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第4章「大根の…もとい、暗黒のアデラール」
第38話「暗黒への誘い」
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王都ベラライアへの旅の途上――――
「リタより先へ行くのは俺もはじめてだな」
「わたしもー!ティリアちゃんは?」
「わたしは小さい頃に父の田舎へ行ったことがあるそうですが
覚えてないんです。母が奴隷になる前に行ったそうです」
ティリアは母親とカイユテで暮らしていたが、母親が
働きすぎて倒れて、そのまま亡くなったと言っていたな。
では、父親は存命なのだろうか?
「残念だね。お父さんの記憶なのに!」
「うーん。でもお父さんの顔も覚えてないですし」
天涯孤独の身で、しかも自身は奴隷だったわけだ。
それでも、毎日笑顔で俺やみんなを元気づけてた
いまでもそうだが、昔の彼女は本当にすごかったのだな。
両親が揃って健在で、生活にも苦労していない。
普通だと思ってたことが普通ではないこともある。
ティリアはいつも、ニコニコしているが
俺やリーナに隠れて何か想いに耽るような
顔をすることがある。
もともと、冒険者を支援するのが仕事だったからか
相手に気を遣うのが上手なのだろうな。
ただ、その代わりに自分の苦痛を他人に知らせずに
自分の内だけで処理しようとする。
いつも一緒に居るのだから、笑顔の中に翳りが
あるのも気づいてはいるが、どう声を掛ければいいか
残念なことに俺にはわからない。
いっそ、リーナのように元気に声を掛けてやれれば
少しは気も晴れるのだろうか。
「大丈夫ですよ!父のことは気にしていませんから!」
本当はそんなことは無いのだが、ティリアは2人に
余計な心配を掛けたくない。
特にアデラールには、本来なら、気持ちを吐露することも
彼との関係を考えれば、そうしたいのも山々だ。だが
彼には成すべきことがある、自分はそれを支える。
その為にこそ、自らの存在価値を見出している。
冒険者になったのも、彼に手が届かなくなるのを嫌だと
思った部分もある。
置いていくなんてことをアデラールがしないことは
ティリアにも良くわかっているのだが、何か理不尽な理由で
否応なくそうなろうとしてるときに、力を持っていれば
ついていくことも出来るかもしれない。
彼女には、そういう想いもあった。
「いつか、お父さんと会えるといいね!」
「そうですね!」
「よし、もう少し進めばカイタ村につく、頑張ろう」
それから4日後、王都ベラライアの壮麗な街並みが見えてきた。
都の外の街道沿いにまで、たくさんの露店が並んでいる。
絹や木綿などの反物を売る商人。
宝石や指輪などを売る宝飾商人、食べ物、雑貨、服飾。
変わったところでは、『ぶり大根屋王都支店』なんていうのも
ある。さすが王都、変な店もあるものだな。
ここの市だけで、カイユテの交易市場くらいの広さと規模は
あるかもしれない。
カイユテ以上に雑多な人種が、花を添えている。
王都ベラライア、王宮正門前――――
「サン殿下のお召しにより参上しました。アデラールと
申します」
「殿下から話しは聞いています。どうぞ、こちらです」
王宮は街並み以上に壮麗だった。
カイユテの領主邸や、貴族の邸宅も贅を尽くしていたが
この王宮はそれの比ではない。
大理石の床や柱、黒曜石や金剛石をちりばめた像。
庭を眺めれば変わった形の草木が左右対称に植えられている
こういっては何だが『趣味が良いとは言えない』
サンはいつもこんな処で執務をしているのか?
俺なら1日で逃げ出したくなる。
王族はここに住んでいるのだろう?
この豪奢で華美な空間に憩いを感じるのだろうか。
「よ!アデラール、よく来てくれた。そっちの2人もな!」
「あ、サン殿下、、こ、こんにちは!」
「こんにちはー。ごきげんようかなぁ?」
「ははは、気にするな、俺たちだけの時は普通に話してくれて
構わない。本来、俺は王子なんて柄じゃねーし」
「レンス、元気そうだな?それで相談ってなんだ?」
レンスは、いつもの着物に刀姿ではなく、赤を基調とした華美な
出で立ちで、額には装飾が施された冠を被っていた。
意外なことにしっくりきている。
生まれは人の品位に関わるとは、嫌な貴族が言っていた言葉だが
このレンスに限っては同感だと思える。
ルミエラ辺りと並べれば、より一層映えそうだ。
「それがよ、申し訳ない!兄貴たちにきっちり仕置きをするって
大見得きったのに、王都に戻ったら思わぬ邪魔がはいってな」
「邪魔とはどんな?貴族か抵抗してるのか?」
「まあ、そうだが、ちっと違う。王妃が邪魔してるんだよ」
「王妃殿下が?そうか。なるほどな」
レナス殿下の母君は王妃殿下だが、サンは妾腹なのだ。
差し詰め、正妃の息子が能無しだから、サンを後継者に、と
王陛下がサンを指名したのだろうが、王妃殿下はそれが面白くないわけか。
「親父殿が原因不明の病に臥せっているお陰で、王妃は自らの派閥を
拡大して、力づくで兄貴を王に仕立てるつもりだ。
俺はずっと放浪してただろ?だから王宮に味方は少ない。貴族共は
勢力が優勢な王妃について、兄貴の今回の責をどこかになすりつけて
帳消しにしようとしてる」
やはりな。王陛下が臥せっていると聞いて、不安はあった。
王妃殿下が素直に言うことを聞くかどうか次第だとは、思っていた。
それが、良くない方向でカンが当たったわけか。
だが、それなら1つだけ方法があるかもしれない。
「レンス、王陛下がご健在なら勝てるんだろう?」
「あ、ああ。それはもちろんそうだ。貴族共は親父殿が危ないと思って
今のうちに優勢な方にくっついてるだけだ、親父殿が健在だったら
あのダメ兄貴だからな。すぐ見限るだろう」
「そうか。なら1つだけ方法がある。俺の言う通りにしてほしい」
「おう。あんたがそう言うなら任せる。どうしたらいい?」
王陛下の病がどんな名医にも、どんな治療師に診せても回復しないのは
俺も知っている。公然の秘密だからな、それほど長く臥せっている。
だからこそ、王妃殿下も勢力を十分に拡大できたのだろうが。。
俺には1つだけ反則だが方法がある。
以前の俺なら、そうできても絶対に使わなかった手だ。
しかし、カイユテでのことがあって以来、俺は持っている力を
可能な限り使う。使って目的を果たすと決めた。
だから、そうする。
「レンスには用意してほしい物がある――
―――――その日の夕刻
「ヘリア。手伝ってほしいことがある」
『なんだい?だーりんから電話をしてくれるなんて!!
さっきの話しは聞いてたけど、僕に何をしてほしいんだい?』
「もし、王陛下の病が自然なモノではなく、呪いの類なら
力を貸してくれるか?貸してくれるなら、天界でもどこでも行くし
ヘリアのして欲しいことならなんでもする」
『え!!急にどうしたんだい?僕の部屋に誘ってるのにあの子に
義理立てして、ずっと来てくれなかったから嬉しいけど!本当だね?
あとで無効とか言ったら泣くよ?』
「本当だ。約束は絶対に守る。だから、とりあえず、陛下の様子だけでも
診てくれないか?病だったなら寿命だ。残念だが他の方法を考える」
『いいよ!!呪いなら本来の運命を違えるってことだから、僕としても
それを良しとは言えないね!!僕そういうの嫌いだし!』
「では、明日の昼間、王宮のある一室にヘリアが降臨できる準備をして
陛下をお連れしておくから宜しく頼む」
『はいよー!じゃあ明日また会おうね!!なんかこういうのいいね!!』
これで準備は済んだ。
俺は病ではなく、呪いだと確信している。
病であるというにはいろいろ不自然だからだ。
原因が全くわからない病もあるにはあるが、タイミングが良すぎる。
こうも王妃殿下やレナス殿下に都合が良く陛下が病になるか?
