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第2章『聖女王フローラ』
第35話「蜥蜴人との邂逅①…彼らの事情」
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ヴァージルとユリウスが率いる調査隊は日程の約半分を消化し終えていた。
今回の目的は森林の大まかな生態を調べる事と、当座の食料を持ち帰る事だった。
捕らえた野生動物や、食用に耐える魔物を狩っては、日持ちがする保存食に換えるのは、交易をしながら大陸を巡っていたヴァージルらしい妙案だった。
ヴァージルとオルセン、そしてユリウスが集まって今後の日程について話し合っている時だった。
「ん? 向こうが騒がしいですね」
島の西側、山岳地帯の方角を指差して、オルセンはそう言った。
「……あれは蜥蜴人だな。竜が棲む島なら居るだろうとは思っていたが」
調査隊の誰かと、ひと際大きい人影が何やら騒いでいるようだ。ヴァージルはその大きな人影を蜥蜴人だと言った。
「魔物ならワシらが出るが?」
剣の柄に手を掛けながらユリウスがそう言うが、ヴァージルがそれを制した。
「彼らの領域を侵さない限りは、基本的には中立な種族ですよ」
ただ、そう言ったヴァージルも、難しそうな顔つきで騒ぎを見つめている。
「とりあえず行ってみますか」
「ユリウスさまはこちらでお待ちを、彼らとは私たちが話をしてきますので」
―――
「何を騒いでいる?」
「あ、隊長、この魔物がさっきから文句を付けて来やがって!!」
何事かと問われた調査隊の男は、蜥蜴人の一人に対して敵意を剥き出しにしていたが、肝心の蜥蜴人のほうは、何とか話をしようとしている風だった。
「いいから。この蜥蜴人とは、私が対応をするから」
「お前は私の話を聞く気があるのか?」
蜥蜴人はとても流暢に人語を操っていた。表情こそ変化に乏しいが敵意があるようには見えない。
武器は所持しているがそれを抜く気も無さそうだった。
「ああ、あんたたちと揉める気はない」
「それは有難い。この先の我らの里を侵犯しない限り、森の恵みは共に享受すればいい。この島は竜神さまの島だが、あの方は人間を拒むつもりは無いからな」
竜神とは恐らくルッカの使者の言っていた、『大人しい竜』の事だろうと、ヴァージルは頭の中で考えている。
その竜が温厚だからこそ、目の前の蜥蜴人も、人と揉める気ないのだろう。
「それだけを言いに来たわけじゃないだろう?」
「ああ、そうだ。この島に人間の聖者が居ると聞いている。できれば会わせて欲しい」
フローラさまに会いたいと言うのか?
見た限り敵意は無さそうだし、蜥蜴人は賢い連中だ。
いたずらに、もめ事を起こすような奴らじゃない。
友好を保てば義理堅く接してくれるし、不義理な人間などよりよっぽど信用できる手合いだ。
アタナシアはまだまだ大きく戦力不足だし、彼らの協力が得られるのは大きい。ただ、これは私一人で即答できる問題じゃないな。
「女王陛下がお会い下さるか保証はできないが、それで良ければ貴方を連れて行こう」
「勿論それで構わない。宜しく頼む」
蜥蜴人の戦士はロルキと名乗った。
蜥蜴人とは人型の亜人の一種だ。
魔物ではあるが基本的には中立の種族で、滅多な事では人間とは争うとしない。
ただ決して温厚な種族ではなく、戦いともなれば雄々しく勇敢に戦う。
また、個体によってバラツキはあるが、亜人の中では極端に上等な装備を身に着けている。以上の事から彼らは優秀な戦士であり、その戦闘力は凄まじい。
成人の個体で2メートルを超える身長と、強靭な体躯、しぶとい生命力をも兼ね備え、環境の変化にも強い。
河川や湖沼、または山岳地帯に棲むのが一般的で、古来より竜を神として崇めている。
蜥蜴人の多くは戦士だが、中には魔法や精霊を使役する個体も存在する。亜人の中では最も人間に近い高等な種族と言えるだろう。
そんな彼らがフローラに何か話があると言う。
快く申し出を受けたのが好印象だったのか、ロルキと彼が従える蜥蜴人たちが狩りを手伝ってくれた事で、調査隊は予定よりも早く帰路に着くことができた。
「あんたたちが手伝ってくれて助かった。礼を言う」
「こちらの願いを快く聞いてくれた礼だ。我らは義理と筋はどんな事をしてでも通す」
「ああ、知っているよ。交易相手としても信用できる。騙そうとしてくる人間などよりよほど信頼できる」
「なるほど、別の氏族と関りがあったのか。道理で我らに詳しいわけだ」
ああ、よく知ってるさ。
