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第5章「アデラール先生! 急患です♪」

第59話「旅は道連れ」

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ルンド街道、ミアセラへ続く街道――――


「ふふふ♪」
「ずいぶん機嫌が良さそうだな、ティリア。」


ティリアは馬車がベラライアを出てから、ずっとこんな調子でアデラールにより寄っている。端から見れば恋人か若い夫婦にでも見えるほど、その様子は仲睦まじい。


「アデラールさん。わかってるんですか?」
「なにをだ?」
「2人きりなんですよ! ふ・た・り・き・り!」
「あ、ああ、そうだな。」


御者の男は何かを言いたそうに、ふたりのほうを見てはにやにやしている。


「照れてるんですか?顔が紅いですね~♪」


実のところアデラールも、この旅がティリアと2人きりになると決定したときから、意識はしていた。ただ、その様子を悟られたくなくて無関心を装っていただけだった。それをティリアに見抜かれて柄にもなく照れている。


「やり返したいが夜まで取っておくよ!」
「な。なにをする。。んです?。。」
「いま言ってしまったら面白くないだろう?」


ティリアはたちまち顔を紅くして俯いてしまう。


「お客さんたち!そろそろ次の停留所だよ。足を延ばして休憩するといいよ!」


今回利用したのは、停留所間を時刻表通りに行き来する乗合馬車だ。目的地を周囲に知られずに済むので、アデラールたちにとっては都合が良かった。その代わり停留所のたびに、客が乗り降りするので時間はかかるが、もとよりこの旅は先を急ぐものでもなかった。


ミアセラの王都リラまでは、ルンド街道がマーテルの王都ベラライアまでを繋いでいる。一ヶ月強の旅の途中には風光明媚な観光都市もあり、この街道の行き来は旅行客の利用も多い。いまの季節なら神楽の時期でもあって巡礼者の往来も多いようだ。


「よいしょ、すいませんねぇ。」
「おばあちゃん大丈夫ですか?荷物持ちますよ。」


ティリアと2人だけになった馬車に、老婆と青い髪の少女が乗り合わせてきた。


「だー……じゃなかった、お兄さん! お姉さん! こんにちは!!」


青い髪の少女が元気一杯に挨拶をしてきた。少女は隣の老婆にも元気に挨拶をして、老婆の手を取りお辞儀をしている。悪い夢でも見ている気がする、白昼夢?


(だー…? あいつにそっくりだが、こんな場所で馬車に乗ってるとかあり得ん。)


他人の空似だろうと結論付けたが、隣のティリアが小声で”あの子って女神さま?”と囁いてきた。ヘリアをよく知っている者ならそう思うだろう。俺だって自分の目を疑いたいくらいだ。


(ヘリア! いま馬車で挨拶してきたのはお前か? 趣味が悪いぞ。)


『なんだい? だーりん。いまちょっと忙しいんだけどな!!』


(いや、今どこに居る? 目の前に居るよな? 馬車の中!)


『何を言ってるんだい? 僕はいま天界でお仕事してるんだよ!! 何? 僕に逢いたくなったのかい?』


(そうなのか……いや、いい。こっちの話だ。)


ヘリアは”またね”と、いつもと違って素っ気ない挨拶をしてから無言に戻った。うーむ。目の前の少女はどう見てもヘリアなのだが、やはり他人の空似ということか。世の中は広いな。あまり言いたくはないが、正直言うとヘリアはかなりカワイイ。まあ、女神なんだし当然と言えば当然なのだが……そんな美少女にそっくりな少女が目の間にいるんだ。びっくりしないというほうがあり得ない。ティリアもさきほどから、ヘリア似の少女にちらちらと視線を送ってとても気にしている。


「よっこらせっと! おし、嬢ちゃん、ちょっと隣開けてくれ。」


髭面の男がタラップに片足を残し、勢いよく乗ってきた。青髪の少女をめざとく見つけると、その左隣にドカリと腰を下ろして、少女を舐め回すように”じろじろ”と眺め始めた。


「嬢ちゃん、あんたどこから来たんだ? 名前は何て言うんだ、俺はザックって――」
「おじさん! 僕ちょっと考え事があるから静かにね!!」


青髪の少女は笑顔で応対するが、目が笑っていない。どことなく獲物を狙う肉食獣のような……


「固いこと言うなよ! な? 先はなげぇんだし、仲良くいこうぜ。」


言うなり少女の肩に手を回そうとする。もめ事は避けたい旅だが、そうも言ってられそうな雰囲気ではなくなってきた。

「や、やめて! 僕おじさんに興味ないし!」
「そこのあんた、お嬢ちゃんも嫌がってるし辞めておきな。」


少女の右隣に座る老婆が見かねて助け船を出してきた。少女を庇おうと抱きかかえようとするが、その手を髭面の男が乱暴に払いのけてしまう。


「うるせぇな! ばあさんはあっち向いてろよ。」


やれやれ仕方ないな。ティリアも俺に視線で”何とかしてほしい”と訴えかけてくる。


「そこのあんた、嫌がってるんだし、いいかげんにしておけよ?」
「んだと? てめぇ、じゃぁそっちのねーちゃんを寄越しな、それでいいだろ。」


髭面の男はティリアの手を引こうと立ち上がった。ティリアの視線の先に彼女の弓矢が映っている、え? こんなところでですか、ティリアさん。


「お客さん! そろそろ出るよ、揺れるから気を付けてくれよ。」


馬車が動き出すと突然の揺れに男が驚き、”ふらふら”とバランスを崩して青髪の少女の上に、覆い被さるようにわざとらしく倒れる。倒れざまニヤついた顔をしていた辺りわざと倒れたのだろう。すると、少女から鋭い殺気のようなものを感じる。頭髪を野菜に変えるのだけは、やめておけよ?


「ちょっと! キミ!! 何をするんだい!! 変なところを触るなばかぁ!! そこを触っていいのは、だーりんだけだよ!」


はい、ヘリアさん。”だーりん”って言ってしまってますね? 人間の女の子に化けて何をしてるんだ、こいつは。隣で目を丸くしてるティリアにため息まじりに『ヘリアだ。』と小声で伝えてやる。男はヘリアに痛烈なボディーブローを浴びせられると、馬車を止めて腹を抱えながら走り去ってしまった。拳を放つ瞬間のヘリアの口元が笑っていたのを俺は見逃さない。あいつを怒らせてはいけないことを学んだ日だった。


「おいヘリア。何しに来たんだ?」


俺はとても低い声で冷たく言い放つ。


「ヘリアさん! こちらのお兄さんがお呼びですよ~?」


ほう? そう来たか。何をしたいのかわからんが放置しろと言うことですか……はぁ、本当に何をしにきたんだ……ヘリアっぽい何かは、何食わぬ顔で俺の隣に座り直すと、鼻歌まじりに珍しそうに移り行く景色を眺めている。


このヘリアっぽい何かはとても軽装……というより、荷物を一切持ち合わせておらず、どう考えても金を持ち歩いてる様子ではない。馬車はそろそろ、今日の目的地まであと3~4時間というところまでやってきている。ティリアがおなかのあたりをさすりながら俺に視線を合わせてくる。次の停留所で降りて食事でもしよう、ヘリアっぽい何かが一緒についてきたら、どうしてくれよう?


「そろそろ次の停留所のボカ村に着くよ!」






*****

作者です!

ヘリアっぽい何かの目的は何でしょう?

*****

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