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第2章『聖女王フローラ』

閑話「愚王クラウスの末路④…臭王誕生秘話」

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 興奮しすぎて鼻血を出したミランダを残して、フローラとイルマの姉妹は帰路を急いでいた。そこへ前方でうずくまる人影を見つけていた。

 人影は腹を抑えて苦しんでいるようだった。

「あのう? 大丈夫ですか?」

 心配そうな声色でイルマがそっと声を掛けた。

「あ、ああ、大丈夫だ。すまんがほっといてくれんかね?」

 男性の声が返ってくるが、イルマはこの男性を不審に思っていた。何故ならフードから、"ちらり"と見えた横顔が緑の肌をしていたから。
 イルマの脳裏に警鐘が鳴り響くが、人語を解するオークなど聞いた事が無い。そういう懐疑的な想いもあった。

(な、なんでフローラたちが!! 不味い!! この姿では余計に不味い! 早くどこかに行ってくれ! 私はもうそなたらに関わるつもりは無い!)

「大丈夫でしょうか?」

 イルマの心配を他所に、フローラは男性のフードに手を掛けた。
 男性の身体を心配してそうしたのだが、フローラの手を嫌って立ち上がろうとした男性のフードがめくれてしまった。

 フードが取り払われた男性の姿はオークだった。
 オークにしては貧相すぎたが、確かにどう見てもオークだった。

「いやあああ! やっぱりオークだったわ!! お姉さま、それ! その野菜の杖でやっつけてください!」

「え、ええ、わ、わかりました!」

 怯えるおびえる妹を守ろうとフローラは意を決して、野菜の杖を振りかぶっていた。

「ちょっと待て! 私だ聖王クラウスだ!! 話せばわかるうううう!!!」

 確かにやたらと緑色だったが、ひと目見て愚王であると気が付いていた。しかし時すでに遅し、フローラの放った野菜の杖の一撃は愚王の脳天を直撃していた。

「ぐおおおおおおお!! い、いたぁ!! な、なにをする! ぐはぁ!!」

 痛みに頭を抑えて騒いでいる。そんな愚王を、フローラたちは驚愕した顔つきで見つめていた。

(な、なんだ? 苦しみ悶える私に惚れてしまったのか! 仕方ないな!! 二人まとめてでもいいぞ!! ヒルダとアレコレして以来、ご無沙汰だしな!!)

「お姉さま、あれ? あれを見て! 愚王の頭のあれ!!!」

「あれとは何だ? ん、んん? あ、頭が変な感触がするぞ、おい、おまえたち、私の髪の毛ちょっと変じゃないか?」

「変っていうか、髪の毛がにらになってますけど……」

 ふるふる震えながらイルマが答えた。辺りにはにらの匂いが充満している。

「に、にら? にらあああああああああああああ!?」

「うわ! にら臭い!! 暴れないでくださいよ!!」

「き、貴様何をした!!」

 フローラはテンパっていた。
 幾ら愚王でも髪の毛が韮なのは哀れすぎる。
 何とか戻してやりたかったが、すぐに諦めた。

「あの……どなたですか?」

 ここでフローラは知らないふりをしようと、思いついていた。そもそも自分には『オークの知り合いなどいない』そう思う事で自分を納得させていた。

「お、おまえ、おまえがやったんだろうが!!」

「ごめんなさい……記憶にないです……」

 おお、哀れなフローラよ。早く帰ってお休み。

「たった今起こった事だろうが! 戻してくれ!! お願いします!!!」

 さすがに頭がにらではひどすぎる、必死に懇願したくなるのも無理はない。愚王クラウスは今世紀最大の土下座を繰り出していた。

にら臭いので、あ、あの、近寄らないで……イルマ、行きましょう」

「おいいいいい!!! 待てこらあああ!!!!」

「今日私たちはお祈りをしていました。外出なんてしていません。ええ、そうですとも。イルマ、帰ってごはんにしましょう」

 フローラは無かった事にした!! 都合が悪いから、無かった事にした!

 哀れ愚王よ。いや、臭王よ。

 クラウス・カルリエ。

 彼の通り名は、愚王、バカ王、そして臭王。


 フローラたちを見送ったあと、ヒルダは水晶玉を見つめてほくそ笑んでいた。
 未来を見通すほどの希代の魔女が、フローラと愚王の再会を見抜いていないはずがなかった。

 あの野菜の杖は確かに、フローラの建国事業に大きく貢献するだろう。
 しかし、あの杖を渡したのは、『ああなること』も水晶玉が教えてくれたからだ。

 今回はヒルダとフローラの強力タッグで悪に制裁を与えた。

 哀れな愚王は、もう既に人に混じって暮らしていける身体では無くなった。
 だがそれでもヒルダの瞳の奥には、より一層燃え盛る復讐の炎があった。




*****

アイス最中食べたくなったので、明日買ってきます(´ー+`)

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