レナス殿下が陰謀の準備をはじめた時期と符合するのはおかしい。
いや、陰謀を企てたのは王妃殿下かもしれない。
それなら納得できる。あのレナス殿下が良く知恵が回ると不思議に
思っていたのがしっくりくる。
エチル一人で描いた絵図にしては、話しのスケールが大きすぎると
引っかかっていたが、道理でな。
だが、明日は逆に俺たちが仕掛ける番だ。
―――――翌日、約束の時間
「レンス。準備はできたようだな」
「ああ、あんたの言う通りにした。親父殿も連れてきてる」
「はじめるぞ。ヘリア降りてきてくれ」
『はいよー!!やあ、王子くん!久しぶりだね!!』
「おいおい、、女神様を呼んだのか?」
「ああ、このほうが手っ取り早いからな。どうだ?ヘリア」
『うん。だーりんの思ってる通り、これは病じゃないね!!複雑な呪式の呪いが
何層にも重ねて掛けてあるね!!悪質なことをする子がいるね?ひどいな!」
「解けそうか?」
『僕を何だと思ってるんだい!!解けるとわかってて呼んだくせに!時間掛かるけど
解けるよ!このおじさん元気になるよ!!』
「お、おお、本当か!女神様ありがたい!感謝する!さすがだな」
「さてレンス。ここからが見せ場だぞ?王妃殿下たちは待たせてあるな?」
「ああ、アデラールの言う通り、謁見の間に待たせてある」
「よし、行くぞ。往生際の悪いあいつらにトドメ刺をしてやるぞ。
ヘリア、陛下が回復されたら連れてきてくれないか?」
『いいよー!しばらく掛かるから待っててね!!』
ベラライア王宮、謁見の間――――
「何用ですか?王妃である私に無礼ではないですか!!」
「王妃殿下、兄上の今回の謀議について、処分を決しましたので」
「何を言っているのですか?レナスは謀議になど関わってはいません」
「そうだ!僕ではなく、バルグートとエチルが仕組んだことだ!!」
「兄上、あんたあそこに居ただろうが?」
「何の話しだ!そんなことは知らない!!」
あの場で堂々と、さんざん騒いでたくせによく言う。
クククク、だが、そうでなくては面白くないというもの。
こいつらに吠え面をかかせたくて、わざわざ舞台を用意したんだ。
せいぜい、ピエロの役を演じて俺を楽しませてくれ。
どうせ、お前らはもう終わっているのだから。
心なしかレンスの顔もニヤけているな。
あいつめ、演技を忘れるなと言っておいたのに。クク。
「陛下のご裁可でもない限り、私たちには勝てないとわからないのですか?」
王妃殿下が、痺れを切らしてきたか?
「それはどういう意味でしょう?母上?」
「ふん。母などと心にも無いことを!あなたは散々放浪していたせいで
この王宮には味方は僅か!いま、この王宮、、いえ、王国は私の意思ひとつで
何でも決することが出来ると言っているのです!!」
いい感じだ。いい具合に増長してるな。
「そうだ!僕の陰謀への関与も母上なら握り潰せる!僕は無実だ!!
分かったら、そこの魔導師と一緒にそこへ直れ!!無――
「今の話しは本当か!!レナス!!」
待ってました。真打登場ですか。お父さん?
「ち、、父上!な、、何故、、ここに?病のはずじゃ、、、、」
「ワシがここにおったらおかしいと言える根拠でもあるのか?」
「陛下何を仰っているのです!我が子を疑うとは嘆かわしい!!」
「黙らぬか!仔細はここへ来る前に聞いている!王の裁可が欲しいのだな?
ならば、存分にくれてやる!レナス!!お前は何てことをしてくれた!」
お父さん。絶賛激怒中。
確かに俺が今回使ったのは反則だ、本来なら王妃殿下の目論見通り
陛下は回復しなかっただろう。
だから、あのように陛下の耳に入っては一発でアウトな内容でも
言い切ってレンスを恫喝できたのだ。
相手が悪かったな。
俺以外なら誰にでも勝てたかもしれないが。
「父上!なぜ、ぼくにそこまで冷たいのですか!!」
「お前は何を言ってるのか分かってるのか!あのような陰謀に手を染めて
カイユテの民を何人犠牲にしたのだ!」
「あの陰謀は見事だったでしょう?ぼくの才能です!王太子に――
おい。お前はそこで自白を重ねるのか?
