うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

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第2章『聖女王フローラ』

第49話「クレールの想い」

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「女王である私に対して、堂々と嘘をつくわけですか?」

「そうです! 兄は女王陛下に嘘を言っているのです!! ようやく分かって頂けましたか!! それなら早速、兄の爵位を私に授けて下さい。そうしたらオールバンズたちをまとめてみせますから、それから、私と結婚しましょう! それでアタナシアは安泰ですよ!! ルッカにも話しは通してありますかね!!!」

 よほど嬉しかったのだろう。言うべきでない事まで、ダミアンはぺらぺら喋ってしまっている。

「ルッカに話を?」

「そうです! 先ほど女王陛下はルッカの話を聞かれて、だいぶ暗い表情をなされていましたね? でも大丈夫です。ルッカの宰相との交渉は私が居れば問題ありません。ルッカ軍の兵力三千を防ぐには、私の力が必要ですよ!!」

 語るに落ちるとは、こういう事を言うのだろう。
 ダミアンは、それは深い墓穴を掘り抜いたのだと、果たして気付いているのだろうか。

「シバ殿の報告内容を、何故貴方が知っているのですか?」

「ですから!! ルッカの宰相リーサンネと話しを通してあるからです!!」

「そういうのは謀反と言うのだぞ? 貴様、気が触れたのか!?」

 頃合いを見計らって、クレールが会話に割って入って来た。完全に調子に乗っているので、あえて黙って話を聞いていたのだ。

「重臣しか知らない内容です。それを事前に知っていたのに伏せていたのですか?」

「そ、それは……時期を見計らって……」

「フローラさまと、ヴァージル公の出会いは、聖水村での騒ぎよりも以前の話だぞ? 貴様、ヴァージル公の功績を横取りするつもりか? それに敵国の宰相と通じるとは……最早、死罪は免れんぞ!! いっそこの場で叩き斬ってやろうか!!」

 大陸最強の男が殺気を#迸らせたほとばしらせた#。凡人以下のダミアンには、とても耐えれるものではない。腰を抜かしてぺたんと地面に尻餅をついた。
 アイダの方は予想していただけに、もう諦めがついたのか、達観したような顔をしていた。

「この狼藉者を牢に入れて置け!!」

 クレールにしては珍しく、声を荒げて命令を下していた。
 ダミアンは親衛隊の隊士たちによって、ひきずられるように連れて行かれてしまった。どうしようかと一瞬躊躇したようだが、アイダはフローラたちに頭を下げた後、ダミアンたちを追って小走りに走り去った。

「あ、あの、クレールさま?」

 周囲にはもう遠目にも誰も居なかった。憚るはばかる事が無い。だからクレールの事も呼びたいように呼んでいた。フローラにとって、クレールはいつまでも憧れの人だったのだから。

「……許せません!」

「ヴァージル公もそこまで気にしませんよ?」

 いつものクレールらしくなく、感情をむき出しにしている。そんな彼にフローラはそっと声を掛けていた。

「そうではありません!!」

「……わわッ!」

 もちろん、ヴァージルの功績を横取りしようとした事も、クレールは気に入らないと思っている。だが、それ以上にフローラが苦労を重ねてきた事を、『大した事が無い』と片付けるようなダミアンの物言いに怒り心頭だった。今までもそういう事がある度に怒りを溜め込んできたが、フローラに気持ちを打ち明けた事で、怒りも面に出すようになってしまっていた。

 そんな感情の赴くままに、クレールは、振り向きざまにフローラを強く抱きしめていた。
 もっと心が落ち着いていたなら、ここまで思い切りは良くなかっただろう。
 思わずそうした事とはいえ、フローラにとってはやっぱり嬉しい事だった。それはクレールにとっても同様だった。
 すぐに離しても良かったが、クレールはそうしなかったし、フローラもそうしなかった。

「あの、勢いでこんな事を……申し訳が……」

 正面からフローラを抱きしめたまま、彼女の頭の上から申し訳ないと言った。

「大丈夫です。とても嬉しいです」

 フローラの声はとても弾んでいた。こんなに嬉しい事は久しぶりだった。
 しかし、喜んでばかりもいられなかった。クレールがもっと早くこうしていれば問題が少なかったのだが、シバを通じてアルベールには、既に政略結婚の話が通っている。
 もちろん、アルベールはフローラを尊重するつもりでいるが、シバをはじめとした臣下が皆そう思っているわけではない。その事が頭の片隅にあって、フローラには素直に喜べない部分もあった。

「名残惜しいですが、皆が謁見の間で待っています」

 本当に名残惜しかったが、フローラを優しく引き離してやる。

「すぐにお返事をしたいのですが……」

「分かっています。当たって砕けるつもりで気持ちを打ち明けました」

 剣聖の顔はとても晴れやかだった。長年の重りを全て取り払ったような顔をしている。

「受け入れたい気持ちはあるのですが……」

「そのお言葉だけで十分です! 相手がアルベールさまなら不足はありません。必ず貴女の心を射止めてみせますから!!」

「さすがですね。それでこそ剣聖クレール。私が憧れ続ける人です」

 どちらからともなく、二人は手を繋いで謁見の間へ向かって行った。そんな二人の周りだけが、ゆったりとした幸せな雰囲気に包まれていた。





*****

両想いなのに!(´ー+`)

*****

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