うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

文字の大きさ
上 下
44 / 77
第2章『聖女王フローラ』

第33話「神聖王国アタナシア」

しおりを挟む
「では、聖都の名はユハ、国名はアタナシアとします。フローラさま、それで宜しかったでしょうか?」

 フローラはこくりと頷いた。そしてひと呼吸置いた後にこう宣言した。

「今からこの地が聖都ユハであり、神聖王国アタナシアとなります。貴方たちの献身と信心が神々の御許へと届くように。この私も聖女王として国と民と、神々にお仕えしたいと思っています」

「聖女王フローラさまに!」

「女王陛下に!!」

「「「聖女王陛下フローラさまに、身を粉にしてお仕え致します!!!」」」


 この瞬間を以てもって、マイオ島に神聖王国アタナシアが生誕することとなった。

 王都の名は聖都ユハ、勿論、フローラの母親の名である。
 そして国名のアタナシアは、不滅を意味する神々の言葉だ。フローラはこの地から神々の不滅の恩恵と、恩寵を、あまねく大陸の全土にもたらすために、アタナシアと名付けたのだ。

 神聖王国アタナシア誕生の知らせは、大陸中を瞬く間に駆け巡り、諸国の間にさまざまな影響を与えていた。
 もともと絶大な名声を勝ち得ていたフローラなので、建国の知らせは市井の者たちにとっては、女神が降臨したとばかりに大陸のあちらこちらで大歓迎された。
 ただ、それらの事は事前に懸念していた、ある問題を助長する事にも繋がっていった。
 
「ヴァレンテさまに頂いた資金と、百余名の信徒たちのお陰で何とか国の体裁は取れていますが……」

 芳しいとは言えない報告書を片手に、ヴァージルが聖都の現状を説明しているが、差し当たった問題に言葉を詰まらせてしまった。

 マイオ島を差し出したルッカに追従して、トスカーナとリグリアからも物資が届く予定ではあるが、もともと望んで得ようとしたわけでもないし、催促するのも体裁が良くない。
 そう言った事情で自分たちで現状の問題に取り組む必要があった。

「まずは食糧問題ですね。食は国の基本ですから……ただ、今から種を植えても収穫はおよそ四か月後です」

 ヴァージルの言わんとする事を、自身の見解を踏まえてリコ司祭が補足を加えた。

 フローラは一瞬、『野菜の杖』が脳裏に過ぎるよぎるが、彼女はアレに手を触れると錯乱する謎の病に冒されている。最近では『ニラ』が食卓にのぼるだけで様子がおかしくなる。
 その為、神聖王国アタナシアでは、『ニラ』は悪魔の食材として忌避されていた。

「そうなると海か森に、当座の収穫物を求めるしかありませんね」

 剣聖クレールが女王のすぐそば侍りはべりながら意見を述べた。

 女王フローラの身辺は、すぐ隣をクレールが警護し、この簡易な謁見の間を総勢十名の女王の親衛隊が守護している。
 親衛隊は全て女性だけで編成されていた。栄えある初代の親衛隊隊長にはアナスタシアが選ばれた。

 当初はミランダが選出されたのだが、元オルビア王国の中核を担っていた事で、愚王に加担した自分が栄誉を与るあずかるわけにはいかないと固辞している。
 勿論そんな風に彼女を見ている者は誰一人として居ないのだが、それが彼女なりのプライドだったのだ。

「海か森なら、まずは森でしょうか?」

 フローラが感想を述べた。
 彼女にとって国政を担うのは、ほとんど初体験に近かった。

 しかし、彼女の元にはその道のエキスパートが揃っている。

 建国の噂を聞いてあの男からも帰参の願いが届けられ、フローラは二つ返事で了承している。
 オルビア王国の滅亡は切欠を作ったのはフローラだが、実際に滅ぼしたのは希代の軍師シバだ。

 そのシバがアタナシアにやってくる。
 しかも、ただやってくるわけではない。実に彼らしい手土産を携えてやってくる。

「そうですね。森林地帯の調査も兼ねて人を派遣しましょう」

「それならば私が行きましょう。これでも数年前までは領地経営していましたし。クレールさまのほうが経験豊富でしょうけど、女王陛下の警護の任がありますので」

 元男爵だったヴァージルが手を挙げた。彼には数年間の交易商人としての豊富な知識と経験もある。

「ならワシがヴァージル殿の警護を担おう。お爺ちゃん枠と言っても無駄飯を食らうつもりはないぞい」

 そう言ってユリウス将軍が『ハッハッハ』と笑った。

 四散していた将軍の配下の者たちも、およそ半数がアタナシアに集っている。
 今のこの国の主戦力は、彼ら元オルビア王国の王立騎士団だった。
 フローラが盟主を引き受けた代わりに解放された者たちだ。

 彼らはフローラの為ならどんな事でもするし、率先して死を厭わずいとわず戦うだろう。

「では、森林の調査をヴァージル卿に命じます。良い成果を期待していますよ」

 片膝をついて『拝命します』とヴァージルは、とても満ち足りた顔でそう言った。





*****

ベタな内政エピソードにはしないと思います(´ー+`)

*****

しおりを挟む
感想 212

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...