「お前はもう王太子でもなければ王族でもない!サンに従って反省すれば
よいものをこの期に及んで言い逃れようなどと言語道断!」
「陛下!レナスも反省しています。今回は大目に、、」
「これを大目に見ては王族として示しがつかん。レナスは王族の位を剥奪し
島流しとする。ワシの目の黒いうちは島から一歩たりとも外へは出さん!
本来なら、ワシと王国への謀反だぞ?生きてるだけ有難いと思え!」
「ち、父上!それはあんまりです!ぼくがなにをし――
ここまで重罰になるとは想定外だった。
廃嫡されて、どこかの田舎にでも飛ばされて半ば幽閉でもされるかと
思ってたが、王陛下は厳しいお方なのかもしれない。
身内びいきをするつもりはないらしい。
「それからバルグートの爵位と領地並びに財産を没収し、牢に入れろ!
刑期は死ぬまでだ。その他の始末はサンに任せる」
「お任せください」
「レナスが廃嫡となったのだ、今後は遊び惚けてはいられぬぞ?早々に
そなたを立太子する。いいな」
「気は進みませんが、承知しました」
本当に気は進まないのだろうな。
あいつ一人に嫌なことを押し付けてしまったようで、少し胸が痛む。
すまないな。本当にすまない。
「それと、そこの魔導師殿。話しは聞いている、カイユテの民を守り
愚息を助けてくれたこと礼を申す。感謝している」
そういうと、王陛下は口角を上げて笑う。
「有難きお言葉、感謝の言葉もありません」
もうすっかり回復されたようだ。
まだまだ壮年なお方なのだから、回復されたなら、しばらくは
このお方の治世が続くだろう。
名君と誉高きお方なのだから、きっと俺たちの期待に応えて
くれるはずだ。
俺の反則も少しは正当化できるか?
いや、反則は反則か、人の身で神の力を頼るなどとはな。
しかし、手段を選んでる場合じゃない。
例え天罰でこの身が滅びようと、心が裂けてしまおうと
俺や、仲間や、大切な人を苦しめたやつらを許さない。
それが今の俺の矜持だ。
*****
作者です!!
王太子ざまぁ&伯爵ざまぁ編でした。
*****
「リタより先へ行くのは俺もはじめてだな」
「わたしもー!ティリアちゃんは?」
「わたしは小さい頃に父の田舎へ行ったことがあるそうですが
覚えてないんです。母が奴隷になる前に行ったそうです」
ティリアは母親とカイユテで暮らしていたが、母親が
働きすぎて倒れて、そのまま亡くなったと言っていたな。
では、父親は存命なのだろうか?
「残念だね。お父さんの記憶なのに!」
「うーん。でもお父さんの顔も覚えてないですし」
天涯孤独の身で、しかも自身は奴隷だったわけだ。
それでも、毎日笑顔で俺やみんなを元気づけてた
いまでもそうだが、昔の彼女は本当にすごかったのだな。
両親が揃って健在で、生活にも苦労していない。
普通だと思ってたことが普通ではないこともある。
ティリアはいつも、ニコニコしているが
俺やリーナに隠れて何か想いに耽るような
顔をすることがある。
もともと、冒険者を支援するのが仕事だったからか
相手に気を遣うのが上手なのだろうな。
ただ、その代わりに自分の苦痛を他人に知らせずに
自分の内だけで処理しようとする。
いつも一緒に居るのだから、笑顔の中に翳りが
あるのも気づいてはいるが、どう声を掛ければいいか
残念なことに俺にはわからない。
いっそ、リーナのように元気に声を掛けてやれれば
少しは気も晴れるのだろうか。
「大丈夫ですよ!父のことは気にしていませんから!」
本当はそんなことは無いのだが、ティリアは2人に
余計な心配を掛けたくない。
特にアデラールには、本来なら、気持ちを吐露することも
彼との関係を考えれば、そうしたいのも山々だ。だが
彼には成すべきことがある、自分はそれを支える。
その為にこそ、自らの存在価値を見出している。
冒険者になったのも、彼に手が届かなくなるのを嫌だと
思った部分もある。
置いていくなんてことをアデラールがしないことは
ティリアにも良くわかっているのだが、何か理不尽な理由で
否応なくそうなろうとしてるときに、力を持っていれば
ついていくことも出来るかもしれない。
彼女には、そういう想いもあった。
