはとっさに抑えていた。
「ああ、今度は間違いねえ。やっと見つけたぜ……」
「あ、ああ……! 経費……金は足りていますか! 幾らでも払いますから!!」
このクラウスの台詞には、フロキも忍び笑いを堪えられなかった。
大声を出して笑い飛ばしてやりたい。
フロキはそういう風に思いながらも、用件を口にしはじめた。
「ああ、あんたの所に顔を出したのも、経費が不足してきたからなんだ」
「は、はい! じゃ、じゃあ―――」
露店の売り上げを渡そうとしたが、フロキはそれを制して、こう言ってきた。
「いやいや、旦那。それじゃちょっとな……」
「ええと、じゃあ家に戻れば蓄えが……」
「金貨で2千枚だ。揃えられるか?」
吹っ掛けるにも程がある。
フロキはとんでもない金額を要求してきた。
「そ、そんなには……」
こう言うのがやっとだった。
余りにも法外すぎてクラウスは考えがまとまらなかった。
どう対応をすればいいのか見当もつかない。
クラウスが王だったときならともかく、今の彼に金貨2千枚はハードルが高すぎた。
だが、フロキは金貨2千枚相当の資産を奪い取ろうと狙っている。
少なくともこのチンピラには、クラウスには、その程度の財産があると踏んでいた。
今日はそれを根こそぎ奪おうとやってきたわけだ。
「現金では無理だろうな。でも……あるだろ? 相応の物がよ」
「え……?」
クラウスには思い当たるものは無かった。
当然だ。
彼の財産は蓄えた金銭だけなのだから。
それと強いて言うなら、頭のニラと胸毛のドリアンくらいだろう。
「おいおい。娘の命が掛かってるんだぜ?」
フロキの表情が徐々に険しくなってきている。
さっさと話を進めて大金をせしめたいのに、イライラさせるなと心の中ではそう思っている。
しかし、フロキにしてもここは正念場だった。
上手くやれれば一発逆転できる。人生の勝ち組になれると、このチンピラは必死に自分を抑えているのだ。
「ど、どういう事ですか……!」
『命に関わる』などと言われれば必死にもなる。クラウスは、思わず声を荒げて大声を張り上げた。
周囲の露店の主や村人たちは、『またフロキかよ』と、そんな目で見つめている。フロキの悪評は皆が知る所だが、かと言って迂闊に逆らえる相手でもない。
村人や行商人たちは見て見ぬふりをしているのだ。
皆がクラウスが騙されていると知っていた。
「気持ちは分かるが騒ぐな。いいか? あんたの娘が人買いに連れられて他国に売られるんだよ。それを買い戻すのに大金がいるんだ」
「そ、そんな……で、でも金貨2千枚なんて……」
「今日中にとは言わねえよ。でも急がねえと娘がどうなっても知らねえぜ? 三日後にまた来るから金を用意しておくんだな」
それだけ言うとフロキは足早に去って行った。
残されたクラウスは、ただ茫然とするしか無かった。
クラウスの手持ちは金貨が数枚あるだけだ。
定期的にフロキがやってきては、やれ上納金だとか、プリシラの捜索費用だとか言っては、売り上げをごっそり巻き上げていく。
(クレールに相談するしかない。今更こんな事を頼めるものではないが……恥を忍んで話を聞いてもらうしか……)
何より娘の命が懸かっているから。
クラウスは引き換えに何を失おうとも、プリシラを助けたいと思っている。
その為にクレールに打ち明ける決意を固めていた。
*****
悪者はやっつけないと(´ー+`)
*****
「よう! オークの旦那」
クラウスの露店にあのフロキが顔を出していた。
この村を仕切っているチンピラで、クラウスの依頼でプリシラの行方を探している事になっている。
今日も上納金と捜索費用の徴収にやって来ていた。
ただ、今日はいつもと様子が違っていた。
「あ、フロキさん。どうも!」
クラウスの中では、フロキは頼れる顔役のような存在になっていた。
まさかずっと騙されたままだとは、毛ほども思っていない。
「いい知らせがあるんだ。あんたの娘が見つかったかもしれないぜ」
