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第1章「夢破れて、大根マスター」
第13話「大根マスター降臨」
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※2020/05/27 書き直し
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「アデラールさん。その大根が生えてくる件、それも一応、調べておきましょう。」
「そうですね、わかりました。」
関係ないと思うがすべての事象を正確に把握しておきたいらしい。
ベルナルドさんとルミエラさまの立ち合うことになった。
例のふざけたクワと大根畑の因果関係を調査することになった。
そのはずだったのだが…
「お兄ちゃん、いよいよね! ドキドキ。」
「あ、隣のお兄さん、今日はお招きいただいちゃって!」
「え? どちらさまです?」
「お兄ちゃん、忘れちゃった? 『お隣のミヨちゃん』だよ」
魔法学院で錬金術を学ぶとかなんとかって。
この村はじまって以来の才女だってことで、6年くらい前に王都へ行った彼女が帰ってきたのか。
確かに彼女も魔力を持っているはずだ。
この検証において、何か役立つアドバイスをしてくれるかもしれないな。
だが、招いたつもりはないぞ。ミヨちゃんよ。
そして、その周りを囲むあなたたちは何をしにここへ?
「おう! ババロさんとこの息子! 何をしてるかしらねーが頑張れよ!」
「あらあら、まあまあ、ババロさんとこの息子さんですって!」
「ありゃ、ワシの愛人じゃ! 大根トークまた聞かせてほしいのう! フガフガ。」
「トメさん! 愛人ってどういうことじゃ! つ……つつ付き合ってるのかいのう!」
「ルクじいさん! 興奮するとまた鼻血出て大変だから!」
ルミエラさまがこの村へ来たのはつい先日のことだ。
彼女は調査のためなのか、村のみんなとはすぐ打ち解けてしまった。
当初はみんなも”貴族のご令嬢”ということで、警戒していた。
しかし、あの気安さと兵士を救った行動で信頼を得たようだ。
その彼女が、見るからに立派な出で立ちの従者を伴って、どこからどう見ても平民にしか見えない俺と親しそうに
談笑しながら歩いているのが注目を集めたのだ。
そしてこんなことになってしまったのだ。
大根フィーバーのおかげで村人は要するに暇なのだ。だから”お嬢さま”が何かをするらしいと集まってきたわけだ。
検証するのは望むところだが、こんなに注目を集めていいのかと甚だ疑問だが仕方ない。
「ではルミエラさま、説明だけ先にしておきますね」
「ええ、お願いしますわ」
「昨日の昼間は、村の女性たちが伝統に従って種まきをしました」
「んだ、それがこの村の伝統だ」
「あ、村長さん、こんにちは!」
「ほっほ、エヴェリーナ。いつも元気じゃなたまにはうちの孫にも会いにこんか?」
「えへへ、そのうち行くね!」
ルミエラのその美貌をいたく気に入った村長まで来ている。
村長の孫とリーナは教会の学校で同学年だった。
村長の提案で”算数”という数を数える効率的な学問を、村長みずから村の子供たちに教えている。
俺も1年の間、教会で算数を教わり”数式”と呼ばれる村長曰くニホンと言う国で用いる、究極の計算方法を伝授された。
驚くことに、村長の計算スピードはとても老人とは思えない素晴らしいもので、2桁の数字を僅か数十秒で足したり引いたりできる。
村長はニホンの出身で算数の大賢者と呼ばれていたらしい。
そんなことをルミエラに話したそうだ。
「それでルミエラさま、種まきを眺めてるときに突如として蒔いたばかりの種が芽吹き、大根が大挙して押し寄せ、2回目の収穫となったわけです」
「そうですか、話しだけ聞いておりますとにわかには信じられませんが、実際に魔力を帯びた大根が大量にあるので、信じないわけにはいきませんね」
