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第2章「スーパードクター現る!」

第14話「リト村の下衆代官」

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 ※2020/05/27 書き直し

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「あ、あの…アデラールさま?」
「なんでしょう?」

 硬直していたルミエラが意識を取り戻したようだ。

 当事者のアデラールでさえついていけていない。
 彼の頭のあたりを”ふよふよ”浮いている大根の精霊に頭を悩ませている。

「そちらの生命体は確かに精霊のようです、それは間違いありません。さきほどのお話しだと、アデラールさまが創造したと言うことですが…」
「わらわに何か申すことでもおるのか、人間の娘よ。」
「いえ、人間が精霊を生み出したなど、たとえ王都の魔術学院にも、そんな事象を記した文献など一切ないでしょう。とても驚きました。」
「そなたは、マスターのお力をどこまで理解しておるのか。この溢れんばかりの魔力を感じておるのであろう? 人間の娘よ。」
「はい。素晴らしい魔力の適性をお持ちだとは思っていますが‥‥」
「マスターのお力はいまの時点でも、少なくとも人の身を遥かに超越しておいでじゃ。」

 うん、わけがわからんな。
 俺が黙っているうちに、どんどん話が大きくなっていく。
 もういい、この問題は放っておこう。
 大変くどいようだが、こいつは大根だ。何食わぬ顔して普通に振舞ってるがDAIKONだ…


「ときにマスター、わらわは暇でやることがありません。何かわらわにお手伝いできることはございませんか?」

 いつの間にか”マスター”で落ち着いてしまった…。

「いや、俺もいまは忙しくてだな……うーん、パンナは大精霊だし強いよな?」
「生まれたばかりゆえ戦いの経験はありません。ですがマスターの魔力をお借りできれば戦うすべはあります」

 そうか、それならやってもらえそうなことがある。
 どうも領主は何かを隠していそうなんだよな。

 先日の重傷を負った兵士。
 あの傷は普通ではない、さんざん魔物の解体をした経験が
 『アレ』は普通ではないと感じさせる。
 
 事件の背景に魔物か、あるいはもっと別の何かを感じさせる

「パンナに調べてもらいたいことがある」
「何なりと」
「この村の周辺を調べてもらいたい、魔力や魔物の痕跡その他、何か異変がないかだ」
畏まりましたかしこまりました、マスター」

 返事をするとパンナは、”すうっと”空に向かって消えてしまった。

「ルミエラさま、勝手に判断して申し訳ありません」
「いいえ、大精霊さまならわたくしたちが調べて回るより、何かを見つける可能性が高いと思いますわ」
「そうだといいんですが」
「お嬢さま、とりあえず今日のところは戻りましょう」
「そうですね、ベルナルド。ではアデラールさま、わたしくしたちは先に戻らせていただきます」

 そう言うとルミエラはベルナルドを伴い、屋敷に戻って行った。

 アデラールは一人この場に取り残されてしまった。
 今回の騒動の張本人として対応に追われることになる。




―――――




 騒動を鎮静化するのに一週間ほど掛かった。

 田舎いなかの小村に突如、大精霊を従える魔導師が誕生したのだ。
 リト村の人々はアデラールに期待を寄せて、連日のように彼を追い回した。

『うちのクワにも魔法を掛けてくれ』
『曲がった腰を治してくれ』

 村長や村の主だった者たちは、大賢者だとか大魔導士だとかで大騒ぎだった。

「お兄ちゃん! あたしもぱんなちゃん呼び出したい!」
「マスターの妹君といえど、わらわに対して失礼であろう?」
「ぱんなちゃんがお兄ちゃんをお父さんと思うなら! あたしは叔母さんだよね!!」

 お、叔母さん…? 妹よ…
 パンナは一週間の調査の成果を主に報告しに来ていた。
 だが、リーナに見つかり捕まってしまった。

「そなた、何やら光を宿しておるようじゃ」
「え? わたし?」
「そうじゃ、リーナ。精霊ではないな、もっと高尚で神霊力の高い光を宿しおるようじゃ」
「そうなの! じゃあ、パンナちゃん呼べるんだね!」
「何を言っておる、わらわは精霊じゃ、そなたのその光は天使、あるいは神の類じゃ」