無意識だろうが、フロキは胡散臭さ満点の顔をしている。
顔なじみで無ければ、この顔つきだけでも人を遠ざける。
そんな感じの嫌な表情をして、クラウスにプリシラが見つかったと報告をした。
「お、おお……本当ですか?」
ここ数か月ずっと探していたのだ。
思わずフロキに掴み掛かろうとする衝動を、クラウスはとっさに抑えていた。
「ああ、今度は間違いねえ。やっと見つけたぜ……」
「あ、ああ……! 経費……金は足りていますか! 幾らでも払いますから!!」
このクラウスの台詞には、フロキも忍び笑いを堪えられなかった。
大声を出して笑い飛ばしてやりたい。
フロキはそういう風に思いながらも、用件を口にしはじめた。
「ああ、あんたの所に顔を出したのも、経費が不足してきたからなんだ」
「は、はい! じゃ、じゃあ―――」
露店の売り上げを渡そうとしたが、フロキはそれを制して、こう言ってきた。
「いやいや、旦那。それじゃちょっとな……」
「ええと、じゃあ家に戻れば蓄えが……」
「金貨で2千枚だ。揃えられるか?」
吹っ掛けるにも程がある。
フロキはとんでもない金額を要求してきた。
「そ、そんなには……」
こう言うのがやっとだった。
余りにも法外すぎてクラウスは考えがまとまらなかった。
どう対応をすればいいのか見当もつかない。
クラウスが王だったときならともかく、今の彼に金貨2千枚はハードルが高すぎた。
だが、フロキは金貨2千枚相当の資産を奪い取ろうと狙っている。
少なくともこのチンピラには、クラウスには、その程度の財産があると踏んでいた。
今日はそれを根こそぎ奪おうとやってきたわけだ。
「現金では無理だろうな。でも……あるだろ? 相応の物がよ」
「え……?」
クラウスには思い当たるものは無かった。
当然だ。
彼の財産は蓄えた金銭だけなのだから。
それと強いて言うなら、頭のニラと胸毛のドリアンくらいだろう。
「おいおい。娘の命が掛かってるんだぜ?」
フロキの表情が徐々に険しくなってきている。
さっさと話を進めて大金をせしめたいのに、イライラさせるなと心の中ではそう思っている。
しかし、フロキにしてもここは正念場だった。
上手くやれれば一発逆転できる。人生の勝ち組になれると、このチンピラは必死に自分を抑えているのだ。
「ど、どういう事ですか……!」
『命に関わる』などと言われれば必死にもなる。クラウスは、思わず声を荒げて大声を張り上げた。
周囲の露店の主や村人たちは、『またフロキかよ』と、そんな目で見つめている。フロキの悪評は皆が知る所だが、かと言って迂闊に逆らえる相手でもない。
村人や行商人たちは見て見ぬふりをしているのだ。
皆がクラウスが騙されていると知っていた。
「気持ちは分かるが騒ぐな。いいか? あんたの娘が人買いに連れられて他国に売られるんだよ。それを買い戻すのに大金がいるんだ」
「そ、そんな……で、でも金貨2千枚なんて……」
「今日中にとは言わねえよ。でも急がねえと娘がどうなっても知らねえぜ? 三日後にまた来るから金を用意しておくんだな」
それだけ言うとフロキは足早に去って行った。
残されたクラウスは、ただ茫然とするしか無かった。
クラウスの手持ちは金貨が数枚あるだけだ。
定期的にフロキがやってきては、やれ上納金だとか、プリシラの捜索費用だとか言っては、売り上げをごっそり巻き上げていく。
(クレールに相談するしかない。今更こんな事を頼めるものではないが……恥を忍んで話を聞いてもらうしか……)
何より娘の命が懸かっているから。
クラウスは引き換えに何を失おうとも、プリシラを助けたいと思っている。
その為にクレールに打ち明ける決意を固めていた。
*****
悪者はやっつけないと(´ー+`)
*****
0
お気に入りに追加
5,000
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる