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第2章『聖女王フローラ』
第30話「聖女さま争奪戦…エンシオの場合」
しおりを挟む『洞窟で二人きりなのに、手を出さなかった』というクレールのフローラに対する態度は、ある者たちからはより一層に尊敬を集めたが、その他の者たちにはクレールの趣味趣向がノーマルではないという疑惑を生んでいた。
この三人もその疑惑に恐怖する反面、都合が良いとも思っていた。
「まさかクレールさまが男色とはね」
「ああ、剣聖さまに遠慮してたけど、女に興味が無いなら……」
「俺なら今頃、フローラさまと婚約くらいしちゃってるぜ」
アルベールらが集まって何やらクレールとフローラの噂をしているようだ。
「恨みっこなしだよな?」
「口説いた者勝ち!」
「フローラさまを落とした時点で、残りの二人は退場な!」
アルベール、エンシオ、ユーグの三人はクレールが男色と知ると、フローラを懸けて勝負をはじめた。
先に口説いた者の勝ち、負けた者は即座に身を引いて勝者の邪魔をしない。
三人とも勝負事のように言って誤魔化しているが、それぞれがフローラを本気で愛している。
それは当然だろう。
フローラほど魅力に溢れた女性はそうは居ない。
今までは皆がクレールに遠慮をしていただけの事。
遠慮する必要が無いなら、途端にフローラ争奪戦が始まるのは自明の理である。
―――
「フローラさま!」
「あら? エンシオさま」
う!
美しい……
こんな女神と一晩一緒に居て何もしないとかあり得ないでしょ。
必ず僕の気持ちをお伝えして、アドネリアと、いずれフローラさまが建国される国の架け橋になりましょう!
僕は結婚しても貴女さまを一生聖女として敬いますからね!
「外はいい天気ですよ。散歩でも如何ですか?」
「いいですね。ご一緒します」
「やった!」
どうですか?
僕結構モテるんですよ!
でも、フローラさまに一途に尽くします!
あの無礼な三カ国は、全てアドネリアが滅ぼしますよ!
「ふふふ、そんなに嬉しいですか?」
「はい!」
嬉しいですよ!
貴女さまと一緒なのがね!
「散歩が好きなのですね」
「あ、ああ、はい!」
ちがう!
違くないけど違う!
もしかして……
いや、うん
ああ、うん
これは手強いな
はっきり言ったほうがいい感じ?
ただの散歩で喜ぶ20歳の王子がどこに居ると……
クレールさま実は凄いんじゃ
どうやってその気にさせたんだ……
「最近、素振りが趣味なんですよ。ふふふ」
「え……は、はい。え?」
「毎朝、素振り百本です」
「な、なるほど、剣術とかですか?」
「いえいえ、野菜のモーニングスターですよ」
え……?
野菜のモーニングスターって?
そう言えば、こないだも奇妙な形の杖を見つめて『殺ってしまいました』とか、ブツブツ言ってたけど、あれ、フローラさまって、危ない人?
野菜の形のモーニングスターなのか?
モーニングスターの形の野菜なのか?
ちょっと気になって、今夜寝れませんよ!
「ええと、それはどういう?」
「私の運命らしいのです」
おおい
また変な事言い始めたぞ!
「こないだも、変な杖を持っていましたね? 野菜の杖?」
「……何の話しですか? 韮なんて知りませんよ。あの日はずっとお祈りしてましたし。愚王さんの頭髪を韮に変えたのは、きっと別のフローラさんです。私のそっくりさんがやったのです」
あれ。
妄想系の病気?
お医者さん探したほうがいい感じですか?
それでも僕は貴女さまが好きです。
一生支えて、フローラさまを蝕む病魔から救いますよ!!
というか、なんで韮なの?
「そうなんですね。大変でしたね」
「いえ、別のフローラさんの仕業ですからね」
「そうなんですか。僕もフローラさまのコピー欲しいですね」
「え? どうしてですか?」
「フローラさまと、ずっと一緒に居れるじゃないですか」
よし!
どうだ!
これなら好きですって伝わるだろう!
「そんなに好きなんですか?」
「はい!」
やっと通じた!
これは早くも聖女さま争奪杯は、このエンシオの勝利!!
まずは公園デートですか?
一緒にお弁当ですか?
フローラさまは、お料理できますか?
僕は和洋折衷何でも作れますよ!
「そんなに一緒に居たいですか?」
「はい! ずっと好きでした! 僕の恋人になってください!!」
「ううん。それは本人に聞いてみますね」
「うん?」
「ですから、私のそっくりさんの事ですよね。彼女はいま遠い所に居ますから。くれぐれも言っておきますが、あの日、私はお祈りしていました。イルマと二人でお祈りを!! あぁぁぁ! 思い出したくないの!」
「あ、ああ、はい、大丈夫ですよ」
うん。
お医者さん探して来ますね。
でも、大丈夫です。
僕が絶対治してあげますから!
*****
次はモーニングスター?(´ー+`)
*****
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