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第3章『女王陛下と剣聖』
閑話「祖父たちと孫娘②…正統お爺ちゃん王座決定戦?」
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「けしからん!」
「そうだ、誠にけしからん!!」
ユリウスとヴァレンテが二人して騒いでいる。盛んに何かを『けしからん』と言っている。
「あいつはただのトカゲじゃろう!」
「そうじゃ、ただのデカイ蜥蜴じゃ!!」
特別な事でも無ければ、この二人は一緒に居る事さえ珍しいが、この日は異口同音にとにかく騒いでいた。
「あ、あの? お爺ちゃん?」
誰も関わろうとしてないので、仕方なくフローラが恐る恐る尋ねてみた。
「フローラさま!?」
「フローラさま、どういう事ですじゃ!」
(あわわわ……きゅ、急にどうしたと言うのですか……)
やっぱり黙って見ていれば良かった。そういう風に思ったがもう遅かったようだ。
二人は今度はフローラに詰め寄りはじめた。
「な、何がですか……?」
「あいつの事ですじゃ!!」
「あの蜥蜴の事ですじゃ!!」
(蜥蜴……? 蜥蜴人が何か?)
「蜥蜴って、蜥蜴人の事でしょうか?」
「違います!! あのデカイ奴ですじゃ!!」
「カシナシオスの事ですじゃ!!」
「竜神さまがどうかしたのですか?」
フローラには皆目見当がつかない。
カシナシオスのおかげでトスカーナの船団は海の藻屑と消えている。
わずかな生き残りが浜辺に流れ着いたが、それらは捕虜として牢獄に入れられていた。
それに蜥蜴人の部隊も大活躍しているが、彼らは竜神の思し召しでフローラに協力している部分もある。
それだけに二人が何故、怒っているのか見当が付かなかった。
「どうしたもこうしたも、何故あいつが、お爺ちゃんなのですじゃ!」
「そうですじゃ!! あいつはドラゴンで、お爺ちゃんではないですじゃ!!」
(あわわわ……そ、そんな事を私に言われても……)
確かに以前、この二人が喧嘩をしたのも、どちらが真のお爺ちゃんなのかと、結論付けたかったからである。
あの場はうやむやになった為、あのまま結論は出ていない。
いま正に、真のお爺ちゃんの王座を懸けた戦いがはじまろうとしていた。
「こうしていても仕方が無いわい……まずはあいつを……」
「そうじゃ。あいつを殺ったら……」
「「次はお前じゃ!!」」
(あわわわ……な、何を? 竜神さまを相手に何をする気ですか?)
フローラの心配をよそに、二人はカシナシオスの居所を目指して、猛烈な勢いで走り去ってしまった。
「た、大変です! お爺ちゃんたちを止めないと!!」
「やかましいじじいが減って良いじゃないです?」
これはミランダの言葉だ。
彼女は『棺桶の準備をします』、などと言って笑い転げている。
それにヴァレンテは、竜のブレスを浴びて生きていた実績があるのだ。
まともに心配をしているのは、哀れなフローラだけだったのだ。
―――
「出てこいコラ! 蜥蜴!!」
「勝負じゃ!! でかい蜥蜴!!」
「……」
カシナシオスは昼寝中だった。二人の来訪には気付いているが起きるつもりはない。
「……ぬう? ワシらに恐れを成して逃げ去ったか?」
「……ならば、ワシとお主で殺し合いじゃ!」
「……ワシの寝所で何をしておるか? 人間よ」
しかし、そんなわけにも行かなくなったようだ。
まるまって昼寝をしていたカシナシオスは、騒がしさに目を覚ましていたが事の成り行きを黙って聞いていたのだ。
しかし、ユリウスとヴァレンテの二人が喧嘩をはじめると、それを仲裁しようと大きな身体を揺らして起き上がった。
カシナシオスは善意で二人を止めようとしていた。
「ようやく出てきたな! 勝負じゃ!! 悪のドラゴンめ!!!」
「そうじゃそうじゃ!! 孫娘をたぶらかしおって!!」
ユリウスもヴァレンテも、鼻息を荒くして顔中を真っ赤にしている。
『待ってました』とばかりに、カシナシオスが起き上がると、再び二人でタッグを組みはじめた。
「何を藪から棒に? 孫娘とは聖女の事か?」
「そうじゃ! あの子の真のお爺ちゃんはワシなんじゃ!!」
「なんじゃと! ユリウス貴様!! どさくさに紛れて嘘を言うでない!!! 真のお爺ちゃんはワシじゃ!!!」
「ワシにとっても聖女は孫娘だが、お爺ちゃんの順番は譲ろう。ワシは3番目で構わぬ」
正直な所、カシナシオスには順番など、どうでも良かった。このドラゴンはマイオ島とフローラを守れればそれで良いのだ。
「うぬう! 蜥蜴のくせして生意気な!!」
「そ、そうじゃ! ワシらに譲るとは生意気じゃ!!」
「……まあ、余り興奮するのは身体に良くないぞ。ほれ、そこの温泉にでも浸かって気分を鎮めると良い」
さすが寿命数万年を誇る竜だけあって、ユリウスたちの無礼な態度をまるで気にしていない。
カシナシオスから見たら彼らは子供みたいなものだ。
そういう風に思うのは当たり前なのかもしれなかった。
しかし、歳を取ると往々にして曲解する事があるのも、じじいと言うものだった。このカシナシオスの善意でさえ、ユリウスたちには通じなかったのである。
ユリウスとヴァレンテは、あくまでも拳で決着をつける方針を崩さなかった。
*****
次回、仁義なきお爺ちゃんの戦い?(´ー+`)
*****
「そうだ、誠にけしからん!!」
ユリウスとヴァレンテが二人して騒いでいる。盛んに何かを『けしからん』と言っている。
「あいつはただのトカゲじゃろう!」
「そうじゃ、ただのデカイ蜥蜴じゃ!!」
特別な事でも無ければ、この二人は一緒に居る事さえ珍しいが、この日は異口同音にとにかく騒いでいた。
「あ、あの? お爺ちゃん?」
誰も関わろうとしてないので、仕方なくフローラが恐る恐る尋ねてみた。
「フローラさま!?」
「フローラさま、どういう事ですじゃ!」
(あわわわ……きゅ、急にどうしたと言うのですか……)
やっぱり黙って見ていれば良かった。そういう風に思ったがもう遅かったようだ。
二人は今度はフローラに詰め寄りはじめた。
「な、何がですか……?」
「あいつの事ですじゃ!!」
「あの蜥蜴の事ですじゃ!!」
(蜥蜴……? 蜥蜴人が何か?)
