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第4章「大根の…もとい、暗黒のアデラール」

第49話「疑惑」

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ベラライア王宮、ルイーセ王妃殿下の離宮――――


「レナスの様子はどうですか!!」


王妃殿下の離宮に、ルイーセの悲鳴のような叫び声がこだまする。


「島からの知らせによれば、何らかの目の病のようで激痛を伴いますが、既存のどんな病にも該当せず、治癒の魔法も効かなかったとのことです。」


ルイーセは自室の中をうろうろしながら、ときに立ち止まり報告の内容に天を仰ぐ。レナスの身を案じてか、青ざめた表情を見せるも、次第に怒りで顔を紅潮させ、突然、大声で側近の男に命令する。やり場のない怒りにワイングラスをつかみ取り、大理石の壁に叩きつける。


「陛下のもとへ参ります!!急いで用意をしなさい!」



―――――



ベラライア王宮、王陛下の執務室――――


「何の用だ?ルイーセ。」


執務室の自分の机で、山積みの報告書の処理をしている。王はひと際厳しい口調でルイーセに、突然の訪問の用向きを尋ねる、視線は落としたままで、彼女をほうを見ようともしない。


「用向きは言わなくてもおわかりでしょう。」


ルイーセは、王の素っ気ない態度に思わず『なぜ、そのような態度を』と言いかけて辞めた。いまの自分たちの関係を考えれば、冷静に対処すべきと思ったのかもしれない。一呼吸おいて気持ちを落ち着かせると、返事もせず執務を続ける王にこう言った。


「レナスは確かに過ちを犯して、島へ送られました。しかし、我が子が病に苦しんでいるのを、黙って見過ごす親がどこにおりましょう?釈放しろというわけではありません。せめて、治療の間だけでも、別の場所を移して頂けませんか、お願いいたします。陛下」


本当のところは、怒鳴りつけて王の親としての冷淡さを非難してやりたい。だが、そんな自分の気が済むだけの方法では、息子を救うことは出来ないとルイーセは考えた。ルイーセとしては、精一杯の譲歩を態度で表したつもりでいたのだ。しかし――


「お前は以前、私が言った言葉を忘れたのか?レナスは島から一歩も外へは出さんぞ。」


王は執務をする手を止めると、ルイーセへ視線をやり表情ひとつ変えずに言い放った。事務的と言った感じに、抑揚もなく冷たい言い方だった。その反応は想定の内だったが、あり得るとは思っていなかっただけに、ルイーセは半ば驚愕した顔で王の姿に見入る。


(自分の子が危険な状態だと言うのに、、、こんな反応は予想外でした。)


まさか、ここまで冷淡に対応するとは、ルイーセには予想外だった。治療のために一時的に医療施設に移すくらいは、他の囚人にも例があることだ。それがましてや自分の息子で、かつては王太子だった者に対する態度かと、思考を停止して固まってしまいそうになる。


ルイーセは”ふらふら”と手近な椅子の背もたれを掴む。ここで引いてはレナスを救うことが難しくなる、この冷淡な王の考えを変えさせる、何かを思いつかなくてはならない。


「レナスの病状は私も聞いている。いかなる病にも該当せず、魔法も効かない、そんな病などそうはないぞ、おかしいとは思わないか、私もしばらく前まではそんな状態だったな?」


(まさか、私があの子を外へ出すために仕組んだと、、、、、)


「何を仰りますか!!母親が我が子にそんな無体をするとお思いですか!確かに私と陛下の関係は良い物とは言えません。だからと言ってレナスはそれとは関係ありません!!」


想いを否定された気持ちになり、声を荒げて反論してしまう。だが、王の邪推じゃすいも、的外れではあるが、これまでの王妃の行いを考えれば、疑われても無理はない。ルイーセが感情的になったところで、事態はひとつも解決しないだろう。


「レナスには医師と治療師はつけてやる。だが、島から出す気はない。」


王はふたたび、やりかけた仕事に戻るために、報告書に視線を戻す。


「その者たちは、私の一存で選びますがよろしいですね。母として当然の権利ですから。」


王は何も答えず執務を続ける。ルイーセはその無言の対応を返事と受け取り、王に対して軽くお辞儀をすると、足早に執務室から出て行った。




―――――




「陛下と話しましたが、レナスを出すことは出来そうもありません。ですが、王がレナスの件に関わっているとは感じませんでした。」
「王妃さま、どうなさいますか?」
「どうもこうもありません。最高の医師と治療師を手配して、レナスの治療に当たらせなさい。陛下の許可は得てあります。」


こんなはずではなかった。彼女は天蓋つきのベッドに腰掛けると、次にどう行動を起こすべきか思案する。レナスがこんなことになった以上は、猶予はない。そのままベッドに寝そべり、ある考えを思い浮かべる。王が関わってないなら、可能性は1つか2つしかない。やはり敵はあの魔導師かもしれない。


「それから例の男を消しなさい。あの者にはもう用はありません。」


側近の男が”畏まりました”と返事をして王妃の自室から出て行った。






*****

作者です!

80話程度で完結と書きましたが、もっと続きそうです(´ー+`)

完結まで10話くらいになったらまた告知します。

修正作業に時間を取られて、更新量が少なく申し訳ないです(´・ω・`)


*****

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