じゃなければ女王陛下に会わそうとは思わんしな。
ただ、これは意外と良い買い物になるかもしれん。
*****
アナスタシアの恋の行方をどうするか思案中です(´ー+`)
*****
今回の目的は森林の大まかな生態を調べる事と、当座の食料を持ち帰る事だった。
捕らえた野生動物や、食用に耐える魔物を狩っては、日持ちがする保存食に換えるのは、交易をしながら大陸を巡っていたヴァージルらしい妙案だった。
ヴァージルとオルセン、そしてユリウスが集まって今後の日程について話し合っている時だった。
「ん? 向こうが騒がしいですね」
島の西側、山岳地帯の方角を指差して、オルセンはそう言った。
「……あれは蜥蜴人だな。竜が棲む島なら居るだろうとは思っていたが」
調査隊の誰かと、ひと際大きい人影が何やら騒いでいるようだ。ヴァージルはその大きな人影を蜥蜴人だと言った。
「魔物ならワシらが出るが?」
剣の柄に手を掛けながらユリウスがそう言うが、ヴァージルがそれを制した。
「彼らの領域を侵さない限りは、基本的には中立な種族ですよ」
ただ、そう言ったヴァージルも、難しそうな顔つきで騒ぎを見つめている。
「とりあえず行ってみますか」
「ユリウスさまはこちらでお待ちを、彼らとは私たちが話をしてきますので」
―――
「何を騒いでいる?」
「あ、隊長、この魔物がさっきから文句を付けて来やがって!!」
何事かと問われた調査隊の男は、蜥蜴人の一人に対して敵意を剥き出しにしていたが、肝心の蜥蜴人のほうは、何とか話をしようとしている風だった。
「いいから。この蜥蜴人とは、私が対応をするから」
「お前は私の話を聞く気があるのか?」
蜥蜴人はとても流暢に人語を操っていた。表情こそ変化に乏しいが敵意があるようには見えない。
武器は所持しているがそれを抜く気も無さそうだった。
「ああ、あんたたちと揉める気はない」
「それは有難い。この先の我らの里を侵犯しない限り、森の恵みは共に享受すればいい。この島は竜神さまの島だが、あの方は人間を拒むつもりは無いからな」
竜神とは恐らくルッカの使者の言っていた、『大人しい竜』の事だろうと、ヴァージルは頭の中で考えている。
その竜が温厚だからこそ、目の前の蜥蜴人も、人と揉める気ないのだろう。
「それだけを言いに来たわけじゃないだろう?」
「ああ、そうだ。この島に人間の聖者が居ると聞いている。できれば会わせて欲しい」
フローラさまに会いたいと言うのか?
見た限り敵意は無さそうだし、蜥蜴人は賢い連中だ。
いたずらに、もめ事を起こすような奴らじゃない。
友好を保てば義理堅く接してくれるし、不義理な人間などよりよっぽど信用できる手合いだ。
アタナシアはまだまだ大きく戦力不足だし、彼らの協力が得られるのは大きい。ただ、これは私一人で即答できる問題じゃないな。
「女王陛下がお会い下さるか保証はできないが、それで良ければ貴方を連れて行こう」
「勿論それで構わない。宜しく頼む」
蜥蜴人の戦士はロルキと名乗った。
蜥蜴人とは人型の亜人の一種だ。
魔物ではあるが基本的には中立の種族で、滅多な事では人間とは争うとしない。
ただ決して温厚な種族ではなく、戦いともなれば雄々しく勇敢に戦う。
また、個体によってバラツキはあるが、亜人の中では極端に上等な装備を身に着けている。以上の事から彼らは優秀な戦士であり、その戦闘力は凄まじい。
成人の個体で2メートルを超える身長と、強靭な体躯、しぶとい生命力をも兼ね備え、環境の変化にも強い。
河川や湖沼、または山岳地帯に棲むのが一般的で、古来より竜を神として崇めている。
蜥蜴人の多くは戦士だが、中には魔法や精霊を使役する個体も存在する。亜人の中では最も人間に近い高等な種族と言えるだろう。
そんな彼らがフローラに何か話があると言う。
快く申し出を受けたのが好印象だったのか、ロルキと彼が従える蜥蜴人たちが狩りを手伝ってくれた事で、調査隊は予定よりも早く帰路に着くことができた。
「あんたたちが手伝ってくれて助かった。礼を言う」
「こちらの願いを快く聞いてくれた礼だ。我らは義理と筋はどんな事をしてでも通す」
「ああ、知っているよ。交易相手としても信用できる。騙そうとしてくる人間などよりよほど信頼できる」
「なるほど、別の氏族と関りがあったのか。道理で我らに詳しいわけだ」
ああ、よく知ってるさ。
じゃなければ女王陛下に会わそうとは思わんしな。
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