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第2章『聖女王フローラ』
第32話「諸国の思惑①…ルッカ王国」
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ルッカの王宮では、王の男が苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
何故なら彼の思い描いていた事と、現状に大きな隔たりが生じていたからだ。
「お前はそう言われてあの島を、『はいそうですか』と差し出したのか?」
国王サイードは使者に派遣した男爵サイラスを、そう詰問している。サイラスにしてみれば、その場に居たわけでもなしに、と思っているが、口に出すわけには行かない。
「仕方がないでしょう。陛下、まさかアルベール皇子が出てくるなど予想外でした。このような無能な男を使者に送った私の不手際です」
女宰相リーサンネが男爵を庇うような事を言うが、別に擁護しているわけではない。状況が変わったとは言え、無能ぶりを発揮しただけの男を、さっさと視界から除きたかっただけだ。
「ふん。この男が無能なだけだ。さっさと失せろ」
ルッカ代表サイラスは内心で理不尽な思いをしつつも、国王の御前から足早に立ち去った。
「しかし、如何なさるおつもりでしょうか?」
「聖女としては優秀かもしれん。だが大国の皇子と言うだけの小僧に守られているか弱い女だ。器量はすこぶる良いらしいじゃないか? お前の妾にでもしたらどうだ」
リーサンネの女癖の悪さはルッカではとても有名だった。
見目麗しい女を片っ端から囲っては、悪趣味な愛で方をした挙句に最後には壊してしまう。
「さようでございますか。確かに陛下にお仕えするには気品に欠ける、粗野な女でございましょうね」
ルッカ王国では当初、サイラスが一貫して取っていた態度のように、実利だけを引き出してフローラは適当に遊ばせておくという腹積もりだった。所がアルベールが出てきて目論見が潰えると、この国王サイードと、女宰相リーサンネは狂ってしまった軌道を修正しようと動き始めたのだ。
女宰相リーサンネは思っていた。
新しい玩具は、これまでのども玩具よりも壊し甲斐があるし、絶対的に清いものを己の邪心で穢すのは、この上もないほど蠱惑的だと。
リーサンネの女の部分が嬌声を上げていた。
「どうせならあそこを少しばかり開発させてから、聖女とその麾下の人材ごと奪い取ってやるか」
「さすが陛下、私も同感にございます。無知な女と、それに惑わされるような男どもなら、私が調教して陛下に尽くす犬に変えてご覧に入れますよ」
確かにルッカの家臣団はリーサンネに尻尾を振る犬ばかりだ。
彼女が過剰に自信を持つのも分からなくはない。
何しろこの国には並程度の人材しか居ないのだから。
それでも豊かな穀倉地帯に、恵まれた地形、攻めても守っても良し。そんな恵まれた土地に王朝を築いてから百年以上が経過している。
このリーサンネならオルビア地方軍の補佐くらいは務まっただろうが、所詮はその程度だ。
国王のサイードに至っては、リーサンネに飼いならされている犬なのだから言うまでもない愚か者だ。
「さすがリーサンネ。お前が私の右腕で幸せだ、どうだ今夜は―――」
好色なサイードは口の端を釣り上げながら、リーサンネに手を伸ばそうとする。だが、彼女がそれをやんわりと払いのけてこう言った。
「王妃さまに告げ口しますよ。ふふふ」
「そういうつれない所がお前の魅力だ。聖女フローラを捕えたら身を清めて私の寝所へ連れてこい。そなたは女ゆえ、初めてかどうかは気にするまい?」
サイードも想像していた。
まっさらな白い布の上に、墨を一滴づつ垂らすように、聖女フローラを穢す快感を。
「ええ、私は壊すのが好きな女ですから」
「そうだろうな。全てはお前に一任するぞ」
「畏まりました。頃合いでルッカ軍を差し向け聖女を捕え、ルッカに忠実に尽くす女にしてしまえば都合は良いでしょう」
「トスカーナ辺りも同じことを考えるだろう。あちらも気を付けよ」
陛下、貴方に言われるまでも無いですよ。
私がこのルッカを統べる真の支配者なのですから。
国王も王妃も、私の野心の道具でしかない。
聖女フローラを私の可愛い子猫に変えてあげましょう。
彼女を得れば、他の三国も得られるし、アルベールもオマケについてくるもの。
