うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていた女の物語~

珠川あいる

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第1章『流浪の元聖女』

閑話「プリシラとユリ科の侍女さん③」

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「プリシラさま、起きて下さい」

 ぐーぐーぐー

「プリシラさま? 朝ですよ」

 ぐーぐーぐー、ずぴッ、ぐーすか、ぐー

「……おい、早く起きろ、グズ」

 クラリスのドスの利いた声からは、凍てつくほどの殺気が迸ってほとばしっていた。

「……! あ、おはよう、クラリス」

「おはようございます。うふふふふ」

「夢かな? 凄い殺気を感じたんだけど……あと何か、クズ? グズかな? って聞こえたような……」

「怖い夢を見たのですね? かわいい、うふふふ、さあ、朝ごはんできてますよ」



―――



「で? 何で町に連れてきたの? お金も無いから何もできないわよ」

 そうなのだ。
 プリシラは父王の命で私財を全て失った。
 身の回りの物もほぼ全て奪われて、同じ服を洗濯しながら着回している。
 食事と粗末な住居以外は何も与えられていない。

「お金ならありますよ。伯爵さまから頂きましたし」

 絶倫爺さんから貰ったプレイ料金の事だ。
 中身がどのくらいなのかも当然、確認してみたが、わりと凄い金額だった。
 こんな額の礼金が何から得られたのかと、プリシラは好奇心をそそられた。しかし、触れてはいけない禁忌の扉もあるのだ。
 "血濡られた短剣事件"については、プリシラは触れないつもりでいる。

「あれは貴女のお金でしょ。家族の為にも取っておきなさい」

 プリシラにしては殊勝な事を言っているが、これは彼女の本心からの言葉だった。

「いいえ、今日はプリシラさまのお洋服を買いに行きましょう」

「ええ? 召使いに買ってもらう主人って……」

 既に食事の面でクラリスの給料が使われている。
 仕方の無い事でもあるが、王宮育ちのプリシラはその事に全く気付いていない。
 もうとっくに"いろいろな意味で"クラリスの世話になっている。
 
「いいじゃないですか」

「返せる時になったら返すわ」

「いいのですよ。私はプリシラさまを、自分好みに染めたいだけですから」

 つい本音が出てしまったクラリスだった。

「……何か言った? 聞こえないふりをしておく?」

 そういえば、この間も何か言っていたわね……

 この子、私をどうする気?

 クラリスが居ないと私は何もできないわ。

 だから逆らう事はできない。

 言うなれば、まな板の上の鯉よ。

「いいえ、プリシラさま、『まな板の上』なんて、とんでもないですよ」

 ぎゃあああああああああああああああああ!!!!

 いまこの子、私の心を読んだ? 

 な、何者? 私をどうするの!!!

? うふふふふ」

 気のせい? 試してみようかな? ……クラリスの年増女~!

「……おい、お前死にたいのか? 誰が年増だ、ああん?」

 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 こわ!

 だめ! 怒らせたらだめ!

 失言は命にかかわる!!

「お店につきましたよ。楽しみですね?」

「う、うん、そ、そうね……」



―――



「プリシラさま、こんなのはどうですか?」

 クラリスは、くまさんの着ぐるみを持ってきた。

「さっきから着ぐるみばかりじゃない? 方向性がわからないのだけど」

 そう言いながらも、プリシラの目は嬉々としている。
 クラリスに『早く、早く』と促されては、いそいそと着て見せる。この二人の様子は、端から見れば姉と妹にしか見えない。
 今年で20歳になったクラリスと、まだまだ子供の年齢のプリシラは、さぞかし仲の良い姉妹に見えただろう。

 少なくともこの頃までは、暮らし向きは貧しくとも、二人は幸せだった。

「わあ、かわいいですね。じゃあこれと、さっきの『うさぎさんパジャマ』も買いましょう」

 何時もはクールなクラリスも、この時ばかりは女性らしい反応を見せている。

「貴女の趣味ばかりのような気もするけど、私も案外気に入ったわ」

「帰ったら早速、着てみてくださいね」





*****

くまとうさぎなら、くまのほうが好きです(´ー+`)

*****

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