「蜥蜴って、蜥蜴人の事でしょうか?」
「違います!! あのデカイ奴ですじゃ!!」
「カシナシオスの事ですじゃ!!」
「竜神さまがどうかしたのですか?」
フローラには皆目見当がつかない。
カシナシオスのおかげでトスカーナの船団は海の藻屑と消えている。
わずかな生き残りが浜辺に流れ着いたが、それらは捕虜として牢獄に入れられていた。
それに蜥蜴人の部隊も大活躍しているが、彼らは竜神の思し召しでフローラに協力している部分もある。
それだけに二人が何故、怒っているのか見当が付かなかった。
「どうしたもこうしたも、何故あいつが、お爺ちゃんなのですじゃ!」
「そうですじゃ!! あいつはドラゴンで、お爺ちゃんではないですじゃ!!」
(あわわわ……そ、そんな事を私に言われても……)
確かに以前、この二人が喧嘩をしたのも、どちらが真のお爺ちゃんなのかと、結論付けたかったからである。
あの場はうやむやになった為、あのまま結論は出ていない。
いま正に、真のお爺ちゃんの王座を懸けた戦いがはじまろうとしていた。
「こうしていても仕方が無いわい……まずはあいつを……」
「そうじゃ。あいつを殺ったら……」
「「次はお前じゃ!!」」
(あわわわ……な、何を? 竜神さまを相手に何をする気ですか?)
フローラの心配をよそに、二人はカシナシオスの居所を目指して、猛烈な勢いで走り去ってしまった。
「た、大変です! お爺ちゃんたちを止めないと!!」
「やかましいじじいが減って良いじゃないです?」
これはミランダの言葉だ。
彼女は『棺桶の準備をします』、などと言って笑い転げている。
それにヴァレンテは、竜のブレスを浴びて生きていた実績があるのだ。
まともに心配をしているのは、哀れなフローラだけだったのだ。
―――
「出てこいコラ! 蜥蜴!!」
「勝負じゃ!! でかい蜥蜴!!」
「……」
カシナシオスは昼寝中だった。二人の来訪には気付いているが起きるつもりはない。
「……ぬう? ワシらに恐れを成して逃げ去ったか?」
「……ならば、ワシとお主で殺し合いじゃ!」
「……ワシの寝所で何をしておるか? 人間よ」
しかし、そんなわけにも行かなくなったようだ。
まるまって昼寝をしていたカシナシオスは、騒がしさに目を覚ましていたが事の成り行きを黙って聞いていたのだ。
しかし、ユリウスとヴァレンテの二人が喧嘩をはじめると、それを仲裁しようと大きな身体を揺らして起き上がった。
カシナシオスは善意で二人を止めようとしていた。
「ようやく出てきたな! 勝負じゃ!! 悪のドラゴンめ!!!」
「そうじゃそうじゃ!! 孫娘をたぶらかしおって!!」
ユリウスもヴァレンテも、鼻息を荒くして顔中を真っ赤にしている。
『待ってました』とばかりに、カシナシオスが起き上がると、再び二人でタッグを組みはじめた。
「何を藪から棒に? 孫娘とは聖女の事か?」
「そうじゃ! あの子の真のお爺ちゃんはワシなんじゃ!!」
「なんじゃと! ユリウス貴様!! どさくさに紛れて嘘を言うでない!!! 真のお爺ちゃんはワシじゃ!!!」
「ワシにとっても聖女は孫娘だが、お爺ちゃんの順番は譲ろう。ワシは3番目で構わぬ」
正直な所、カシナシオスには順番など、どうでも良かった。このドラゴンはマイオ島とフローラを守れればそれで良いのだ。
「うぬう! 蜥蜴のくせして生意気な!!」
「そ、そうじゃ! ワシらに譲るとは生意気じゃ!!」
「……まあ、余り興奮するのは身体に良くないぞ。ほれ、そこの温泉にでも浸かって気分を鎮めると良い」
さすが寿命数万年を誇る竜だけあって、ユリウスたちの無礼な態度をまるで気にしていない。
カシナシオスから見たら彼らは子供みたいなものだ。
そういう風に思うのは当たり前なのかもしれなかった。
しかし、歳を取ると往々にして曲解する事があるのも、じじいと言うものだった。このカシナシオスの善意でさえ、ユリウスたちには通じなかったのである。
ユリウスとヴァレンテは、あくまでも拳で決着をつける方針を崩さなかった。
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次回、仁義なきお爺ちゃんの戦い?(´ー+`)
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