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第4章「大根の…もとい、暗黒のアデラール」

第39話「属性開眼?」

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王都ベラライア、レンスの別邸――――


「よ!アデラール。昨日は世話になったな」
「ああ、礼ならヘリアに言ってくれ。それで、エチルたちの処分は
どうなったんだ?」
「あー。それな、俺はこんな命令したくねーんだが、エチルはちっと
やりすぎただろ?リト村の恩賞事件もあいつが絵図描いてたって
なると、まぁ死罪しかねーな。あいつの財産で、カイユテの復興が
少しは進むのが救いだな」


まあ、そうだろうな。
財産が凍結された時点で殿下側としても、用無しだったはずだ。
俺が手を出さなくても運命は変わらなかっただろう。

あいつは何故、俺に執着したのか理解できないな。
そもそもが、俺で絵図を描いたのが間違いだ。

他の人間なら目論見は成功したかもしれない。


「そうか、自業自得だろう」
「まあな。それでアデラール、しばらく王都にいるんだろ?
その間はここを好きに使ってくれ」
「悪いな、やることがあるから有難い」
「おいおい、また何か企んでるのか?ほどほどにしとけよ」
「ああ、それで1つ調べて欲しいことがあるんだが」
「なんだ?」


ああ、企んでいるさ。
レナスもバルグートも、まだ生きてるじゃないか?
なら、追撃の手を緩めるつもりはない。

エチルも死んだのを見届けるまではダメだ。


「パンナいるな?」
「はい、何でございましょう?」
「ちょっと頼みがある」
「何なりと」
「レナスと、バルグートの行先で様子を探ってくれ。何かあったら
俺に知らせてほしい」
「畏まりました。仰せの通りに」


あとは、レンスに頼んだ調査の結果が出たら行動開始だ。
あいつにトドメを刺す。


「お兄ちゃん!観光いきたい、連れてって!!」
「あ、ああ。ティリアは?」
「ティリアちゃんはお出かけしたよ!」
「そうか、どこへ行ったんだろうな」


よし、王都へ来てからレナスたちの相手で、構ってる暇がなかったし
たまにはリーナの相手をしよう。


「どこか行きたいところはあるか?」
「えと、来る前に見かけた外の市場を見たい!」
「よし、わかった。何を見たいんだ?」
「なんだっけ?行けば思い出すかなー」


今日の王都は曇り空だ。
この王都ベラライアは晴れる日が多く、雨は雨期に大量に降る。
それ以外の季節は雨が少なく晴ればかりだ。
その為、夏はとても暑い。


「何かいいもの無いかな~?」
「何を探しているんだ?」
「んー?冒険で役に立ちそうなモノと、じるくんのお土産!」
「そうか。ジルも少しは成長したのか?」
「どうだろう!でも帰ったらじるくんと冒険していい?」
「まあ、簡単な依頼ならいいかな?」
「やったー!お兄ちゃんはこなくていいよ!」


え。お兄ちゃんは要りませんか。
ちょっとショックだな!


「お兄ちゃん居ると楽すぎって意味だからね?」
「お、おう」


そうですよね。リーナさん。さすがです。
お兄ちゃんのことをよくわかっていますね!!


「あれぇ?ティリアちゃんだ!ティリアちゃん!!」
「。。。あ!リーナちゃん。アデラールさんも」
「こんなところで、何をしているんだ?」
「ええと、いま王都で人気の『ぶり大根』を買いに。。」
「ああ、来るときに見た、あの屋台か」
「そうです!30分くらい並んでやっと買えました」


まさか、”ぶりのお頭”と、”大根”じゃないよな?
いちおう、あいつらなのか確認しておかないとな。
カルロとイオスなら、ちょうどいい追い込んでやる。


「その屋台の店主はどんなやつだった?」
「穏やかそうな女性でしたよ?」
「そうか、何でもない。気にしないでくれ」


気にしすぎか。
まあ、ぶり大根なんて普通の家庭料理だしな。
考えすぎなのもよくないな。


「早く帰ってみんなで食べませんか?ぶり大根」
「美味しそうだね~!」
「買い物はいいのか?リーナ」
「うん。また今度でいいやー」



王都ベラライア、サンの別邸――――


「アデラール様、サン殿下からご依頼の調査書が届いております」
「有難うございます」
「それなに?お兄ちゃん」
「リーナも良く知ってるあいつの追跡調査だよ」
「んー?誰だろう」


ファイルのことだ。
先日ちょっと小耳に挟んだ話しでは、ファイルは処刑されていない。
どうやって逃れたかは知らんが、流刑になったらしい。
その流刑地をレンスに調べてもらったんだ。

あいつはレナスたちが、トカゲの尻尾きりで処分したが
生きてるなら俺がトドメを刺してやろう。

あいつが牢の中で俺を、どんな顔で見るのか楽しみだ。


「明日、ちょっと出てくるからな」
「うん!ティリアちゃんと遊んでるよ」


明日が楽しみだ。どうやってトドメを刺してやろうか?



