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第2章『聖女王フローラ』
第44話「ルッカ軍侵攻開始」
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うふふ。
私のフローラ、もうすぐお前が手に入る。
どうやったかは知らないけど、この短期間でマイオ島をよくぞあそこまで開発したわね。
島ごと手に入れるわ……
この女宰相リーサンネが動いたからには、もう勝負は決まっているのよ。
「あの者たちに使者を送りなさい。かねてよりの約定通りにと」
リーサンネがそう言うと、一人の男が足早に退室していった。
「準備は整ったわ。将軍、貴方はルッカでは私の次に優れた男よ。貴方に3千の兵を与える。十分よね?」
白い指先を目の前で跪く男の頬に這わせる。
「アタナシアごとき小勢を相手に3千も頂けるとは……必ずや聖女を捕えて宰相さまに献上致します」
「トスカーナの後詰数千も後方から来るはずよ。そいつらが来る前に聖女をおさえなさい。いいわね?」
「はい。聖女さえ手に入れば、リーサンネさまの野望も叶います」
そうよ。
聖女を意のままに操れるのは、大陸広しと言えど私だけでしょうね。
しがない歌姫だった私は、僅か三年でルッカを掌握できてしまった。そうなって初めてわかったの。私は王に上り詰める天命を授かっていた事を。
聖女フローラは私の下に天が授けた女よ。
ようやく私の手に入る。
「では出陣しなさい。吉報を待っているわ。うふふふふ」
必要ないとは思うけど、一応、次善の策も用意はしてある。
あのダミアンとかいう犬が、猟犬なのか、それとも野良犬なのか、見せてもらうわ。うふふふふ。
―――
「ねえ? 大丈夫なの……」
不安を顔に表して、アイダはダミアンに寄り添っている。
「大丈夫だ。どっちが勝っても俺たちは生き残る」
すぐ隣で寝そべりながら寄り添うアイダに、ダミアンも彼女を抱き寄せようと腕に力を入れた。
「それとアレはいつ言うんだい?」
「兄貴が女王に何をしてやって、あの聖水村で感謝されたか知らないが、どうせ大した事でもないし、女王も忘れているだろ。だがな、あの場でヴィガン男爵を名乗ったなら、それをはっきり証明できる俺が女王の恩人であって、兄貴は追い出されたろくでなしでしかないんだよ」
アレか……。
そろそろ言うさ。
ずっとタイミングを待ってたんだ。
兄貴に濡れ衣を着せて、男爵位と、領地と、アイダまで奪ってやった時も、ずっと好機を待った。
俺はあの時も欲しい物を手に入れたんだ。
今度もそうさせてもらう。
負け犬の兄貴にしては、女王に恩を売るなんてやるじゃねえか。
どうせ下っ端かと思っていたのに、ずいぶん信用されてるみたいだな。
だがな、もうすぐ論功行賞がある。
その時に俺はアタナシアの貴族になるだろうが、兄貴はどうだかな?
「……」
「なんだ心配なのか?」
「……ヴァジルールを追い出した時も、最初はあんたでなく、あたしはアイツを愛していた」
「でも、結局は俺を選んで、兄貴に濡れ衣を着せる迫真の演技をしただろ?」
こいつもそろそろ用済みだな。
アイダも馬鹿な女だぜ。
あのまま兄貴の妻を続けていれば、兄貴に一生大事にされたはずだ。
俺が仕出かしたツケを、兄だから、領主だから引き受けるって言って、自分は何も悪くないのに、俺の罪を肩代わりしてアイダの人生を背負った。
さぞかしいい気分だったろ?
バカな弟の不始末を背負ってやったって。
そうやって俺の世話を焼くてめえが大嫌いだったぜ。
てめえの事だ、善意でやったんじゃない。俺を見下す為にやったんだ。
親父と一緒になって俺を笑っていたんだろ?