「ふむ、アデラールさん、その時に何かきづいたことはありませんでしたか?」
――心当たりというか正解だと思うが。
「ええ、1つだけ気になることがあります。」
「というと?」
「最初の大根と昨日の大根には1つ共通点があるんです。どちらの時もこのクワを持って野良作業をしてました」
「アデラールさま、それを見せていただけますか?」
ルミエラがクワに視線を集中させて眉をひそめた。
そしてベルナルドに視線を送ると、彼もルミエラに向かって軽くうなづいて見せた。
「このクワ魔力を帯びていますね。クワの刃の部分に少し魔力を流すと”魔法言語”が浮かび上がります」
「そうなんですか? 確かに最初にそれをつかったときに、気が付いたらクワの刃が薄っすら発光していて文字も入っていました」
「なぜ、大根が急成長するのか歩き出したのかはわかりませんが、あなたさまの魔力に反応した結果、このクワが魔力を帯びたのは確かです」
ここでミヨちゃんが納得したような表情で大きく2度頷いた。
そして俺の目の前まで来てこんなことを言い始めた。
「アデラールさん、それ、エンチャントしたんだと思いますよ」
「エンチャント? なんだそれ?」
「エンチャントとは金属に魔力や魔法を付与する、魔法のスキルの1つですわ」
ルミエラが会話に割って入ると、アデラールの疑問に答えた。
「なるほど、ルミエラさまも出来るんですか?」
「いいえ、わたくしは付与魔術は収めておりませんので、あまり詳しいことはわかりませんわ」
「隣のお兄さん、私が王都で6年学んだのはその付与魔術で、いちおう初級の資格は取ってます」
「おお、そうなのか、ミヨちゃん的にも俺が自分でこのクワに魔力を与えたって言うんだね?」
「うん。そうだと思うその右手の指輪をみせてもらえます?」
リーナと1つづつ身につけようと約束した指輪を渡した。
ミヨちゃんが指輪に魔力を通すと燐光を放って淡く輝き始めた。
「うん、やっぱり、この指輪は強い力をもっているね、これがクワの刃に魔力を付与したんだと思います」
「2つの属性を高い水準で使いこなすなんて……すごいことですよ? アデラールさま、まさか付与まで使えるとは…」
ざわついていた村人たちが俺たちのやりとりを聞いてどよめいた。
「隣のお兄さん、この指輪はどこで手に入れたんですか? これすごいですよ! いいなぁ、私もこんなの作ってみたい」
「市場の露店で対になってる物を、俺とリーナに1つづつということで買ったものだよ。値段は確か1つ銀貨5枚だったかな?」
「え? やっす!! これ…お金に換えるとしたら幾らだろう? ううん、お金で買える代物では……でもあえてお金に換算したら小さな国が1つ買えるくらい…」
ミヨちゃんは神妙な顔つきで、指輪を”まじまじ”見つめて考えに没頭しているようだった。
「この指輪には封印されていた痕跡がありますね…」
指輪を見つめながら、白髪の従者ベルナルドが呟いた。
「封印ですか? ベルナルドさん」
「ええ、解呪されたのは最近だと思います」
アデラールは"封印"という言葉を聞いて、昨日の雑貨商との話を思い出す。
あの折に雑貨商は『封が空いている』とも言っていた。
「購入額を考えると封印が解けたのは、この指輪を入手したあとでしょうね」
このベルナルドの台詞を直訳すれば、アデラールが入手後という意味になる。
「俺もそうだと思いますが…」
翡翠の指輪だと思って買ったものが、封印された魔法器だったとは……
あの雑貨商の男は儲けたどころか大損したことになる。
「アデラールさま、経緯はわかりましたわ。」
「はい、それでは種も蒔きましたし、実際にクワを使って耕してみますね。」
「ええ、お願いしますわ。」
ここまでのやりとりを考えたら結果は明白だ。
どうせ、あの気味の悪い大根が生えてくるんだろう?
