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第4章「大根の…もとい、暗黒のアデラール」

第44話「ヘリアの懸念」

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『だーりん!!ちょっと心配なコトがあって!いま、少しいいかい?』


なんだ?いまから出かけるところなんだがな。


『彼女と出かけるのはイイコトだよ!だーりんちょっといろいろ恨みに思ってることを晴らしたい気持ちはわかるよ!僕も悔しいと思ったからね。でも、それに心を囚われすぎてる。言おうか迷ったんだけどね?だーりんの心に少し影ができてるんだよ。もともとキミは復讐なんてことを考える性格じゃないからね』


ヘリアはいつもの明るい調子をだいぶ損ねた雰囲気と表情で、とても心配そうにアデラールに話しかけている。いつもの彼女らしくないことは、アデラールにも伝わっている。


『だーりんは周りの人の心配している気持ちに気づいているのに、気づかないふりをして、目的のためだけに多くの時間を使ってるね?僕もなるべく力を貸すよ。だからもう少し肩の力を抜いて少しだけでいいんだよ!気楽に考えてみたらどうかな』


アデラールはため息を吐き、頭をかきながら一言だけ伝える。


「わかったよ」

『キミの”わかった”は、本当にわかっているのか疑問なんだよね!!でも、まあいいか!』

「そういえば、ヘリア。天界へ誘いたかったんじゃないのか?いつでもいいぞ」


やや、面倒そうな話の脈絡に、アデラールは話題を変えて答える。


『そうだね!だーりんの様子も心配だから、またすぐ声を掛けにくるね!!』


ヘリア、心配してくれるのはありがたいと思ってるよ。でもな?あいつらはリーナやティリアに手を出したんだ。俺自身のことだけならまだしも、仮にヘリアになにか大変なことが降りかかったら、俺は迷わず助けに行くぞ、女神のヘリアに俺が出来ることなんて大してないと思うけどな。でも、ありがとう。今日だけは息抜きするつもりで羽を伸ばそう、最近、ティリアともリーナとも会話してないな、、、。いかんな。



王都ベラライア、ルイーセ王妃殿下の離宮――――


「許せません、、、私のことを”愚か者”などと呼ぶとは、、、こんな屈辱!」


いままで、どれだけ夫婦の仲が冷え切っても、拗れても”愚か”などという呼ばれかたをしたことなどありませんでした。最低限の気遣いはしてくださっていたのに!


ルイーセは、”これ以上”進んでは引き返せないところまで進んでしまったことを認めたくはなかった。この先は一本道、もう進み続けるしかない想いを、怒りと恨みで塗りつぶして、ひたすら先へ進むしかない。


「こうなった以上は、手段は選べませんね」


しばし、考えを巡らせたあとで、平静を装い”これしかない”と意を決する。


「王妃様、いかがいたしま、、しょう、、か?」


側近は、伏し目がちでルイーセを見ると何やら吹っ切れた顔つきで、冷たく微笑む彼女を恐ろしく思った。何をなさるおつもりか?前回の失策は大きなミスだった、これを取り返すのは難しい。やるなら大胆な手が必要だが、彼の主は、いままではそこまで踏み込むのを躊躇していた。しかし、いまこの場のルイーセの表情はなにかを成し遂げようとする意志を感じる、だが、同時になにを犠牲にしてもやり遂げるという残酷さも伝わってくる。この感覚は感じたことがない感覚だ。


「手段は選びませんよ」


もう1度ルイーセは、決意を固めるように同じ言葉を続けた。


「父上のお力を借りましょう、教会を動かすのです」
「わかりました。御父上にお伝えしておきましょう」


側近の男は、過去幾度となく、いましがたルイーセが自分に命じたことを進言してきた。だが、彼の主はそれをしてしまっては国の混乱を招きかねない。この国の力を損ねることだけはしたくない、と、何度も言っていたことを思い出していた。


「ええ、この上は最後の大仕掛けです。確かにいま私たちは追い詰められていますが、いくら追い詰められていても、教会の司祭さまさえコチラに味方してくだされば、陛下といえど、神のお言葉を無視して好きなようにはできません。それはこの国の根幹を崩しかねませんから、あの陛下のことですからね。よくよくおわかりでしょう」


例え陛下といえど、教会の総意を無視して立太子の正当性を証明することはできません。お互いにここに強引な手段で手を出せば、敵とは、どちらかが倒れるまでという戦いを余儀なくされる、それはわかっています。だからいままでは手を出さなかった。でも、愚かな私はその避けるべき道を行きますよ?陛下。


「それと、あの魔導師のことを詳しく調べてください」


呪いは確かに効果が発揮されていたと、改めて効果を確認してわかったことだ。どうも、なにかがおかしいとルイーセは、あの得体の知れない男に疑惑をもつに至る、あの魔導師が来てから急に自分たちが後手に回るようになったことが今更ながらルイーセには不思議なことに思えた。頻繁に王子の私邸を出入りしているし、バルグートの娘とも親しいと聞いている。そう、陛下に近すぎるのだ。もしかしたら、あの魔導師が何かの術を掛けて治したのかもしれない。


だけど、それならそれで魔導師を追い詰められる策がある。ルイーセには”本当に手段を問わない”なら、魔導師を追い詰める策が一つだけある、だが、それにはまず彼を知らなくてはならない。そして彼が陛下を治した確証が欲しい。


いいでしょう。レンスの客人なら、この王宮の客人でもあります。一度、ゆっくり話してあの魔導師がどういう者なのか見極めてみましょう。どういう意図でサンに近づいてきたのか?欲目なしで近づいたわけではないでしょう?



―――――



「ティリア、たまには2人でどこかへ出かけないか?悪いな、つい忙しくて相手もせずに放っておいてしまって済まないとおもう。今日はずっと一緒にいよう。何をしたい?どこか行きたいところはないか」


ティリアはいつも何も言わず、にこにこして俺のやりたいようにさせてくれる。だから、つい甘えてしまう
のだが正直なところ、どう扱っていいかわからないんだ。


「本当ですか!えっと!そうですね、何かしたいことないんですか?」


俺がしたいことか。ティリアと2人なら何でもいいんだがな。


「俺はキミと話してるときが1番楽しいんだとおもう」
「お話しですか?いいですね!カイユテに居た頃もよくギルドでお話ししましたね」
「そうだな。でもいいのか?せっかく王都にいるんだぞ」
「いいんです。どこか2人だけでゆっくりできるところへ行きましょう」


失敗したな。レンスに”そういう場所”の情報を聞いておけばよかったな。


「どこかおススメの場所はないか?そこへ行ってゆっくりしよう」
「リーナちゃんと見つけたいいところありますよ!」


誘ってよかった。レンスにあとで礼を言っておかないとな。


「早くいきましょう!」
「ああ、楽しそうにしてくれて俺も嬉しいよ。ティリア」

アデラールがそういうと、あまり言われなれていない言葉を聞いてティリアは恥ずかしそうに俯く。




*****

作者です!

次回、ご要望のあったアデラール&ティリアの閑話書こうとおもいます。

*****

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