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第2章『聖女王フローラ』
閑話「愚王クラウスの末路⑤…幻視の腕輪」
しおりを挟む「ちょっとあの人! 韮くさくない?」
「ああ、くっさいんだよな!」
「ちょっと、おっさん、韮くせーんだけど?」
「な、ぶ、無礼だぞ! 私は聖王! 聖王、えと聖王だ!」
危ない危ない、聖王クラウスと名乗る所だった……。
世に隠れのない名君!
喋ったらたちどころに発覚してしまうだろう。
「何が聖王だ! 臭王のくせに!! あんた臭いから出て行ってくれよ!!」
「な! ま、待ってくれ! 私はオークでは……」
「あんたは善良なオークだろ? それはいいんだよ。俺たちも鬼じゃないからな」
「いや、う、うん。ありがとう」
「いいんだよ。でもな、あんた韮臭すぎ!」
「あ、ああ、すまない」
「ちっ! しょうがねえな! 馬小屋でも良かったら使ってくれ」
「ああ、ありがとう! 屋根と壁があるだけマシだ! 恩に着る!!」
「はああ、寝藁もベッド代わりにしなよ」
「ああ! 助かる!!」
ここの村人は本当に善良だ!
私が王に返り咲いたら、全員公爵にしてやるぞ!
寝藁はダニが居て、かゆくなるのが玉に瑕だが意外といいな!
この馬房に住んでる馬のパインとも仲良しだ。
私はこれでも乗馬は得意だったから。
馬の扱いはとく―――いたたた! いたい!
「こ、こら、毛を食うな! い、いや、韮食べないで!! そ、それ、私の髪の毛だから! こらパイン!! 食うな!!」
―――
はああ、酷い目に遭った……
パインが寝るまで外で時間を潰そう。
この村から出なければ、オークだからと追われることはない。
ここの人たちは貧しいはずなのに、私にも食事を分けてくれる。
粗末な食事だが、食えるだけありがたい。
私も何かで彼らに恩返しがしたいな。
「ちょっと、おじさん?」
「ん、なんだい。お嬢さん、何か困っているのか?」
「ううん。おじさんが落ち込んでいるからさ」
「ははは、ありがとう、君は優しい子だな」
うう!
何て良い子なんだ。
しかも、心が容姿に現れている。
素晴らしい。
きっと良い青年を見つけて幸せになりなさい。
おじさんは応援するぞ!
「おじさん、ウチ来る? ごはんあるよ」
おおおおおお!!
またしても私に惚れてしまったか!
しかし、君には相応しい若者が居るはずだ!
しかし、気持ちには応じてあげないと!
クッ! こうなっては仕方ない!
臭王行きまーす!!
「わ、わるいな、じゃあ夕食だけな?」
「おじさん、つれないなー」
うおおお、オークなのにいいんですか!!
オークってモテる?
知らなかった。
王宮に籠ってて知らなかった。
これも貴重な体験だな!
「うん、じゃあ朝まで?」
「とか行って、途中で帰るんじゃないの?」
「そ、そんな事はないぞ!」
「うふふ。嬉しい♪」
―――
げふう。
久しぶりに満腹になったぞ。
そういえば、プリシラはどうしているだろうか。
あの子の為にも、また金を稼がないとな。
なんとか、娘もここに置いてもらえないだろうか。
その為なら、重労働でも、農業でも、何でもするぞ。
そうしないと、亡き妻に申し訳が立たないしな。
あの子は、亡き王妃に懐いていたから……
病死なんて言えなくて、男と逃げたと話したが。
本当の事を話したら、どんなに悲しんだだろう。
「おじさん、まだそんな格好? 早くお風呂入っておいでよ」
お嬢さんはすでに、全裸にタオル一枚の格好になっていた。
「お、おう! すぐに出てくるから待っていてくれ!」
「出て来たら、そこに置いてある腕輪嵌めてね? それすっごい媚薬なの」
「お、おう! それは楽しみだな!!」
―――
……ハッ!
い、何時の間に朝に?
お嬢さんは?
「……起きておるか?」
ふふ、まだ寝ているなら、寝ていなさい。
「ううん……もう、起きたの?」
「ああ」
あれ?
この娘さん、こんな髪色だったか?
昨夜は金髪のセクシーダイナマイトだったが……あれ?
心なしか肌もカサカサだし?
昨夜は張りのある、瑞々しい身体つきだったが……あれ?
「……ううん、おはよう、オークの兄さん♪」
「うわあああああ!! だ、だれだ、ばばあ!!」
「なんだい? 腕輪外したのかい? ちょっとそれ嵌めてみい」
はあ?
何言ってるんだ、このババアは、腕輪嵌めたって何が―――お、おお?
「どうだい? 腕輪嵌めると、20歳のピチピチギャル! 外すと90歳のあたし! あんた、ばば専かい? あたしゃどっちもいいぞい?」
「ば、ばば専なわけがないだろうが!!!」
「じゃあ、腕輪嵌めて、もう一戦いくかい? あんた昨夜、大ハッスルしとったじゃろ」
「え?」
「13回までは数えとったが、その先は覚えとらんわい」
なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
この婆さん相手に13回?
何を13回?
「よ、用事を思い出した! またな!!」
「腹が減ったらまた来るといいぞい!」
来るわけないだろう!!
二度と来るか!!
しかし、あの婆さん見覚えがあるな?
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―――
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「さすがはヒルダじゃな、久しぶりに満足したわい。爺さんが死んじまってずっと寂しかったんじゃ」
「平気ですよ。あのオークがまた来てくれますよ」
「しかしな、あのオーク、見覚えがあるんじゃ。誰だったかいのう?」
「他人の空似ですよ。ふふふ」
*****
オーク人生も意外とイケるようです(´ー+`)
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