「いつか、お父さんと会えるといいね!」
「そうですね!」
「よし、もう少し進めばカイタ村につく、頑張ろう」
それから4日後、王都ベラライアの壮麗な街並みが見えてきた。
都の外の街道沿いにまで、たくさんの露店が並んでいる。
絹や木綿などの反物を売る商人。
宝石や指輪などを売る宝飾商人、食べ物、雑貨、服飾。
変わったところでは、『ぶり大根屋王都支店』なんていうのも
ある。さすが王都、変な店もあるものだな。
ここの市だけで、カイユテの交易市場くらいの広さと規模は
あるかもしれない。
カイユテ以上に雑多な人種が、花を添えている。
王都ベラライア、王宮正門前――――
「サン殿下のお召しにより参上しました。アデラールと
申します」
「殿下から話しは聞いています。どうぞ、こちらです」
王宮は街並み以上に壮麗だった。
カイユテの領主邸や、貴族の邸宅も贅を尽くしていたが
この王宮はそれの比ではない。
大理石の床や柱、黒曜石や金剛石をちりばめた像。
庭を眺めれば変わった形の草木が左右対称に植えられている
こういっては何だが『趣味が良いとは言えない』
サンはいつもこんな処で執務をしているのか?
俺なら1日で逃げ出したくなる。
王族はここに住んでいるのだろう?
この豪奢で華美な空間に憩いを感じるのだろうか。
「よ!アデラール、よく来てくれた。そっちの2人もな!」
「あ、サン殿下、、こ、こんにちは!」
「こんにちはー。ごきげんようかなぁ?」
「ははは、気にするな、俺たちだけの時は普通に話してくれて
構わない。本来、俺は王子なんて柄じゃねーし」
「レンス、元気そうだな?それで相談ってなんだ?」
レンスは、いつもの着物に刀姿ではなく、赤を基調とした華美な
出で立ちで、額には装飾が施された冠を被っていた。
意外なことにしっくりきている。
生まれは人の品位に関わるとは、嫌な貴族が言っていた言葉だが
このレンスに限っては同感だと思える。
ルミエラ辺りと並べれば、より一層映えそうだ。
「それがよ、申し訳ない!兄貴たちにきっちり仕置きをするって
大見得きったのに、王都に戻ったら思わぬ邪魔がはいってな」
「邪魔とはどんな?貴族か抵抗してるのか?」
「まあ、そうだが、ちっと違う。王妃が邪魔してるんだよ」
「王妃殿下が?そうか。なるほどな」
レナス殿下の母君は王妃殿下だが、サンは妾腹なのだ。
差し詰め、正妃の息子が能無しだから、サンを後継者に、と
王陛下がサンを指名したのだろうが、王妃殿下はそれが面白くないわけか。
「親父殿が原因不明の病に臥せっているお陰で、王妃は自らの派閥を
拡大して、力づくで兄貴を王に仕立てるつもりだ。
俺はずっと放浪してただろ?だから王宮に味方は少ない。貴族共は
勢力が優勢な王妃について、兄貴の今回の責をどこかになすりつけて
帳消しにしようとしてる」
やはりな。王陛下が臥せっていると聞いて、不安はあった。
王妃殿下が素直に言うことを聞くかどうか次第だとは、思っていた。
それが、良くない方向でカンが当たったわけか。
だが、それなら1つだけ方法があるかもしれない。
「レンス、王陛下がご健在なら勝てるんだろう?」
「あ、ああ。それはもちろんそうだ。貴族共は親父殿が危ないと思って
今のうちに優勢な方にくっついてるだけだ、親父殿が健在だったら
あのダメ兄貴だからな。すぐ見限るだろう」
「そうか。なら1つだけ方法がある。俺の言う通りにしてほしい」
「おう。あんたがそう言うなら任せる。どうしたらいい?」
王陛下の病がどんな名医にも、どんな治療師に診せても回復しないのは
俺も知っている。公然の秘密だからな、それほど長く臥せっている。
だからこそ、王妃殿下も勢力を十分に拡大できたのだろうが。。
俺には1つだけ反則だが方法がある。
以前の俺なら、そうできても絶対に使わなかった手だ。
しかし、カイユテでのことがあって以来、俺は持っている力を
可能な限り使う。使って目的を果たすと決めた。
だから、そうする。
「レンスには用意してほしい物がある――
―――――その日の夕刻
「ヘリア。手伝ってほしいことがある」
『なんだい?だーりんから電話をしてくれるなんて!!
