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第2章『聖女王フローラ』
第37話「蜥蜴人との邂逅②…頼み事」
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聖都を訪れた珍しい客人に、ある者は嫌悪を、ある者は恐怖を感じていた。今日は蜥蜴人のロルキがフローラと謁見をする日である。
「用件を聞きましょう。ロルキ殿、私は貴方を歓迎しますよ」
周囲の心配を他所に、フローラはいつも通りの彼女だった。
相手が人かどうかは関係ない。
蜥蜴人のロルキに対して、いつも通りに"にこり"と微笑んだ。
「人間の女王に感謝する」
ロルキはフローラの言葉に、短く感謝の言葉だけを返した。
だが、このロルキの態度を無礼だと、群臣の中から声を上げるものが居た。
最近になってフローラの傘下に入った、元オルビア王国の貴族や官僚たちだった。
諸国の支配や王都を領すシモンを嫌って、アタナシアにやって来ているが、何を勘違いをしているのか、聖都に来てから既に我が物顔に振舞いつつあった。
「無礼者! 魔物如きが我が国に何の用だ!!」
「女王陛下、このような者を歓迎するなどど、申すものではありませんぞ!」
王だろうが、女王だろうが、誤っているなら正すのが家臣の役目だ。この者たちはそういうつもりで苦言を呈しているが、フローラが元聖女で神殿暮らしの世間知らずという偏見を基準に、こういう苦言を言っている。
詰まる所、自らの主君を見下しているのだ。
ヴァージルたちのように、無条件で女王と認める輩ではない。いっそ放逐すべき所だが、生憎と聖都は依然として人不足が続いている。
このような者たちでも、居ないよりは幾分かマシだった。
「ロルキ殿、ご用件をお聞きします」
再び促されると、今度は深く頭を下げてからロルキは話しはじめた。
文句ばかりを言う群臣たちと比較して、ロルキは度量があり、周りを良く見る事ができるようだった。
旧オルビアの者たちはまだ何か言いたげにしていたが、フローラの手前、ようやく口を閉じていた。
「改めて感謝する。女王よ、我らの里を訪れ、病に苦しむ同胞を救っては頂けないか?」
このロルキの提案がなされると、謁見の間からざわめきが起こっていた。
「どう伝わっているかは分かりませんが、私にできるのは医術を施す事だけですよ」
「それで構わない。とにかく貴女は竜神さまの予言された方に間違いない。ならば我らはそれを信じるのみだ」
「竜神さまとは、山に棲む竜の事ですね」
『左様』とだけロルキは答えて頷いた。
即答しかねるフローラは、ヴァージルとリコ司祭を順に眺めてみるが、彼らは双方共に頷いて賛意を示してきた。彼ら二人が同意するのなら、古くからの家臣は皆が同意したようなものだった。
しかし、またしても、彼ら新しいものたちが口を挟んできた。
「女王陛下は国の主としての真髄が分かっておいでではない。このような不遜な輩たちの為に、わざわざ魔境へ行かれるおつもりか?」
尊大な言い方も気に留めず、旧オルビア侯爵は正面からフローラの批判をはじめた。
「それではロルキ殿、聖都での用件が済み次第、森林の貴方の里を訪れる事とします」
「女王陛下! 私はオルビアの侯爵ですぞ! それを無視するとは無礼ではありませんか!」
「今日はこの辺で閉会します。皆、下がりなさい」
それだけ言うとフローラは、そそくさと奥の部屋へ姿を消していた。
「お姉さま、良かったのですか? あの元侯爵さま、怒ってましたけど」
「いいのですよ。あの人は古い栄光にしがみつくしか能がない下らない人です。今はまだ人が足りませんから置いておきますが、要らなくなったらすぐに捨てます」
「そうですか。でも、大丈夫ですか? あの蜥蜴人は信用できそうですが、他の蜥蜴人までそうとは限りませんし」
「引き受けた理由は竜に興味があったからですよ。突然、訪ねて行くよりは、案内人がいるほうが良いでしょう。旧オルビアの人からしたら、竜と対面するなど、それこそ有り得ないでしょうけど」
予言ができる竜なんてそうは居ませんよ。
それこそ本当に竜神でなければできないはずです。
言葉の通りに本当に神なら、聖女として興味が無いと言うのは嘘になります。
この地上で出会える神として、唯一、現実的なのが竜神なのですから。
しかし、あの旧オルビアの人たちには参りますね。
あそこまでの気概があるのなら、愚王を諫めれば良かったものを。
先が思いやられますね。
それに私にはあの件もあるし……。
