うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

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第3章『女王陛下と剣聖』

第56話「辺境への旅①…荒野の二人」

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 ……ハッ!!
 な、なんだ? 何故このような状況に……?

 クレールが意識を取り戻すと、フローラの膝を枕にする天国の中にいることが発覚した。たちまちクレールの心に邪な考えが膨らんでいった。

 フ、フローラさまから甘い香りが……このまま寝ているふりをして、この心地を楽しむのも……

 い、いや!
 恥を知れクレール!!
 お、お前は剣聖クレール!!
 誘惑になど負けるわけには!!!

「あ、気が付きましたか? 良かった!」

 薄っすら目を開けて様子を見ていたクレールだったが、フローラと目が合って慌てて起き上がった。

「あ、も、申し訳ないです!」

「いえいえ、心配しましたが平気そうで良かったです」

 フローラは、そう言ってにっこりと微笑んだ。
 純粋に心配してくれていたフローラに、一瞬とはいえ邪な思いを抱いたことに、クレールはまたしても失敗してしまったと悔やんでいた。

「な、なんか済みません……」

「……?」

 ただ、フローラには何が悪いのかさえ伝わっていない。
 まさか剣聖ともあろう男が、『むっつりスケベ』だとは誰も思わないだろう。
 そう気付いているのは、アナスタシアくらいだ。
 天然なフローラでは一生気付かないかもしれない。

「い、いえ。それよりここはどこでしょうか?」

 見渡す限り荒れ地が広がる荒野みたいな場所に、クレールとフローラがぽつんとしている。爺さんたちは姿を消していた。

「あ、はい。クレールさまは気を失っていましたが、あの後いろいろありまして、竜神さまの背に乗って辺境のどこかへ連れてこられたのです」

 爺さんたちはこの場所に到着後、三人で決戦の地を探すと言って更に奥地へ出かけて行ってしまった。
 クレールが居れば大抵の危機は避けられる。そう思ってフローラは置いて行ったのだ。

「は、はあ……」

 一通り説明を受けたが、訳が分からないと言った顔をしている。
 ただ、フローラにしてもいきなり連れて来られたのだから、これ以上は説明のしようがなかった。

「帰る方法があればいいのですが……」

「そ、それは……!」

 その方法に心当たりがあるフローラは、カシナシオスの言葉を思い出して顔を真っ赤にしている。

「何か方法が?」

 突然、照れ始めるフローラに違和感を覚えるも、その姿を可愛いと思ってしまったクレールは、平静を装いつつも内心では興奮しつつあった。

 剣聖などと呼ばれているわりには、平常心とは余り縁がない男だ。

「あ、あるにはありますが……」

「おお、方法があるなら試しましょう!」

 クレールの顔は真剣だった。

「え、ええ、私は是非そうしたいのですが……あの……あわわわ……」

「ああ、無理にすべきではありません。他に方法を探しましょう」

「い、いえ! 無理にでもそうしたい気持ちはあります……よ?」

(あわわわ……わ、私は何てはしたない事を……で、でも、キ、キスして欲しいので……あわわわ……)

「ふむ。分かりました。では、その方法を教えてください」

 更に真剣な顔つきになっている。その方法がまさかキスであると知ったら、この男がどんな反応を見せるだろうかと、フローラは期待半分、不安も……半分だった。

「そ、それは、キ、キスなんです……」

(あわわわ……言ってしまいましたぁ!!)

 "あわあわ"しつつもフローラは期待していた。
 この場所なら他の誰にも邪魔されそうにないし、気兼ねをする相手が居るわけでもなかった。

「ええと……キスがどうかしましたか……?」

 『キス』と言われて、クレールも顔が赤くなるのを感じていた。
 よく考えれば荒野の真ん中で、クレールとフローラは二人きりだった。
 この場にいる状況が特異すぎて気付いていなかった。

 だが、二人きりである。

 些か、キスをしようという雰囲気には欠けるが、お互いの気持ちがあれば他には何も必要はない。

「言わなくても分かりますよね……」

 フローラのこの言葉で、クレールは覚悟を決めていた。

「……良いのですね?」

 了解を求める言葉を掛けられて、フローラは"こくり"と頷いた。
 フローラの顔には覚悟の色が見て取れる。

 クレールも同じような顔つきで、愛しい人を見つめている。
 もうクレールに迷いはなかった。

 生まれてはじめてそうする二人だったが、まるでこの瞬間にそうする事が当たり前だったかのように、二人の唇は自然に重なっていた。

(……むぐ! あ、ああぁ……これがキス? だめです。何も考えられない……抱きしめてください。私を強く……)

 そんなフローラの想いが通じたのか、それともキスの感触がそうさせたのか、クレールはフローラとのキスを続けながらも彼女を強く抱きしめた。

 見渡す限り荒れ地が広がるこの場所には、二人に吹き付ける荒野の風しかなかった。

 そんな中で二人はしばらく口づけを交わしていた。





*****

やっとキスまで進みました(´ー+`)

*****

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