気が滅入るが検証のためだと諦めよう…はぁぁ。
「じゃあ、行きますね。ほっ!」
気合を入れて土に”ザクザク”とクワを入れてみる。
クワの刃には力強い光が宿り魔法の文字が浮かび上がってくる。
『ザザザザ…ザッザッザ』
悪い予感は的中するものだ。
いや、予感とかいう代物じゃなかったな。
案の定、あのふざけた大根が生えてきた…
「ああ…また大根か……はぁ。」
「お嬢さま、蒔いたばかりなのに大根? がもう這い出て……」
「え、ええ。」
信じられない光景にルミエラさまたちも動揺しているようだった。
狼狽える姿など彼らからは想像すらできないと思っていた。
だが彼らは這い出してくる大根を凝視して、”信じられない”と一言漏らすとその場に立ち尽くした。
「ババロさんの息子! おめえさん何をしたんだい?」
「ワシの彼氏はどうだ! すごいんじゃ!」
「トメさん! ワシとデートいくって約束は! 今月の生活保護費をあんたに渡したじゃろが!」
「ケチくさいじじいじゃのう!」
「おい、みんな! ババロさんとこの息子がすごいぞ!」
うん。もうどうでもいいかな…
この件はルミエラさまの件とは関係なさそうだし。
急に馬鹿らしくなりクワを隣の畑に放り出す。
本当に忌々しいクワだ。
だが、俺はクワを放り出したことを後悔することになった。
「おお…い? なんか畑が光ってるぞ?」
「ババロさんちの隣の畑だ!」
「ババロさんちのクワが光ってるぞ!」
もう大抵のことでは驚くつもりはなかった。
だが目の前で更に意味不明の事態が急速に進行していた。
『ザザザザ…ザザザザザザ……ザザザザザザザザザザ!』
ふたたび大量に湧き出た大根がクワの周りで儀式をはじめた。
村人たちは異様な光景に”ぽかん”としている。
それは当然の反応だった。
なぜなら畑の土の中からとんでもない”モノ”が這い出してきたからだ。
「……はじめまして、我が主……あなたさまの真名をうかがいたく思います」
うん。這い出てきた大きめの大根が喋ったな。
「え? ええと…はあ!?」
なんとも言えない事態に俺は混乱していた。
周囲を取り囲む村人やルミエラさまたちでさえも混乱していた。
当たり前だ。なんだこの謎生物は? しかも、主って?
「申し遅れました、わらわの名は『ジンギス・パンナ=チャン』と申します。マスター、今後はパンナとお呼びください。」
「な、なまえぇ!?」
すっかり混乱する俺。
しゃべる大根は器用に頷いて、俺の質問にもならない叫びに無言で回答した。
「全ての大根的な事象を司る大精霊として、マスターの祭器の力を借り受け、この聖地で、この世界に世を受けました。あなたさまはわらわの主であり、同時に愛すべき父でもあります」
なんだコイツは。
これ以上混乱させないでほしい。
「マスター、あなたさまの真名をお聞かせ願いますか?」
「真名? ああ、名前のことか? アデラールと言うが…。」
「承りました。アデラールさま、このときを以て、わらわとこの世のすべての大根は、あなたさまを主と定めます。いついかなるときも、わらわと大根はあなたさまと共に在ります」
「大根マスター………」
「「「大根マスターだ! 大根マスターさまが降臨なさったぞ!」」」
「ババロさんとこの大根マスターだ!!」
「きゃあああ! お兄ちゃんが大根マスターだって!」
「どうじゃ! 皆の衆、ワシのフィアンセは大根マスターじゃ!」
「トメさん…フィ、フィアンセって……トトカルチェ堂の3連リング買ってあげたら、ワシと、りょ、旅行にいくって約束が!」
「3連リングのゴールド買ってから出直しな!」
どうやら俺には変な方向に魔力があるようだ。
パンナの言うことは真実なのだろう。
俺がこのふざけた大根たちを生み出したのだろうし、パンナを創造したのも俺なのだろう…。
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2020/05/27 加筆修正
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※2020/05/27 書き直し
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「アデラールさん。その大根が生えてくる件、それも一応、調べておきましょう。」
「そうですね、わかりました。」
関係ないと思うがすべての事象を正確に把握しておきたいらしい。
ベルナルドさんとルミエラさまの立ち合うことになった。
例のふざけたクワと大根畑の因果関係を調査することになった。
そのはずだったのだが…
「お兄ちゃん、いよいよね! ドキドキ。」
「あ、隣のお兄さん、今日はお招きいただいちゃって!」
「え? どちらさまです?」
「お兄ちゃん、忘れちゃった? 『お隣のミヨちゃん』だよ」
魔法学院で錬金術を学ぶとかなんとかって。
この村はじまって以来の才女だってことで、6年くらい前に王都へ行った彼女が帰ってきたのか。
確かに彼女も魔力を持っているはずだ。
この検証において、何か役立つアドバイスをしてくれるかもしれないな。
だが、招いたつもりはないぞ。ミヨちゃんよ。
そして、その周りを囲むあなたたちは何をしにここへ?