はああ、あのヘタレさんが、もっと頼りになれば困らなかったのに。
イルマのように幸せになれる人は、それだけで幸運ですね。
*****
影が薄いヘタレさんを登場させないと……(´ー+`)
*****
「用件を聞きましょう。ロルキ殿、私は貴方を歓迎しますよ」
周囲の心配を他所に、フローラはいつも通りの彼女だった。
相手が人かどうかは関係ない。
蜥蜴人のロルキに対して、いつも通りに"にこり"と微笑んだ。
「人間の女王に感謝する」
ロルキはフローラの言葉に、短く感謝の言葉だけを返した。
だが、このロルキの態度を無礼だと、群臣の中から声を上げるものが居た。
最近になってフローラの傘下に入った、元オルビア王国の貴族や官僚たちだった。
諸国の支配や王都を領すシモンを嫌って、アタナシアにやって来ているが、何を勘違いをしているのか、聖都に来てから既に我が物顔に振舞いつつあった。
「無礼者! 魔物如きが我が国に何の用だ!!」
「女王陛下、このような者を歓迎するなどど、申すものではありませんぞ!」
王だろうが、女王だろうが、誤っているなら正すのが家臣の役目だ。この者たちはそういうつもりで苦言を呈しているが、フローラが元聖女で神殿暮らしの世間知らずという偏見を基準に、こういう苦言を言っている。
詰まる所、自らの主君を見下しているのだ。
ヴァージルたちのように、無条件で女王と認める輩ではない。いっそ放逐すべき所だが、生憎と聖都は依然として人不足が続いている。
このような者たちでも、居ないよりは幾分かマシだった。
「ロルキ殿、ご用件をお聞きします」
再び促されると、今度は深く頭を下げてからロルキは話しはじめた。
文句ばかりを言う群臣たちと比較して、ロルキは度量があり、周りを良く見る事ができるようだった。
旧オルビアの者たちはまだ何か言いたげにしていたが、フローラの手前、ようやく口を閉じていた。
「改めて感謝する。女王よ、我らの里を訪れ、病に苦しむ同胞を救っては頂けないか?」
このロルキの提案がなされると、謁見の間からざわめきが起こっていた。
「どう伝わっているかは分かりませんが、私にできるのは医術を施す事だけですよ」
「それで構わない。とにかく貴女は竜神さまの予言された方に間違いない。ならば我らはそれを信じるのみだ」
「竜神さまとは、山に棲む竜の事ですね」
『左様』とだけロルキは答えて頷いた。
即答しかねるフローラは、ヴァージルとリコ司祭を順に眺めてみるが、彼らは双方共に頷いて賛意を示してきた。彼ら二人が同意するのなら、古くからの家臣は皆が同意したようなものだった。
しかし、またしても、彼ら新しいものたちが口を挟んできた。
「女王陛下は国の主としての真髄が分かっておいでではない。このような不遜な輩たちの為に、わざわざ魔境へ行かれるおつもりか?」
尊大な言い方も気に留めず、旧オルビア侯爵は正面からフローラの批判をはじめた。
「それではロルキ殿、聖都での用件が済み次第、森林の貴方の里を訪れる事とします」
「女王陛下! 私はオルビアの侯爵ですぞ! それを無視するとは無礼ではありませんか!」
「今日はこの辺で閉会します。皆、下がりなさい」
それだけ言うとフローラは、そそくさと奥の部屋へ姿を消していた。
「お姉さま、良かったのですか? あの元侯爵さま、怒ってましたけど」
「いいのですよ。あの人は古い栄光にしがみつくしか能がない下らない人です。今はまだ人が足りませんから置いておきますが、要らなくなったらすぐに捨てます」
「そうですか。でも、大丈夫ですか? あの蜥蜴人は信用できそうですが、他の蜥蜴人までそうとは限りませんし」
「引き受けた理由は竜に興味があったからですよ。突然、訪ねて行くよりは、案内人がいるほうが良いでしょう。旧オルビアの人からしたら、竜と対面するなど、それこそ有り得ないでしょうけど」
予言ができる竜なんてそうは居ませんよ。
それこそ本当に竜神でなければできないはずです。
言葉の通りに本当に神なら、聖女として興味が無いと言うのは嘘になります。
この地上で出会える神として、唯一、現実的なのが竜神なのですから。
しかし、あの旧オルビアの人たちには参りますね。
あそこまでの気概があるのなら、愚王を諫めれば良かったものを。
先が思いやられますね。
それに私にはあの件もあるし……。
はああ、あのヘタレさんが、もっと頼りになれば困らなかったのに。
イルマのように幸せになれる人は、それだけで幸運ですね。
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