全部お見通しなんだよ。
折角、もう昔の件は忘れてやっていたのを……馬鹿が。
今度こそ地獄に落としてやる。
「アイツに手を出すのはやめたほうが……」
「大丈夫だって。兄貴は俺には絶対に敵わないんだよ。兄貴と俺じゃ格が違うんだ」
「でも何か違和感が…‥」
「大丈夫だ。しょうがねえな、俺がお前の不安を消してやる。ほら、来いよ」
薄暗い部屋に暖炉の灯りだけが揺らめいている。
ベッドの上で二つの人影が絡みあう中で、アイダは言い知れぬ不安に囚われていた。
今回と前回では状況が違いすぎる。自分たちは何を相手にしているかすら、良く把握していないのではないか? 自分を貪るように求めるこの男には、それが全く見えていない。
そんな気がしてアイダは胸騒ぎがしていた。
*****
11時間くらい寝落ちしてました(´ー+`)
*****
私のフローラ、もうすぐお前が手に入る。
どうやったかは知らないけど、この短期間でマイオ島をよくぞあそこまで開発したわね。
島ごと手に入れるわ……
この女宰相リーサンネが動いたからには、もう勝負は決まっているのよ。
「あの者たちに使者を送りなさい。かねてよりの約定通りにと」
リーサンネがそう言うと、一人の男が足早に退室していった。
「準備は整ったわ。将軍、貴方はルッカでは私の次に優れた男よ。貴方に3千の兵を与える。十分よね?」
白い指先を目の前で跪く男の頬に這わせる。
「アタナシアごとき小勢を相手に3千も頂けるとは……必ずや聖女を捕えて宰相さまに献上致します」
「トスカーナの後詰数千も後方から来るはずよ。そいつらが来る前に聖女をおさえなさい。いいわね?」
「はい。聖女さえ手に入れば、リーサンネさまの野望も叶います」
そうよ。
聖女を意のままに操れるのは、大陸広しと言えど私だけでしょうね。
しがない歌姫だった私は、僅か三年でルッカを掌握できてしまった。そうなって初めてわかったの。私は王に上り詰める天命を授かっていた事を。
聖女フローラは私の下に天が授けた女よ。
ようやく私の手に入る。
「では出陣しなさい。吉報を待っているわ。うふふふふ」
必要ないとは思うけど、一応、次善の策も用意はしてある。
あのダミアンとかいう犬が、猟犬なのか、それとも野良犬なのか、見せてもらうわ。うふふふふ。
―――
「ねえ? 大丈夫なの……」
不安を顔に表して、アイダはダミアンに寄り添っている。
「大丈夫だ。どっちが勝っても俺たちは生き残る」
すぐ隣で寝そべりながら寄り添うアイダに、ダミアンも彼女を抱き寄せようと腕に力を入れた。
「それとアレはいつ言うんだい?」
「兄貴が女王に何をしてやって、あの聖水村で感謝されたか知らないが、どうせ大した事でもないし、女王も忘れているだろ。だがな、あの場でヴィガン男爵を名乗ったなら、それをはっきり証明できる俺が女王の恩人であって、兄貴は追い出されたろくでなしでしかないんだよ」
アレか……。
そろそろ言うさ。
ずっとタイミングを待ってたんだ。
兄貴に濡れ衣を着せて、男爵位と、領地と、アイダまで奪ってやった時も、ずっと好機を待った。
俺はあの時も欲しい物を手に入れたんだ。
今度もそうさせてもらう。
負け犬の兄貴にしては、女王に恩を売るなんてやるじゃねえか。
どうせ下っ端かと思っていたのに、ずいぶん信用されてるみたいだな。
だがな、もうすぐ論功行賞がある。
その時に俺はアタナシアの貴族になるだろうが、兄貴はどうだかな?
「……」
「なんだ心配なのか?」
「……ヴァジルールを追い出した時も、最初はあんたでなく、あたしはアイツを愛していた」
「でも、結局は俺を選んで、兄貴に濡れ衣を着せる迫真の演技をしただろ?」
こいつもそろそろ用済みだな。
アイダも馬鹿な女だぜ。
あのまま兄貴の妻を続けていれば、兄貴に一生大事にされたはずだ。
俺が仕出かしたツケを、兄だから、領主だから引き受けるって言って、自分は何も悪くないのに、俺の罪を肩代わりしてアイダの人生を背負った。
さぞかしいい気分だったろ?
バカな弟の不始末を背負ってやったって。
そうやって俺の世話を焼くてめえが大嫌いだったぜ。
てめえの事だ、善意でやったんじゃない。俺を見下す為にやったんだ。
親父と一緒になって俺を笑っていたんだろ?
全部お見通しなんだよ。
折角、もう昔の件は忘れてやっていたのを……馬鹿が。
今度こそ地獄に落としてやる。
「アイツに手を出すのはやめたほうが……」
「大丈夫だって。兄貴は俺には絶対に敵わないんだよ。兄貴と俺じゃ格が違うんだ」
「でも何か違和感が…‥」
「大丈夫だ。しょうがねえな、俺がお前の不安を消してやる。ほら、来いよ」
薄暗い部屋に暖炉の灯りだけが揺らめいている。
ベッドの上で二つの人影が絡みあう中で、アイダは言い知れぬ不安に囚われていた。
今回と前回では状況が違いすぎる。自分たちは何を相手にしているかすら、良く把握していないのではないか? 自分を貪るように求めるこの男には、それが全く見えていない。
そんな気がしてアイダは胸騒ぎがしていた。
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