聖女の配下には他にも美女が多いと聞いているし。
ふふふふふ。
*****
さぼっていた本編進めました(´ー+`)
*****
何故なら彼の思い描いていた事と、現状に大きな隔たりが生じていたからだ。
「お前はそう言われてあの島を、『はいそうですか』と差し出したのか?」
国王サイードは使者に派遣した男爵サイラスを、そう詰問している。サイラスにしてみれば、その場に居たわけでもなしに、と思っているが、口に出すわけには行かない。
「仕方がないでしょう。陛下、まさかアルベール皇子が出てくるなど予想外でした。このような無能な男を使者に送った私の不手際です」
女宰相リーサンネが男爵を庇うような事を言うが、別に擁護しているわけではない。状況が変わったとは言え、無能ぶりを発揮しただけの男を、さっさと視界から除きたかっただけだ。
「ふん。この男が無能なだけだ。さっさと失せろ」
ルッカ代表サイラスは内心で理不尽な思いをしつつも、国王の御前から足早に立ち去った。
「しかし、如何なさるおつもりでしょうか?」
「聖女としては優秀かもしれん。だが大国の皇子と言うだけの小僧に守られているか弱い女だ。器量はすこぶる良いらしいじゃないか? お前の妾にでもしたらどうだ」
リーサンネの女癖の悪さはルッカではとても有名だった。
見目麗しい女を片っ端から囲っては、悪趣味な愛で方をした挙句に最後には壊してしまう。
「さようでございますか。確かに陛下にお仕えするには気品に欠ける、粗野な女でございましょうね」
ルッカ王国では当初、サイラスが一貫して取っていた態度のように、実利だけを引き出してフローラは適当に遊ばせておくという腹積もりだった。所がアルベールが出てきて目論見が潰えると、この国王サイードと、女宰相リーサンネは狂ってしまった軌道を修正しようと動き始めたのだ。
女宰相リーサンネは思っていた。
新しい玩具は、これまでのども玩具よりも壊し甲斐があるし、絶対的に清いものを己の邪心で穢すのは、この上もないほど蠱惑的だと。
リーサンネの女の部分が嬌声を上げていた。
「どうせならあそこを少しばかり開発させてから、聖女とその麾下の人材ごと奪い取ってやるか」
「さすが陛下、私も同感にございます。無知な女と、それに惑わされるような男どもなら、私が調教して陛下に尽くす犬に変えてご覧に入れますよ」
確かにルッカの家臣団はリーサンネに尻尾を振る犬ばかりだ。
彼女が過剰に自信を持つのも分からなくはない。
何しろこの国には並程度の人材しか居ないのだから。
それでも豊かな穀倉地帯に、恵まれた地形、攻めても守っても良し。そんな恵まれた土地に王朝を築いてから百年以上が経過している。
このリーサンネならオルビア地方軍の補佐くらいは務まっただろうが、所詮はその程度だ。
国王のサイードに至っては、リーサンネに飼いならされている犬なのだから言うまでもない愚か者だ。
「さすがリーサンネ。お前が私の右腕で幸せだ、どうだ今夜は―――」
好色なサイードは口の端を釣り上げながら、リーサンネに手を伸ばそうとする。だが、彼女がそれをやんわりと払いのけてこう言った。
「王妃さまに告げ口しますよ。ふふふ」
「そういうつれない所がお前の魅力だ。聖女フローラを捕えたら身を清めて私の寝所へ連れてこい。そなたは女ゆえ、初めてかどうかは気にするまい?」
サイードも想像していた。
まっさらな白い布の上に、墨を一滴づつ垂らすように、聖女フローラを穢す快感を。
「ええ、私は壊すのが好きな女ですから」
「そうだろうな。全てはお前に一任するぞ」
「畏まりました。頃合いでルッカ軍を差し向け聖女を捕え、ルッカに忠実に尽くす女にしてしまえば都合は良いでしょう」
「トスカーナ辺りも同じことを考えるだろう。あちらも気を付けよ」
陛下、貴方に言われるまでも無いですよ。
私がこのルッカを統べる真の支配者なのですから。
国王も王妃も、私の野心の道具でしかない。
聖女フローラを私の可愛い子猫に変えてあげましょう。
彼女を得れば、他の三国も得られるし、アルベールもオマケについてくるもの。
聖女の配下には他にも美女が多いと聞いているし。
ふふふふふ。
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さぼっていた本編進めました(´ー+`)
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