 おおっと。
 また何か意味不明なことを言ってるな。
 気にすると精神に悪い…聞かなかったことにしよう。

「お兄ちゃん! 神さまだって!」
「あ、ああ…よかったなリーナ。」
「うん! 神さまとか天使さまと一緒に看護師さんできるかな!」

 うう…妹よ…
 そんな穢れのない澄んだ目で俺を見ないでくれ…

「それでですが、マスター。調査の結果をお伝えしたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
「ああ、頼む、何かわかったのか?」
「マスターのお見立て通り、あの森にはただならぬ何かがある様子…強い魔力の流れを感じます」
「そうか、明日にでも領主に報告しないとな」




◇◆◇◆◇




 領主代理の男ファイルは降って沸いた好機に、目の前の金貨の山にほくそえんだ。
 先日会った若者が召喚術者であり、自分に富をもたらすのだと。
 田舎の村の代官風情には身に余るほどの、大量の金貨だ。

 この男はこの田舎村いなかむらに辟易していた。
 自分はもっと大事を成す人間だ、もっと多くをなして多くを得るのだと。
 それが命懸けの戦功の代わりに得たのが、つまらない田舎の村の代官などでは話が違う。
 そうではない、もっと多くを得る機会がやってくるはずだ。

 その機会がようやく巡ってきた。
 ファイルと顔を合わせているのは大商人エチル。

「お代官さま、今回の大根騒ぎ、一旦収束しましたが、例の召喚士の力をもってすれば更に大根を得られます」
「うむ、アデラールなる男には1度会ったことがある、ルミエラさまの紹介でな」
「おお、さようでしたか、ならば話しは簡単ですな」
「それがのう、ルミエラさまがたいそうご執心なのであやつには迂闊に手を出せんのだ」
「それは困りましたな」

 あの若造アデラールが、まさか召喚士だったとはな。
 なにやら聞いたこともない精霊だが…金貨を生む精霊だ。

 あの若造に適当な罪でも着せて捕らえてしまえばいい。
 無理矢理言うことを聞かせてしまえば良いのだ。
 やがて全国からこの地に大根を求めて人が殺到する。

 ゲハハハハ、笑いが止まらぬ。

 ようやく運が向いてきた。

「ルミエラさまは伯爵さまの命でこの地においでだ、その用さえ済めばカイユテに戻るだろう。ルミエラ様に全面的な協力をして早々に仕事を終えてもらえばいい。」
「ならば、このエチル屋もお手伝いしましょう」

 そうだ。
 ルミエラさえ居なければリトは私の好き勝手にできる。
 大根を呼び出すしか能のない召喚士など…ククク、どうにでもできる。
 この世は金だ、金さえあれば…しかし…

 このエチルも信用できない男だ。
 せいぜい利用して大金を稼がせてもらおう。
 金を持ってる者が一番強いのだ。
 伯爵などまだまだだ、あの成り上がり者め偉そうに指図などしおって。
 この機会を上手く使って上り詰めてやる。

 私の時代がきたのだ。

「エチルよ、ひとつ頼みがある」
「なんでございましょう」
「あの召喚士の妹の調査を頼まれてくれるか?」
「ええ、構いませんがどうするおつもりですか」
「いやなに…あの娘、前々から知っておったがなかなか美しい娘だ。兄は私に金をもたらすが、妹も私に尽くしてもよいだろう? 田舎の平民ごときが兄妹で、高貴なものに仕えることができるのだ」
「お代官さまもお好きなお方ですな、では、そのような荒事が得意なものをこちらへ呼び寄せましょう」

 あの娘、なかなか美しい。
 こんな田舎村いなかむらであのような娘を目にするとは私もツイておる。
 下賤の出ゆえ、妻にはできぬが妾として愛してやろう。
 金などあやつが幾らでも生んでくれる。
 まったく笑いが止まらないとはよく言ったものだな。

 金を稼いで稼いで力を手にしたならばルミエラさま……いや、ルミエラを私の女にしてくれる。
 あれは素晴らしい女だ。
 私の妻にふさわしい女だ…必ず手に入れてみせる。

 その為には、アデラールを私の手駒にする必要がある。
 言うことを聞かなければ、領主の権限を行使してでも言うことを聞かせてやる。
 このリトでは私が神なのだ。
 村の全ては私の好きにして良いのだ…





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2020/05/27 加筆修正

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