うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

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第2章『聖女王フローラ』

第34話「聖女さま争奪戦…ユーグの場合」

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 やっべえ……
 クレールさま、所かまわず男を誘いまくるからな……
 男色なのは個人の趣味だからいいけど、毎日のように誘ってくるからな……
 意外と野獣なんだよな。

 しかし、俺にはフローラさまという意中の人が!
 女王陛下になられて、遠い存在になってしまったが諦めないぞ。

 その昔、俺は酷い失恋をした。
 それからというもの、真剣に女を好きになった事はなかった。
 好きだったアイツとはだいぶタイプは異なるが……
 いやアイツの事はもういい。

 俺はフローラさまが好きなんだ。
 お? 丁度いい所にフローラさまが!
 争奪戦は俺が一歩リードしてやるぜ!

「フローラさま!」

 イケメン特有の目力を発揮しつつ、ユーグは渾身のスマイルをフローラに放った。

「あら、ユーグさん。御機嫌よう」

 フローラは野菜モーニングスターの素振りを丁度、一セット終えた所だった。

「また微妙な形の変なの持ってますね……」

「これですか? これのお陰で野菜の杖の悪夢を払拭できました♪」

 ここ最近色々あったしな。
 フローラさまが少しくらいおかしくなっても。
 俺は気にしない。

「そ、そうですか。最近はニラも大丈夫になったとか?」

「そうなんです。ニラ玉美味しいですよね」

 う!
 俺のイケメンスマイルが効かないどころか、逆にフローラさまの笑顔でどうにかなってしまいそうだ。
 こんな女神と一晩一緒に居て耐えきれるとは、やはりクレールさまの男色疑惑は確定だ。

「フローラさま! 女王さまになられましたし、結婚相手も探さないといけませんよね」

 まずはジャブからだ。
 小手調べと行こうじゃないか。

「け、結婚ですか。でもあのヘタ……いいえ、特に意中の方も居ませんし……」

 あのヘタレは男色です!!!
 あの人はリコ司祭とよろしくやっていますよ!!

「俺は好きです!!」

 うお!
 もじもじしてる姿につい言ってしまった!
 しかし、既に矢は放たれた!
 こうなったら押しまくるぜ!!

「……本当ですか?」

 こ、これは!
 まさかの両想い!?

「本当ですよ! ずっと好きでした! はじめてお会いした時から!!」

 どうだ!
 俺はクレールさまとは違う!!

「嬉しい……」

 うおおお!!
 争奪戦は俺がぶっちぎりで勝利だ!

「……と思いますよ!」

 ん?
 と、思う?
 何が?

「えっと、それはどういう?」

「イルマが好きなんですよね!!」

「え、い、いや、昔はそうでしたが……」

「今も好きだと言いたかったのですよね!!」

 え?
 何がどうなったら、そうなるの?
 いや、昔は好きだったけど、フラれてるし……

「え、いえ、フラれているので……」

「おかしいですね。イルマは貴方が好きですよ」

 え?
 そんなはずはない。
 だってそんな素振り見せてないし。
 何年も前にフラれている。
 そんなはずはない。

「ユーグさん? どうかしましたか」

「あ、いいえ、何でもないです」

「では私は素振りに戻りますね」

「あ、は、はい。失礼します」

 ぶうん、ぶうん、という凶悪な素振りの音も、ユーグの耳には入っていなかった。

 ユーグは数年前に、イルマに想いを伝えるも望みは叶わなかった。
 そもそもフローラを助けたのも、理由の多くはイルマを一人で行かせたくなったからだった。
 もしもの事があれば、イルマを守って死ぬ覚悟もあった。
 想いは叶わずとも、せめてイルマを守って死のうと思っていた。
 そんな叶わぬ恋を捨て去る為に、ユーグはフローラに目を向けたのだが、意外な事を聞かされてすっかり困惑してしまっている。

「……アイツの気持ちを確かめないと、俺は先には進めない」

 他には誰も居ないこの場所で、ユーグは自分に言い聞かせるように呟いていた。



―――



「イルマ! 待ってくれ!!」

「あ、ユーグ。そんなに急いでどうしたの?」

 イルマは両手いっぱいに収穫したばかりのニラを抱えていた。
 ヒルダの野菜の杖を使って植えたニラだった。

「お前は俺の事が好きなのか?」

 ユーグには最早、回りくどい事をするつもりは無かった。

「な、何を言っているの? あはは―――」

「俺は真剣に聞いているんだ。答えを聞かせてくれ」

「……何よ、今更。鈍感!」

 やっぱりフローラさまの言う通りだった。
 でも、だったら何故?

「何年か前に好きだって言っただろ」

「だから、ずっと待っていたのに!! ユーグが私を放っておくからでしょ!!」

 え?
 何か話が噛み合ってないけど。
 要は両想い?

「俺はお前が町に帰ってきたから、フローラさまを助けに行くって言うから、お前の為に力を貸したんだ。例え想いは叶わずとも、お前の為になら死んでもいいと思ったから」

「……」

 ユーグの本音を聞いてもイルマは、何ひとつ語ろうとはぜず、そのまま踵を返して来た方へ向かって歩き出してしまった。しかし、ユーグは振り返るイルマの横顔に、溢れんばかりの笑顔と、嬉し涙が一滴伝っていたのを見逃さなかった。

「おい! 待てよ!!」

 弾むような嬉しそうな声で、ユーグはイルマの後を追いかけた。





*****

フローラは天然なので何も考えていません(´ー+`)

*****

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