うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

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第2章『聖女王フローラ』

第29話「洞窟ナイトパニック」

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 うぬううううう!!
 フ、フローラさま!!
 い、一体何を!!
 やはりアナスタシアに聞いておくべきだった!
 ど、どうすればいいのだ?
 まずは手を繋ぐ所からでは?
 い、いきなり、ほ、抱擁!
 わ、私にはレベルが高すぎる!!


 などと、剣聖さまがテンパっている間に、聖女さまもテンパっていた。


 あわわわ……
 イルマに言われた通りにしてみましたが。
 これで良かったのですか?

 フローラは覚悟を決めました!
 あわわわ……
 クレールさま、そ、その、キ、キキキ、キスくらいなら!
 し、してもいいのですよ!
 あわわわ……
 わ、私がここまでしたのですから。
 クレールさま?
 後は貴方が……


「あ、ああ、火、火を起こす途中でした!」

 え?
 私がここまでしたのに?
 もしかして、そう言う事ですか?

「寒いですよね! お待ちください!! フローラさま!!」

「いやあ、夜は冷えますね! ね? フローラさま!」

「そ、そうですね」

 ええ?
 そういえば私の事も見てくれませんね。
 イルマが言うには、そ、その胸とか? お尻とか? 水着は見てもらえましたが……
 クレールさまって女の人に興味ないとか?
 あの、アナスタシアさんとも、そんな感じではないですし。
 アナスタシアさんも、クレールさまをお好きですよね。
 多分、私の気持ちも彼女はご存知だと思いますが。

「はははは! そ、そうですよね! フローラさま!!」

 この男、やけに口数が多い。
 普段は寡黙というほどではないが、そこまで喋るほうでもない。
 話を振られれば応じるし、気配りも、心配りもできるほうなのだが。
 少し前から一人で喋っている。
 フローラの表情が暗い事を、いつもならすぐ気付くのに。
 今は自分の事で手一杯のようだ。

「クレールさま、お腹空きませんか?」

 フローラは今日の進展は諦めたのか、話題を変えてきた。残念そうだが微笑んではいる。
 そんな彼女の様子を見て、クレールのほうもホッとしているようだ。
 
「あ、はい、そうですね。フローラさまはどうですか?」

「この洞窟へ来る前に採取した山菜が少しあるので、それで朝ま―――きゃッ!」

「あ、フローラさま、危ない!」

 その時だった。
 クレールのほうへ移動しようとして、湿った洞窟の地面で足を滑らせてしまう。

「………あわわわ……あわわわ……」

「あ、こ、これは、わざとでは! フローラさまを抱き留めようとしてですね!! うぬううううう!!」

「……んッ……あ、あんま、りッ……」

 フローラの口から嬌声が漏れた。

 フローラはクレールの見事な身体の使い方のお陰で転倒する事なく無事に済んだ。
 だが別の意味で無事ではなかった。

 何故なら、とっさの事だったので仕方が無いが、フローラの胸を鷲掴みした状態に陥っている。あの音に聞こえた剣聖クレールは完全に混乱している。すぐさまフローラを離してやれば良いのだが、密着状態のフローラの匂いや体温、身体の柔らかさ、そして何より、豊満な胸の感触がクレールの思考力を奪っていた。

「あ、も、申し訳!」

「あッ……クレールさま……」

 フローラは打ち上げられた魚のように、口をぱくぱくして何かを伝えようとしている。
 通訳すると『まず、胸を離して下さい』だ。触られてる事に抵抗はあるが怒ってはいない。ただ、恥ずかしいだけだった。
 足を滑らせたのは彼女だし、救ったのはクレールだ。
 こんなゴツゴツした場所で身体を打ち付けたなら、大怪我では済まなかったかもしれない。
 満潮で外に出れない事を考えれば、命を落とした可能性もある。

「はい? 何でしょうか?」

 だから、胸を離してもらいたいのだ。クレールはそれさえ気付いていない。いや案外、すけべな男なのかもしれないが、彼の名誉の為にそれはないと言っておこう。

「む……」

「む? が、何ですか?」

「ね……」

「む、ね????」

 ほぼ正解なのにまだ気付かない。

「……離して!」

「む、ね、離して? あ、わああああああああああああああああああああ!!」

 クレールの脳みそでもようやく理解できたようだった。

「も、申し訳ありません!! この上は責任を取ります!!」

 え? あわわわ……
 け、けけ、結婚ですか!?
 胸触られちゃったのは恥ずかしかったですけど。
 作戦成功ですか?
 ちょっと、いえ、大幅に飛躍してますが。
 あわわわ……
 
「ど、どうやってです?」

 いつもなら責任と言われても、笑って遠慮するフローラだが、この『責任』だけは興味があった。

「腹を召します!!」

「……何でそうなるのですか? はああ……」

 なるほど。
 この人の相手は大変ですね。
 イルマの言った意味がわかりました。
 好きになる人を間違えたかもしれませんが……
 ずっとお慕いしていました。
 それに私なんかを、好きになって下さる方もいらっしゃらないでしょうし。

「いまは刀がありませんので、戻り次第すぐにでも!!」

「はい、どうぞお好きになさって……はああ……」


 翌日、『腹を召す』と言って大暴れしたクレールだったが、皆に止められて事なきを得る。理由を聞かれたが答えるわけにも行かず、それを傍で聞き耳を立てていたフローラもとても恥ずかしい想いをした。





*****

まあ、ここでくっついたら私が困りますけど(´ー+`)

*****

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