「おう! ババロさんとこの息子! 何をしてるかしらねーが頑張れよ!」
「あらあら、まあまあ、ババロさんとこの息子さんですって!」
「ありゃ、ワシの愛人じゃ! 大根トークまた聞かせてほしいのう! フガフガ。」
「トメさん! 愛人ってどういうことじゃ! つ……つつ付き合ってるのかいのう!」
「ルクじいさん! 興奮するとまた鼻血出て大変だから!」
ルミエラさまがこの村へ来たのはつい先日のことだ。
彼女は調査のためなのか、村のみんなとはすぐ打ち解けてしまった。
当初はみんなも”貴族のご令嬢”ということで、警戒していた。
しかし、あの気安さと兵士を救った行動で信頼を得たようだ。
その彼女が、見るからに立派な出で立ちの従者を伴って、どこからどう見ても平民にしか見えない俺と親しそうに
談笑しながら歩いているのが注目を集めたのだ。
そしてこんなことになってしまったのだ。
大根フィーバーのおかげで村人は要するに暇なのだ。だから”お嬢さま”が何かをするらしいと集まってきたわけだ。
検証するのは望むところだが、こんなに注目を集めていいのかと甚だ疑問だが仕方ない。
「ではルミエラさま、説明だけ先にしておきますね」
「ええ、お願いしますわ」
「昨日の昼間は、村の女性たちが伝統に従って種まきをしました」
「んだ、それがこの村の伝統だ」
「あ、村長さん、こんにちは!」
「ほっほ、エヴェリーナ。いつも元気じゃなたまにはうちの孫にも会いにこんか?」
「えへへ、そのうち行くね!」
ルミエラのその美貌をいたく気に入った村長まで来ている。
村長の孫とリーナは教会の学校で同学年だった。
村長の提案で”算数”という数を数える効率的な学問を、村長みずから村の子供たちに教えている。
俺も1年の間、教会で算数を教わり”数式”と呼ばれる村長曰くニホンと言う国で用いる、究極の計算方法を伝授された。
驚くことに、村長の計算スピードはとても老人とは思えない素晴らしいもので、2桁の数字を僅か数十秒で足したり引いたりできる。
村長はニホンの出身で算数の大賢者と呼ばれていたらしい。
そんなことをルミエラに話したそうだ。
「それでルミエラさま、種まきを眺めてるときに突如として蒔いたばかりの種が芽吹き、大根が大挙して押し寄せ、2回目の収穫となったわけです」
「そうですか、話しだけ聞いておりますとにわかには信じられませんが、実際に魔力を帯びた大根が大量にあるので、信じないわけにはいきませんね」
「ふむ、アデラールさん、その時に何かきづいたことはありませんでしたか?」
――心当たりというか正解だと思うが。
「ええ、1つだけ気になることがあります。」
「というと?」
「最初の大根と昨日の大根には1つ共通点があるんです。どちらの時もこのクワを持って野良作業をしてました」
「アデラールさま、それを見せていただけますか?」
ルミエラがクワに視線を集中させて眉をひそめた。
そしてベルナルドに視線を送ると、彼もルミエラに向かって軽くうなづいて見せた。
「このクワ魔力を帯びていますね。クワの刃の部分に少し魔力を流すと”魔法言語”が浮かび上がります」
「そうなんですか? 確かに最初にそれをつかったときに、気が付いたらクワの刃が薄っすら発光していて文字も入っていました」
「なぜ、大根が急成長するのか歩き出したのかはわかりませんが、あなたさまの魔力に反応した結果、このクワが魔力を帯びたのは確かです」
ここでミヨちゃんが納得したような表情で大きく2度頷いた。
そして俺の目の前まで来てこんなことを言い始めた。
「アデラールさん、それ、エンチャントしたんだと思いますよ」
「エンチャント? なんだそれ?」
「エンチャントとは金属に魔力や魔法を付与する、魔法のスキルの1つですわ」
ルミエラが会話に割って入ると、アデラールの疑問に答えた。
「なるほど、ルミエラさまも出来るんですか?」
