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第1章『流浪の元聖女』
第6話「祖父と孫娘風①」
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あてもなく彷徨うフローラの旅は順調だった。
もとより目的など無いのだから、平穏無事に旅が続けばそれで良かった。
「フローラさん! そろそろ着きますから!」
荷馬車に追走する騎馬の男が、街道のずっと先を指差しながら声を掛けてきた。
確かに彼の指差す方向には、朧げに町の輪郭が見え隠れしている。
「大きな町なのですね?」
「そうですね! 運河に沿っている土地なので活気がある所ですよ」
この辺りの街道は見通しの良い平野だが、右手の先の方には川幅の広い水面も姿を見せている。騎馬の男の言う運河とは、おそらくその川面のことだろう。
「はじめて行く町なので楽しみです」
フローラと騎馬の男のやりとりを、周囲の者たちも顔を綻ばせながら眺めている。
もともと彼女の生家は王都にほど近い、面白みに欠ける小さいな農村だった。フローラはこの隊商に同行してもう、二週間ほどになるが、その間にいろいろ見聞して回れている。
今目指している土地や町も、彼女にとっては初めて訪れる場所だった。
そんなフローラはここ数日になって、良く話すようになってきた。
荷馬車の進む速度はそれほどでもないが、それでもフローラにとっては知らない土地に、知らない景色ばかりなのだから、心が弾む心地を味わえて、自ずと笑顔も増えるというものだ。
気分が良くなれば、口数も多くなる。
「町に着いたら俺たちには商売がある。あんたは逃げない限り好きにしててくれ」
隊商の主ヴァージルは、こうは言ったが、フローラが逃亡するとは思っていない。
懐からくたびれた布の切れ端を取り出すと、銀貨を1枚包んでフローラに手渡した。
「これは……?」
ヴァージルの意図を測りかねて、フローラは疑問を口にした。
「折角、オルバの町に来たんだ。それで何か美味いメシでも食うといい」
ヴァージルはそう言うと、白い歯を見せてニッと笑った。
「ありがとうございます。王都でもずっと粗食でしたから、何を食べようか迷いますね」
「オルバならやっぱり魚がいいですよ!」
「いやいや、おめえ! やっぱ羊だろ! 鮮度が違うからな!」
やれ魚だの、羊だのと、たちまち昼食談義がはじまった。
オルビアの神殿では修行の一環と称して、聖女になってからも食事の質は変わらなかった。
もともと貧しい農家の出身だったし、フローラに不満は無かったが、彼女の立場と国への貢献を考えれば、ぞんざいに扱われていたと言わざるを得ない。
そんな彼女にとって今日の昼食はきっと、楽しい食事になるはずだ。
やがて町の遠景は間近にその姿を映し出す。
オルバの町への入場口は、大勢の商人や旅人たちでごった返していた。
「おっと、こりゃずいぶん混んでるな……フローラさん」
「はい? 何でしょうか、ヴァージルさん」
初めて来た王都以外の大きな町に、フローラは胸の高鳴る想いをしていた。
「あんたまで順番待ちしててもしょうがないから、ここからは歩いて町へ入るといい。ほら、この通行証を渡しておこう」
「あ、はい、ではお言葉に甘えて」
停止していた荷馬車から、少々躊躇いがちに地面を覗いていると、そばを通りがかった騎士風の老人がフローラに心配そうに声を掛けてきた。
「どれお嬢さん、ワシが手伝ってやろう」
騎士風の老人は身軽な動作で馬を降りると、手を差し出してフローラに促した。
「あ、はい。お手数をお掛けします」
「なんのなんの、これでも騎士の端くれじゃ。婦女子には親切じゃぞ?」
老人は太く逞しい腕でフローラを抱えると、ヒョイと地面に運んでくれた。幾ら小柄な女性とは言っても、フローラは成人している女性だ。それなのにずいぶん軽々とやってのけた。
見た目的には祖父と孫娘くらいの差があるのに、フローラは少しだけドキドキしていた。
閉鎖されがちな神殿の環境では、周囲を囲むのは女性ばかりだった。
こんなふうに異性に優しくされるのに彼女は慣れていない。
「ありがとうございます。騎士さま」
地面の感触を足の裏で確かめた後、フローラは優雅な身のこなしで一礼をした。
自分の言葉が少しばかり浮ついているのは、彼女自身も自覚できている。
「ではワシは失礼する。またどこかでな」
ひらりと馬に乗って遠ざかる老人の姿を見送りながら、フローラも町の入り口を目指して歩き出した。
―――
ここは運河と交易路の交差するオルバの町だ。
町の歴史は意外と古く、オルビアの王家が成立する以前からも存在している。その為か街並みに統一感はなく、ばらけた感は否めないが、この町を訪れるなら、夕景色を見ずして町を離れるのは頂けない。
夕闇に染まり始める頃、琥珀色に輝くオルバ運河の素晴らしさは、どんな美術品にも、どんな工芸品にも劣らない。その場でしばし、留まっておけば、おおよそ数千にも及ぶ町全体の夜景への移り変わりも楽しめるだろう。
「さて、どうしましょうかね?」
急に一人きりにされて手持ち無沙汰になるが、適当にその辺りを回ってみることにした。
まさかね。
こんなに楽しい想いができるとは思いませんでした。
今となっては少しくらいは、プリシラさまに感謝してもいいかも。
聖女の仕事に不満はありませんでしたが……
あのまま神殿に居るよりは、今のほうが幸せだと思います。
いけない。
こんなことを思ってしまうなんて。
私らしくはないですね。
あら……?