さっきの話しは聞いてたけど、僕に何をしてほしいんだい?』
「もし、王陛下の病が自然なモノではなく、呪いの類なら
力を貸してくれるか?貸してくれるなら、天界でもどこでも行くし
ヘリアのして欲しいことならなんでもする」
『え!!急にどうしたんだい?僕の部屋に誘ってるのにあの子に
義理立てして、ずっと来てくれなかったから嬉しいけど!本当だね?
あとで無効とか言ったら泣くよ?』
「本当だ。約束は絶対に守る。だから、とりあえず、陛下の様子だけでも
診てくれないか?病だったなら寿命だ。残念だが他の方法を考える」
『いいよ!!呪いなら本来の運命を違えるってことだから、僕としても
それを良しとは言えないね!!僕そういうの嫌いだし!』
「では、明日の昼間、王宮のある一室にヘリアが降臨できる準備をして
陛下をお連れしておくから宜しく頼む」
『はいよー!じゃあ明日また会おうね!!なんかこういうのいいね!!』
これで準備は済んだ。
俺は病ではなく、呪いだと確信している。
病であるというにはいろいろ不自然だからだ。
原因が全くわからない病もあるにはあるが、タイミングが良すぎる。
こうも王妃殿下やレナス殿下に都合が良く陛下が病になるか?
レナス殿下が陰謀の準備をはじめた時期と符合するのはおかしい。
いや、陰謀を企てたのは王妃殿下かもしれない。
それなら納得できる。あのレナス殿下が良く知恵が回ると不思議に
思っていたのがしっくりくる。
エチル一人で描いた絵図にしては、話しのスケールが大きすぎると
引っかかっていたが、道理でな。
だが、明日は逆に俺たちが仕掛ける番だ。
―――――翌日、約束の時間
「レンス。準備はできたようだな」
「ああ、あんたの言う通りにした。親父殿も連れてきてる」
「はじめるぞ。ヘリア降りてきてくれ」
『はいよー!!やあ、王子くん!久しぶりだね!!』
「おいおい、、女神様を呼んだのか?」
「ああ、このほうが手っ取り早いからな。どうだ?ヘリア」
『うん。だーりんの思ってる通り、これは病じゃないね!!複雑な呪式の呪いが
何層にも重ねて掛けてあるね!!悪質なことをする子がいるね?ひどいな!」
「解けそうか?」
『僕を何だと思ってるんだい!!解けるとわかってて呼んだくせに!時間掛かるけど
解けるよ!このおじさん元気になるよ!!』
「お、おお、本当か!女神様ありがたい!感謝する!さすがだな」
「さてレンス。ここからが見せ場だぞ?王妃殿下たちは待たせてあるな?」
「ああ、アデラールの言う通り、謁見の間に待たせてある」
「よし、行くぞ。往生際の悪いあいつらにトドメ刺をしてやるぞ。
ヘリア、陛下が回復されたら連れてきてくれないか?」
『いいよー!しばらく掛かるから待っててね!!』
ベラライア王宮、謁見の間――――
「何用ですか?王妃である私に無礼ではないですか!!」
「王妃殿下、兄上の今回の謀議について、処分を決しましたので」
「何を言っているのですか?レナスは謀議になど関わってはいません」
「そうだ!僕ではなく、バルグートとエチルが仕組んだことだ!!」
「兄上、あんたあそこに居ただろうが?」
「何の話しだ!そんなことは知らない!!」
あの場で堂々と、さんざん騒いでたくせによく言う。
クククク、だが、そうでなくては面白くないというもの。
こいつらに吠え面をかかせたくて、わざわざ舞台を用意したんだ。
せいぜい、ピエロの役を演じて俺を楽しませてくれ。
どうせ、お前らはもう終わっているのだから。
心なしかレンスの顔もニヤけているな。
あいつめ、演技を忘れるなと言っておいたのに。クク。
「陛下のご裁可でもない限り、私たちには勝てないとわからないのですか?」
王妃殿下が、痺れを切らしてきたか?
