うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

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第3章『女王陛下と剣聖』

第54話「正統お爺ちゃん王座決定戦①…プロポーズ」

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「食らえ! ユリウスパンチ!!」

 センスのないネーミングだが、64歳の爺さんとは思えない身のこなしから、重い一撃がカシナシオスの太い足首に命中した。

「おらおら! ヴァレンテ延髄斬り!!」

 延髄とは言っているが高さと身体の大きさの関係で、こちらも足首に命中している。だが、どちらの攻撃もカシナシオスには効いていないようだった。

(ぐおおおお!? に、人間のくせに! しかも、白髪の爺さんのくせに! し、しかし、竜神として痛いと言えぬ!!)

「余りはしゃぐと怪我をするぞ? いい加減にせよ」

 心なしかカシナシオスの口調から、静かな怒りが伝わってきている。しかし、竜神たる者、人間の爺さんに怒ったりはしないのである。

「うぬぬ! 我が渾身のパンチが効かないとは……こうなったらあれしかないな……」

「同じくじゃ! かくなる上は! 最終奥義を出すしかないわ!!」

(え! 十分効いているぞ!! 何なんだこの爺さんどもは……)

 涼しい顔をしているカシナシオスは、竜神であるプライドを守る為に痛いのを我慢していた。赤い鱗の為、分かりにくいが、攻撃された部分は赤く腫れあがっている。

「はははは、な、何をする気だ? 無理は老体にひ、響くぞ? だから、やめような?」

「うるさああああい! 必殺! ユリウスパワーボムじゃ!!」

「なに!! ならこっちは、ヴァレンテブレーンバスターじゃ!!」

 適当に技名を叫んでいるだけで、相変わらず、パンチだのキックだのを、やたら滅多にカシナシオスの身体中にお見舞いしている。

(ぐはああああ!! ぐお、ぐうおおお! こ、このクソジジイども! いい加減にせぬかあ!! し、しかし、こいつらとは、お爺ちゃん仲間……。ぐううう)

「……! お爺ちゃんたち!! な、何をしているのですか!!」

「ユリウス殿に、ヴァレンテさま!! 何をなさっているのですか!!」

 そのとき、フローラがクレールを伴ってカシナシオスの寝所までやって来た。ユリウスとヴァレンテの身を心配して追いかけてきたのだ。
 
(おお、我が孫娘!! た、助けてくれ!! このイカれた爺さんどもを止めてくれ!!)

「「悪いドラゴンを退治中じゃ」」

「わ、ワシが何をしたの言うのだ!! いい加減にせぬと踏みつぶすぞ!!」

「「上等じゃ!! 掛かってこい!!」」

 遂に我慢の限界に差し掛かったカシナシオスは、大きく前足を振り上げている。体重を掛けた一撃をユリウスたちの頭上から振り下ろそうとしていた。

「ク、クレールさま!」

 縋るようなすがるような目でクレールにしがみついたフローラだった。そんなフローラの願いを叶えるべく、クレールは意を決したような顔をしていた。

「……来世で貴女を娶りますめとります。お元気で!!」

 フローラの顔をジッと見つめながら、剣聖クレールが覚悟の言葉を叫んでいた。彼は死を覚悟した上で怪獣決戦を止めに入ろうというのだろう。

「あわわわ……ク、クレールさまが死んでしまいます。あわわわ……」

「食らえええ! クソジジイどもめ!!」

 『ドオオオン』、耳をつんざく轟音が鳴り響いた。空気と大地を震動させていた。

「ふははは……は……? き、貴様ら……に、人間か?」

 クレールは目の前の出来事に、最初は焦ったような顔をしたが、次の瞬間には『ぽかん』として口をぱくぱくさせていた。
 
 フローラに至っては立ったまま気絶していた。

 それはそうだろう。
 誰が見ても驚くだろう。
 カシナシオスの怒りに任せた非情な一撃で、爺さん二人の煎餅ができるところだったのだ。
 フローラは悲鳴を上げる間もなく気絶してしまった。

 しかし、クレールが唖然として絶句しているのは、その事ではなかった。

「「ぬおおおおお!! 何のこれしき!!!」」

 何と言う事だ。

 ユリウスとヴァレンテの二人は、カシナシオスの大きな足を受け止めていたのだ。身体は幾分か地面にめり込んではいるが、二人ともほとんど無傷でドラゴンの片足を支えていたのだ。

「うはははは! ぬるいわ!! 貴様、ちゃんとメシ食っておるのか!!!」

「そうじゃそうじゃ!! ねこのパンチの方がずっと効きよるわい!!」

「き、貴様ら……次は容赦せぬぞおお!!!」

 先ほどの一撃もわりと本気だったカシナシオスは、二人の爺さんをあの世へ送ってやろうと、次は本気の一撃を食らわせようと、すううっと息を大きく吸い込んでいた。
 カシナシオスの腹が膨れていき、次第に腹の底から喉を業火がせり上がってくる。
 カシナシオスは、ドラゴンのブレスで焼き尽くそうとしていた。

 ブレスのひと薙ぎで、トスカーナの大型帆船は一撃で砕け散っていた。

 その竜の息吹ドラゴンブレスを吐き出そうとしている。

「「次はブレスかい!! 上等じゃい!!」」

 ユリウスも、ヴァレンテも、正面からブレスを受けるつもりのようだ。

 最早、この爺さんたちの戦いは苛烈を極めている。誰にも止められないだろう。





*****

クレールは空気です(´ー+`)

*****

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