あれでしょうか。
オルセンさんの仰ってた総菜パンでしたっけ?
香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。
いつの間にか飲食店が立ち並ぶ一角へとやってきていたようだ。
すぐそばの露店には、先ほどオルセンから聞いた食べ物が売られている。
店主に声を掛けて値段を聞いてみるが、フローラの所持金で十分だった。
「お姉さん、一つ頂けますか?」
威勢の良い返事と共に、フローラの手に総菜のパンと釣銭を渡してきた。パンの間には、柑橘系の匂いをさせたソースを絡ませた紫色の大根とレタス、それに燻して薄切りになった豚肉が挟まれていた。
質素な味に慣れきっているフローラには少々味が濃すぎたのか、彼女は何か飲み物を買い求めようと立ち上がろうとした。
「飲み物は――きゃッ…!」
立ち上がろうとしたところで、視界の端からやってきた白髪の老人とぶつかってしまった。
「お、大丈夫かね?」
「あ、すみません。お怪我はありませんか?」
白髪の老人はにこやかな笑顔を見せている。
この老人は先ほど門の外で出会った、あの騎士風の老人だった。老人のほうも当然、そのことに気付いている。
「ワシは平気だがお嬢さんの昼飯は、悲惨なことになっておるのう」
ぶつかった拍子に手から落としてしまっている。
食べかけの総菜パンは確かに、石畳の上で無残な姿を晒している。
「汚れていないところだけ……」
そう言って総菜パンを拾うとするが、老人がフローラの肩に優しく手を置いて、それを制した。
「腹でも壊されたら夢見が悪いわい。ワシの昼飯に付き合わんか? どこでも好きな店でご馳走してやろう」
「そんな申し訳ないです」
本当に申し訳なさそうに俯いている。
「いいからいいから、年寄りのわがままを聞くと思って付いて来なさい」
フローラの返答を待たずに老人はさっさと歩きだしてしまった。断ろうか迷っている間に決まってしまったが、別に嫌な感じはしなかった。だから素直に従うことにした。
*****
2020/06/05 推敲
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もとより目的など無いのだから、平穏無事に旅が続けばそれで良かった。
「フローラさん! そろそろ着きますから!」
荷馬車に追走する騎馬の男が、街道のずっと先を指差しながら声を掛けてきた。
確かに彼の指差す方向には、朧げに町の輪郭が見え隠れしている。
「大きな町なのですね?」
「そうですね! 運河に沿っている土地なので活気がある所ですよ」
この辺りの街道は見通しの良い平野だが、右手の先の方には川幅の広い水面も姿を見せている。騎馬の男の言う運河とは、おそらくその川面のことだろう。
「はじめて行く町なので楽しみです」
フローラと騎馬の男のやりとりを、周囲の者たちも顔を綻ばせながら眺めている。
もともと彼女の生家は王都にほど近い、面白みに欠ける小さいな農村だった。フローラはこの隊商に同行してもう、二週間ほどになるが、その間にいろいろ見聞して回れている。
今目指している土地や町も、彼女にとっては初めて訪れる場所だった。
そんなフローラはここ数日になって、良く話すようになってきた。
荷馬車の進む速度はそれほどでもないが、それでもフローラにとっては知らない土地に、知らない景色ばかりなのだから、心が弾む心地を味わえて、自ずと笑顔も増えるというものだ。
気分が良くなれば、口数も多くなる。
「町に着いたら俺たちには商売がある。あんたは逃げない限り好きにしててくれ」
隊商の主ヴァージルは、こうは言ったが、フローラが逃亡するとは思っていない。
懐からくたびれた布の切れ端を取り出すと、銀貨を1枚包んでフローラに手渡した。
「これは……?」
ヴァージルの意図を測りかねて、フローラは疑問を口にした。
「折角、オルバの町に来たんだ。それで何か美味いメシでも食うといい」
ヴァージルはそう言うと、白い歯を見せてニッと笑った。
「ありがとうございます。王都でもずっと粗食でしたから、何を食べようか迷いますね」
「オルバならやっぱり魚がいいですよ!」
「いやいや、おめえ! やっぱ羊だろ! 鮮度が違うからな!」
やれ魚だの、羊だのと、たちまち昼食談義がはじまった。
オルビアの神殿では修行の一環と称して、聖女になってからも食事の質は変わらなかった。
もともと貧しい農家の出身だったし、フローラに不満は無かったが、彼女の立場と国への貢献を考えれば、ぞんざいに扱われていたと言わざるを得ない。
そんな彼女にとって今日の昼食はきっと、楽しい食事になるはずだ。
やがて町の遠景は間近にその姿を映し出す。
