うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

文字の大きさ
上 下
47 / 77
第2章『聖女王フローラ』

第35話「蜥蜴人との邂逅①…彼らの事情」

しおりを挟む
 ヴァージルとユリウスが率いる調査隊は日程の約半分を消化し終えていた。

 今回の目的は森林の大まかな生態を調べる事と、当座の食料を持ち帰る事だった。
 捕らえた野生動物や、食用に耐える魔物を狩っては、日持ちがする保存食に換えるのは、交易をしながら大陸を巡っていたヴァージルらしい妙案だった。

 ヴァージルとオルセン、そしてユリウスが集まって今後の日程について話し合っている時だった。

「ん? 向こうが騒がしいですね」

 島の西側、山岳地帯の方角を指差して、オルセンはそう言った。

「……あれは蜥蜴人リザードマンだな。竜が棲む島なら居るだろうとは思っていたが」

 調査隊の誰かと、ひと際大きい人影が何やら騒いでいるようだ。ヴァージルはその大きな人影を蜥蜴人リザードマンだと言った。

「魔物ならワシらが出るが?」

 剣の柄に手を掛けながらユリウスがそう言うが、ヴァージルがそれを制した。

「彼らの領域を侵さない限りは、基本的には中立な種族ですよ」

 ただ、そう言ったヴァージルも、難しそうな顔つきで騒ぎを見つめている。

「とりあえず行ってみますか」

「ユリウスさまはこちらでお待ちを、彼らとは私たちが話をしてきますので」



―――



「何を騒いでいる?」

「あ、隊長、この魔物がさっきから文句を付けて来やがって!!」

 何事かと問われた調査隊の男は、蜥蜴人リザードマンの一人に対して敵意を剥き出しにしていたが、肝心の蜥蜴人リザードマンのほうは、何とか話をしようとしている風だった。

「いいから。この蜥蜴人リザードマンとは、私が対応をするから」

「お前は私の話を聞く気があるのか?」

 蜥蜴人リザードマンはとても流暢に人語を操っていた。表情こそ変化に乏しいが敵意があるようには見えない。
 武器は所持しているがそれを抜く気も無さそうだった。

「ああ、あんたたちと揉める気はない」

「それは有難い。この先の我らの里を侵犯しない限り、森の恵みは共に享受すればいい。この島は竜神さまの島だが、あの方は人間を拒むつもりは無いからな」

 竜神とは恐らくルッカの使者の言っていた、『大人しい竜』の事だろうと、ヴァージルは頭の中で考えている。
 その竜が温厚だからこそ、目の前の蜥蜴人リザードマンも、人と揉める気ないのだろう。

「それだけを言いに来たわけじゃないだろう?」

「ああ、そうだ。この島に人間の聖者が居ると聞いている。できれば会わせて欲しい」

 フローラさまに会いたいと言うのか?

 見た限り敵意は無さそうだし、蜥蜴人リザードマンは賢い連中だ。
 いたずらに、もめ事を起こすような奴らじゃない。
 友好を保てば義理堅く接してくれるし、不義理な人間などよりよっぽど信用できる手合いだ。

 アタナシアはまだまだ大きく戦力不足だし、彼らの協力が得られるのは大きい。ただ、これは私一人で即答できる問題じゃないな。

「女王陛下がお会い下さるか保証はできないが、それで良ければ貴方を連れて行こう」

「勿論それで構わない。宜しく頼む」

 蜥蜴人リザードマンの戦士はロルキと名乗った。 

 蜥蜴人リザードマンとは人型の亜人の一種だ。
 魔物ではあるが基本的には中立の種族で、滅多な事では人間とは争うとしない。
 ただ決して温厚な種族ではなく、戦いともなれば雄々しく勇敢に戦う。

 また、個体によってバラツキはあるが、亜人の中では極端に上等な装備を身に着けている。以上の事から彼らは優秀な戦士であり、その戦闘力は凄まじい。

 成人の個体で2メートルを超える身長と、強靭な体躯、しぶとい生命力をも兼ね備え、環境の変化にも強い。
 河川や湖沼、または山岳地帯に棲むのが一般的で、古来より竜を神として崇めている。
 蜥蜴人リザードマンの多くは戦士だが、中には魔法や精霊を使役する個体も存在する。亜人の中では最も人間に近い高等な種族と言えるだろう。

 そんな彼らがフローラに何か話があると言う。

 快く申し出を受けたのが好印象だったのか、ロルキと彼が従える蜥蜴人リザードマンたちが狩りを手伝ってくれた事で、調査隊は予定よりも早く帰路に着くことができた。

「あんたたちが手伝ってくれて助かった。礼を言う」

「こちらの願いを快く聞いてくれた礼だ。我らは義理と筋はどんな事をしてでも通す」

「ああ、知っているよ。交易相手としても信用できる。騙そうとしてくる人間などよりよほど信頼できる」

「なるほど、別の氏族と関りがあったのか。道理で我らに詳しいわけだ」

 ああ、よく知ってるさ。
 じゃなければ女王陛下に会わそうとは思わんしな。

 ただ、これは意外と良い買い物になるかもしれん。





*****

アナスタシアの恋の行方をどうするか思案中です(´ー+`)

*****

しおりを挟む
感想 212

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...