―――――翌日



ファイルの流刑地は王都近くの山間にあるらしい。

石切り場の労役を課す流刑地で、過酷な労働環境に死人も出る。
比較的、罪が重い者が集まる場所だと言う。

ファイルのやったことは、エチルに操られて乗せられただけで
その実、ファイル自身がやっていたのは、ケチな横領だとか
職権乱用程度だ。

犯した罪に対して罰が重すぎる。

そう思うが、運命だったと思って諦めてくれ。
それに乗せられていたのとは別に、調子に乗ってリーナに
手を出そうとした分のツケを払ってもらおうか?


「サン殿下からの命令書?ですか」
「殿下の命で、ある囚人の視察に参りました。詳細はこちらの
書簡に」
「なるほど、この囚人の房へ案内しましょう」


案内される道すがら、この労役場の生活環境や労役の様子などを
案内役の男から、説明を聞く。

考えていた通りではある。

労役場や牢獄なら、大抵はどこでも似たようなモノだろうけど
元貴族の囚人など嫌われて当然だ。

ファイルも過酷な労働に苦しみながら、他の囚人にも虐げられて
どんな生活を送っているのだろうか。


「この男も元貴族ですから、大変そうですね」
「ああ、、いえ、彼はそうでもないんですよ、彼はね」


ん。どういうことだ。位は低かったが貴族であったのは事実だ。


「それはどういう?」
「あぁ、、はは、ちょっと私からは言いにくいので、看守たちから
詳しい話しを聞いていただけますか」


なんだ。この含みのある言い方は?

まさか、ここでも何かを理由に場を牛耳っているとでも?
ファイルは元騎士で、戦功を挙げて小さいながらも領地を得てる。
あの巨体だ。膂力もあるだろう。


「この房の看守は君かな?」
「はあ。私ですが、何のご用でしょう?」
「いや、ファイルという、元貴族の囚人のことを聞きたい」
「わかりました。彼なら本日の労役を終えて食事をしているはずなので
食堂へ行けば様子を見ることはできます」


労役場、囚人たちの食堂――――


「あらん?旦那ったらアタシの分まで食べないでよ。もぅ!!」
「いいじゃねぇかファイル、俺のを食わせてやる、ほれ、口を開けな」
「みんなの見てる前で恥ずかしいわ!」
「いつものことだろ?見せつけてやろうぜ」
「もぅ、ほんと!いじわるなんだからぁ!」
「また今夜も可愛がってやるぜ!!ぎゃはははは」


なんだこれは?何の茶番だ?


「君、これは、、どういう?」
「労役場や、牢獄ではよくあることですよ。財産や力があるなら
いろいろと手を回せますが、彼はそれが出来ないのでしょう?」
「そ、そうか」
「ファイルを別室へ連れていきます」


労役場、別室――――


「看守のお兄さん。アタシに何の用かしらん?」
「あちらの方がお前に話しがあると、王都から参られた」
「あらそう、、、、って、、、お、お前は!」
「お久しぶりですね。閣下?」


間近でみるファイルは、頬に薄っすら紅を差して口紅をしている。
俺を見ると驚いて以前の口調に戻って話し始めた。


「貴様!何しにここへ来た。今さら私に何用だ?王都から来たと言うが
誰の差し金だ!」
「近々、王太子に立太子されるサン殿下の指示で、あなたの視察に
来たのですよ。クク」
「な、何がおかしい!」
「ずいぶんお変わりになられたと思いまして、、クハハハハハ!」
「お、、お前!い、いや、殿下の指示でと言ったな?殿下に頼んでくれ!
この労役所ではないなら、どこでもいいから移してくれ!」


やはり、嫌々、女の役をやらされていたのか?
その割には楽しそうだったじゃないか。そっちの属性に
目覚めたのかと思ったぞ。


「殿下がお聞き届けになるとは、、、」
「いいから、な?ここ以上に過酷な場所でもいいから!もうあいつに
毎晩迫られるのはイヤだぁぁぁ!」
「聞くだけ聞いてはおきますが、保証はできませんよ」


ははは、残念ながらレンスは関わってない。
俺が動きやすいように、名前を貸してもらっただけだ。

ククク。いやいや、こんなことになっていたとはな。フハハハ
こいつはこのまま放っておくほうがいいな。

なるほどな。
こういう場所ではこういう方法もあるのか。
参考になったよ。感謝するぞ、ファイル?



*****

作者です!

分かりづらいかもしれない部分の説明を1つ。

登場人物のひとりである『レンス』は、第2王子サン・レンスのことです。
彼が初登場時は、身分を隠していたために、家名のレンスを名前として
名乗っています。

その為、アデラールと、その近しい人物からは、公式には『サン殿下』で
砕けた雰囲気の場では『レンス』と呼ばれます。

物語の進行に合わせて『主人公回り主要人物』も更新してありますので
ご参考にして頂ければ幸いです。

*****

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