うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

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第2章『聖女王フローラ』

第42話「聖女さま争奪戦…アルベールの場合」

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 おお、このニラは何て立派なニラだろう!
 労働でかく汗がこんなに素晴らしいなんて!!!

 今日も早朝から、ニラを収穫しては、アルベールはニラの出来栄えに感動していた。
 不思議な事に彼はニラにしか感動しないようだった。

「アルベールさま、こんな所にいらっしゃいましたか?」

「ん? おお、これはシバ殿、おはようございます」

 そう言いながらアルベールは、次々と収穫の作業をこなしていく。

「以前のあのお話しですが……」

「その気はありますがシバ殿、女王陛下のお気持ちを無視したくはありません」

 シバが言い切る前に自身の考えを述べる。
 シバが言いたいのは、フローラと結婚する気があるのかという意味だ。
 フローラの相手としてアルベールは政略的には、途方もなく価値が高い。加えてシバはアルベール個人の性格や能力も買っている。
 だが、以前は外堀を埋めながら、フローラに近付こうとしていたアルベールの方が、すっかり受け身になってしまっている。
 この辺りはシバらしくなく計算ミスと言えよう。

 ここ最近のアルベールは農場で過ごす事を心から楽しんでいる風がある。この場所で出会う人々に、身分の別なく気さくに話しかけては、労働の素晴らしさを語り、市井の民の仕事ぶりを再評価できたと喜んでいる。

 しかしある意味では良い兆候だと言える。

 何故なら、一見すると何もしないていないように見えても、見ている人間にはしっかり伝わっているものだ。

 アルベールの恋心は、別の形でフローラに届いていた。

「まあ、アルベールさま。今日もお疲れさまです」

 朝の素振りを終えたフローラがやってきた。額に汗しているも甘い香りを振り撒いて、すれ違っていく男たちを片っ端から魅了している。
 その気は全くないが、ある意味では魔性の女だ。

「あ! フローラさま!! 今日もニラが立派に育っています!!!」

 毎朝の定番となりつつある挨拶がこれだ。
 取れたての野菜を手に、『見て下さいよ、コレ』と言いながら小走りに近寄って、ニラを見せて顔一杯の笑顔で喜んでいる。
 その姿には一切の邪心がなく、とても清々しい。

 何故、ニラオンリーなのかは謎だが、とにかく毎朝こんな感じになっている。

 フローラとしても自分が何時までも独身で良いとは考えていない。
 例え政略結婚だったとしても、今後のアタナシアの事を考えるならするべきだと考えを固めている。
 そしてアルベールなら理想に近いかもしれないと思っていた。

「そろそろ別の野菜も育てたいですね。例えばジャガイモとか、トウモロコシとか、主食になりそうな物もあると助かります」

 懸案だった人手不足はパトラからの移民と、蜥蜴人の手助けがあって徐々に解消されつつあった。
 それに旧オルビアの各地からも、噂を聞いて人が集まってきている。
 本来そう簡単に住む国を変えたりはできないが、一応はフローラが盟主の形を取っている為、連合国内、特に旧オルビアの勢力圏内では暗黙のルールになりつつあった。

 そんな状況だからこそ、女王フローラの結婚の行方は注目されつつあった。
 そろそろ国として次の段階に入るべきだからだ。

「いいですね。ジャガイモもトウモロコシも大好物ですよ!」

 白い歯を見せて子供のようにはしゃいでいる。心の底から楽しいと感じているのが、フローラだけでなく、周囲にも伝わっている。だからこそフローラはそんなアルベールを見ているのが好きなのだ。

「私はトマトとニンジンが好物ですね。セロリは滅ぼすべきだと思いますが……」

 アルベールに釣られて、フローラも子供みたいな事を言って楽しそうにしていた。

 ここ最近は専ら、このように健全な雰囲気で、周囲に幸せそうなオーラを振り撒いている。いびつながらもある意味では両想いの形ではある。
 あとは切欠さえあればという所かもしれない。
 政略結婚からはじまっても、想い合うパターンなど過去に幾らでも存在したのだ。正直な所、切欠はどこまで行っても切欠でしかない。



―――



 フローラとアルベールが農場で良い雰囲気を作っているのは、当然噂の的にもなっている。そうなってくるとこの男が頭を悩ませる事にも繋がるのだが、この男として歓迎すべき理由も分かるし、そうしたくない理由もあって悶絶している真っ最中だった。

 (うぬうううう!! どうするんだクレール? お前はどうしたいのだ。いいのかこのまま放っておいて!!)

 などと悩んだ所で答えが出るはずも無いのに、飽きもせずに相変わらず、煮え切らない態度を続けていた。

 お互い何もせずにいて、同じ女性を愛しているのに、クレールとアルベールの間には大きな差が生じていた。
 埋めようと思えばすぐにも埋まる、そう言い切れる刻限は間近に迫っていた。

 今はそういう段階になりつつあった。





*****

クレール? アルベール? 伏兵でエンシオ? (´ー+`)

*****

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