「それはどういう意味でしょう?母上?」
「ふん。母などと心にも無いことを!あなたは散々放浪していたせいで
この王宮には味方は僅か!いま、この王宮、、いえ、王国は私の意思ひとつで
何でも決することが出来ると言っているのです!!」
いい感じだ。いい具合に増長してるな。
「そうだ!僕の陰謀への関与も母上なら握り潰せる!僕は無実だ!!
分かったら、そこの魔導師と一緒にそこへ直れ!!無――
「今の話しは本当か!!レナス!!」
待ってました。真打登場ですか。お父さん?
「ち、、父上!な、、何故、、ここに?病のはずじゃ、、、、」
「ワシがここにおったらおかしいと言える根拠でもあるのか?」
「陛下何を仰っているのです!我が子を疑うとは嘆かわしい!!」
「黙らぬか!仔細はここへ来る前に聞いている!王の裁可が欲しいのだな?
ならば、存分にくれてやる!レナス!!お前は何てことをしてくれた!」
お父さん。絶賛激怒中。
確かに俺が今回使ったのは反則だ、本来なら王妃殿下の目論見通り
陛下は回復しなかっただろう。
だから、あのように陛下の耳に入っては一発でアウトな内容でも
言い切ってレンスを恫喝できたのだ。
相手が悪かったな。
俺以外なら誰にでも勝てたかもしれないが。
「父上!なぜ、ぼくにそこまで冷たいのですか!!」
「お前は何を言ってるのか分かってるのか!あのような陰謀に手を染めて
カイユテの民を何人犠牲にしたのだ!」
「あの陰謀は見事だったでしょう?ぼくの才能です!王太子に――
おい。お前はそこで自白を重ねるのか?
「お前はもう王太子でもなければ王族でもない!サンに従って反省すれば
よいものをこの期に及んで言い逃れようなどと言語道断!」
「陛下!レナスも反省しています。今回は大目に、、」
「これを大目に見ては王族として示しがつかん。レナスは王族の位を剥奪し
島流しとする。ワシの目の黒いうちは島から一歩たりとも外へは出さん!
本来なら、ワシと王国への謀反だぞ?生きてるだけ有難いと思え!」
「ち、父上!それはあんまりです!ぼくがなにをし――
ここまで重罰になるとは想定外だった。
廃嫡されて、どこかの田舎にでも飛ばされて半ば幽閉でもされるかと
思ってたが、王陛下は厳しいお方なのかもしれない。
身内びいきをするつもりはないらしい。
「それからバルグートの爵位と領地並びに財産を没収し、牢に入れろ!
刑期は死ぬまでだ。その他の始末はサンに任せる」
「お任せください」
「レナスが廃嫡となったのだ、今後は遊び惚けてはいられぬぞ?早々に
そなたを立太子する。いいな」
「気は進みませんが、承知しました」
本当に気は進まないのだろうな。
あいつ一人に嫌なことを押し付けてしまったようで、少し胸が痛む。
すまないな。本当にすまない。
「それと、そこの魔導師殿。話しは聞いている、カイユテの民を守り
愚息を助けてくれたこと礼を申す。感謝している」
そういうと、王陛下は口角を上げて笑う。
「有難きお言葉、感謝の言葉もありません」
もうすっかり回復されたようだ。
まだまだ壮年なお方なのだから、回復されたなら、しばらくは
このお方の治世が続くだろう。
名君と誉高きお方なのだから、きっと俺たちの期待に応えて
くれるはずだ。
俺の反則も少しは正当化できるか?
いや、反則は反則か、人の身で神の力を頼るなどとはな。
しかし、手段を選んでる場合じゃない。
例え天罰でこの身が滅びようと、心が裂けてしまおうと
俺や、仲間や、大切な人を苦しめたやつらを許さない。
それが今の俺の矜持だ。
*****
作者です!!
王太子ざまぁ&伯爵ざまぁ編でした。
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