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第4章「大根の…もとい、暗黒のアデラール」
第50話「最後の賭け」
しおりを挟むベラライア王宮、ルイーセ王妃殿下の離宮――――
「父上からの返事には何と?」
「予定通りに進めておられるとのことです。王妃さま」
どうやってあの呪いを解いたかはわかりませんが、あの魔導師が関わっているのは確実でしょう。あの男を消してしまえば、陛下を守る者もいなくなります。急がねば、レナスが死んでは私の目的が果たせなくなります。
「例の男の始末は?」
「それが、あの男を探しましたところ、数日前に急いで荷物をまとめて王都から出たと、近隣の住人から情報を得ました。なにかに怯えているようだったと」
「そうですか、私たちへの関与を隠すためでしたが、居ない者は仕方ありませんね」
あの者の正体を知っているのは、私たちだけのはず、、、私が陛下を害そうとしたとわかっているなら、陛下に伝えるはずです。少なくとも、昨日お会いした限りでは、陛下はそんな感じではありませんでした。やはり発覚はしていません。第一、証拠がありません。
「最後の賭けに出ますよ。もっとも、だいぶこちらに有利な賭けですけどね。」
「念のための備えはしておきましょうか?」
「そうですね。備えだけはしておきましょう。万が一に備えて、父の領地まで逃れられるように、手配をしておきなさい。」
ルイーセは、お気に入りの樫の古木を切り出した見事なテーブルの上で、ワイングラスをもてあそぶ。目には妖しい光を宿し、小声で小さくつぶやく。
『これで最後です。勝っても負けても最後の戦いですよ?フフ。』
―――――
王都ベラライア、レンスの私邸――――
「マスター。王妃の手の者が動きましたが、例の男はうまく逃れたようです。」
「レナスの件を聞いて早速、動いてきたか。さて王妃さま、どうなさるおつもりですか?」
アデラールがいつものように、考えに没頭していると、彼の自室の扉を叩く音がする。
「レンスか。なんだなにか用か?」
『ギイイ』と軋む扉を開けて中に入ってきたのは、レンスだった。表情は呆れたような顔をしており、アデラールはなにか、雲行きが怪しい雰囲気を感じていた。
「兄貴に何をしたんだ?別に責めてるわけじゃねーぞ」
本当に責めてるわけではないのであろう。”やれやれ”と言った後にアデラールと向かい合う形で椅子に腰掛ける。テーブルに肘をつき、頭を抱える格好をしながら言葉を続けた。
「あのな。気持ちはわかるが、あまり無茶をすると庇い切れないし、親父殿も、いくらあんたらに借りがあると言っても、法を犯したら許さないと思うぞ?」
レンスはため息をつきながら、言い聞かせるような口調で忠告をする。これで素直に聞き入れるようなら、苦労はしないと心では思っていた。
「王妃殿下次第だな。あちらが非合法な手段で挑んでくる以上、法にこだわっていたら負けるぞ」
「まあな。わかってるけどな、親父にその理屈が通じる保証はナイって話だよ」
「あちらも必死だ、次あたり何か大きなことを仕掛けてくるだろう。どのみちもうすぐ、俺たちの戦いは決着がつくと思うぞ。」
レンスは”そうだといいな”と、アデラールに向かって言うと、頭を振って気合を入れる。そして驚くような宣言をした。
「ルミエールと婚約することにしたよ!ちっと気合入れて気持ちを伝えてくるわ」
「ははは、本当の用向きはそっちじゃなかったのか?安心しろ、おまえの申し出は必ず承諾されるのだから大丈夫だ」
「おいおい、興ざめするようなことを言うなよ!ったく、つまらねーやつだなぁ」
アデラールとレンスの笑い声が起こる。レンスは久しぶりに、楽しそうに笑ったアデラールを見て、まだこんな風に笑えるのだから、昔のお前に戻れるよな?と何かに願うような気持ちになった。だが、そんな2人の楽しい雰囲気を壊すように、部屋の外の廊下を”ドスドス”と大きな音を上げて歩く足音が聞こえる。
「アデラール殿はこちらにおいでか?」
扉の外からアデラールの在室を確認する声が聞こえる。
「アデラールなら中に居るが、何の用事だ?」
レンスが代わりに外の声に答える。すると、外の声は”失礼する”と告げて部屋の扉を大きく開け放つ。勢いがあったせいか、扉は『ガタン』と音を立てる。一人の騎士と思しき男が部屋に入ってきた。肩と胸の辺りにマーテル王国の紋章が入っている、王宮を守護する近衛騎士団だ。
「何ごとだ!強引に押し入るとは何の用か!」
レンスの対応は当然の反応だ、この部屋はアデラールの自室とはいえ、元はレンスの私邸なのだ。つまり、王子殿下の屋敷ということだ。その王子の屋敷で狼藉を働くのだから無礼な行為と言える。
「これはサン殿下、失礼をしました。しかし、アデラール殿には宮廷より召喚状が遣わされ、出頭命令が出ています。容疑者を連行する作法ゆえ、お許しください。」
騎士の男は、王国の印章が入った召喚状を広げて見せる。
「何の容疑か、伺ってもよろしいですか?」
アデラールは少しも慌てた様子を見せず、落ち着いて対応する。騎士の男は頭を横に振って答える。
「あなたの容疑は王宮にて審議する。質問があるなら、そのときに審議官殿にされよ。さあ、大人しく私の後についてこられよ」
騎士の男はレンスにお辞儀をしてから、部屋を出てアデラールを待つ。アデラールは何かを言おうとするレンスを右手で制し、”大丈夫だ”と言い騎士の後を追い部屋を出て行った。レンスは急いで自室に戻って行った。自分も急いで王宮へ向かうつもりだ。
*****
作者です!
なんだか今日は調子がよくて筆が進みます。
もうちょっと更新しようかなと思います(´ー+`)
*****
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