オルバの町への入場口は、大勢の商人や旅人たちでごった返していた。
「おっと、こりゃずいぶん混んでるな……フローラさん」
「はい? 何でしょうか、ヴァージルさん」
初めて来た王都以外の大きな町に、フローラは胸の高鳴る想いをしていた。
「あんたまで順番待ちしててもしょうがないから、ここからは歩いて町へ入るといい。ほら、この通行証を渡しておこう」
「あ、はい、ではお言葉に甘えて」
停止していた荷馬車から、少々躊躇いがちに地面を覗いていると、そばを通りがかった騎士風の老人がフローラに心配そうに声を掛けてきた。
「どれお嬢さん、ワシが手伝ってやろう」
騎士風の老人は身軽な動作で馬を降りると、手を差し出してフローラに促した。
「あ、はい。お手数をお掛けします」
「なんのなんの、これでも騎士の端くれじゃ。婦女子には親切じゃぞ?」
老人は太く逞しい腕でフローラを抱えると、ヒョイと地面に運んでくれた。幾ら小柄な女性とは言っても、フローラは成人している女性だ。それなのにずいぶん軽々とやってのけた。
見た目的には祖父と孫娘くらいの差があるのに、フローラは少しだけドキドキしていた。
閉鎖されがちな神殿の環境では、周囲を囲むのは女性ばかりだった。
こんなふうに異性に優しくされるのに彼女は慣れていない。
「ありがとうございます。騎士さま」
地面の感触を足の裏で確かめた後、フローラは優雅な身のこなしで一礼をした。
自分の言葉が少しばかり浮ついているのは、彼女自身も自覚できている。
「ではワシは失礼する。またどこかでな」
ひらりと馬に乗って遠ざかる老人の姿を見送りながら、フローラも町の入り口を目指して歩き出した。
―――
ここは運河と交易路の交差するオルバの町だ。
町の歴史は意外と古く、オルビアの王家が成立する以前からも存在している。その為か街並みに統一感はなく、ばらけた感は否めないが、この町を訪れるなら、夕景色を見ずして町を離れるのは頂けない。
夕闇に染まり始める頃、琥珀色に輝くオルバ運河の素晴らしさは、どんな美術品にも、どんな工芸品にも劣らない。その場でしばし、留まっておけば、おおよそ数千にも及ぶ町全体の夜景への移り変わりも楽しめるだろう。
「さて、どうしましょうかね?」
急に一人きりにされて手持ち無沙汰になるが、適当にその辺りを回ってみることにした。
まさかね。
こんなに楽しい想いができるとは思いませんでした。
今となっては少しくらいは、プリシラさまに感謝してもいいかも。
聖女の仕事に不満はありませんでしたが……
あのまま神殿に居るよりは、今のほうが幸せだと思います。
いけない。
こんなことを思ってしまうなんて。
私らしくはないですね。
あら……?
あれでしょうか。
オルセンさんの仰ってた総菜パンでしたっけ?
香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。
いつの間にか飲食店が立ち並ぶ一角へとやってきていたようだ。
すぐそばの露店には、先ほどオルセンから聞いた食べ物が売られている。
店主に声を掛けて値段を聞いてみるが、フローラの所持金で十分だった。
「お姉さん、一つ頂けますか?」
威勢の良い返事と共に、フローラの手に総菜のパンと釣銭を渡してきた。パンの間には、柑橘系の匂いをさせたソースを絡ませた紫色の大根とレタス、それに燻して薄切りになった豚肉が挟まれていた。
質素な味に慣れきっているフローラには少々味が濃すぎたのか、彼女は何か飲み物を買い求めようと立ち上がろうとした。
「飲み物は――きゃッ…!」
立ち上がろうとしたところで、視界の端からやってきた白髪の老人とぶつかってしまった。
「お、大丈夫かね?」
「あ、すみません。お怪我はありませんか?」
白髪の老人はにこやかな笑顔を見せている。
この老人は先ほど門の外で出会った、あの騎士風の老人だった。老人のほうも当然、そのことに気付いている。
「ワシは平気だがお嬢さんの昼飯は、悲惨なことになっておるのう」
ぶつかった拍子に手から落としてしまっている。
食べかけの総菜パンは確かに、石畳の上で無残な姿を晒している。
「汚れていないところだけ……」
そう言って総菜パンを拾うとするが、老人がフローラの肩に優しく手を置いて、それを制した。
「腹でも壊されたら夢見が悪いわい。ワシの昼飯に付き合わんか? どこでも好きな店でご馳走してやろう」
「そんな申し訳ないです」
本当に申し訳なさそうに俯いている。
「いいからいいから、年寄りのわがままを聞くと思って付いて来なさい」
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