「いいえ、わたくしは付与魔術は収めておりませんので、あまり詳しいことはわかりませんわ」
「隣のお兄さん、私が王都で6年学んだのはその付与魔術で、いちおう初級の資格は取ってます」
「おお、そうなのか、ミヨちゃん的にも俺が自分でこのクワに魔力を与えたって言うんだね?」
「うん。そうだと思うその右手の指輪をみせてもらえます?」
リーナと1つづつ身につけようと約束した指輪を渡した。
ミヨちゃんが指輪に魔力を通すと燐光を放って淡く輝き始めた。
「うん、やっぱり、この指輪は強い力をもっているね、これがクワの刃に魔力を付与したんだと思います」
「2つの属性を高い水準で使いこなすなんて……すごいことですよ? アデラールさま、まさか付与まで使えるとは…」
ざわついていた村人たちが俺たちのやりとりを聞いてどよめいた。
「隣のお兄さん、この指輪はどこで手に入れたんですか? これすごいですよ! いいなぁ、私もこんなの作ってみたい」
「市場の露店で対になってる物を、俺とリーナに1つづつということで買ったものだよ。値段は確か1つ銀貨5枚だったかな?」
「え? やっす!! これ…お金に換えるとしたら幾らだろう? ううん、お金で買える代物では……でもあえてお金に換算したら小さな国が1つ買えるくらい…」
ミヨちゃんは神妙な顔つきで、指輪を”まじまじ”見つめて考えに没頭しているようだった。
「この指輪には封印されていた痕跡がありますね…」
指輪を見つめながら、白髪の従者ベルナルドが呟いた。
「封印ですか? ベルナルドさん」
「ええ、解呪されたのは最近だと思います」
アデラールは"封印"という言葉を聞いて、昨日の雑貨商との話を思い出す。
あの折に雑貨商は『封が空いている』とも言っていた。
「購入額を考えると封印が解けたのは、この指輪を入手したあとでしょうね」
このベルナルドの台詞を直訳すれば、アデラールが入手後という意味になる。
「俺もそうだと思いますが…」
翡翠の指輪だと思って買ったものが、封印された魔法器だったとは……
あの雑貨商の男は儲けたどころか大損したことになる。
「アデラールさま、経緯はわかりましたわ。」
「はい、それでは種も蒔きましたし、実際にクワを使って耕してみますね。」
「ええ、お願いしますわ。」
ここまでのやりとりを考えたら結果は明白だ。
どうせ、あの気味の悪い大根が生えてくるんだろう?
気が滅入るが検証のためだと諦めよう…はぁぁ。
「じゃあ、行きますね。ほっ!」
気合を入れて土に”ザクザク”とクワを入れてみる。
クワの刃には力強い光が宿り魔法の文字が浮かび上がってくる。
『ザザザザ…ザッザッザ』
悪い予感は的中するものだ。
いや、予感とかいう代物じゃなかったな。
案の定、あのふざけた大根が生えてきた…
「ああ…また大根か……はぁ。」
「お嬢さま、蒔いたばかりなのに大根? がもう這い出て……」
「え、ええ。」
信じられない光景にルミエラさまたちも動揺しているようだった。
狼狽える姿など彼らからは想像すらできないと思っていた。
だが彼らは這い出してくる大根を凝視して、”信じられない”と一言漏らすとその場に立ち尽くした。
「ババロさんの息子! おめえさん何をしたんだい?」
「ワシの彼氏はどうだ! すごいんじゃ!」
「トメさん! ワシとデートいくって約束は! 今月の生活保護費をあんたに渡したじゃろが!」
「ケチくさいじじいじゃのう!」
「おい、みんな! ババロさんとこの息子がすごいぞ!」
うん。もうどうでもいいかな…
この件はルミエラさまの件とは関係なさそうだし。
急に馬鹿らしくなりクワを隣の畑に放り出す。
本当に忌々しいクワだ。
だが、俺はクワを放り出したことを後悔することになった。
「おお…い? なんか畑が光ってるぞ?」
「ババロさんちの隣の畑だ!」
「ババロさんちのクワが光ってるぞ!」
もう大抵のことでは驚くつもりはなかった。
だが目の前で更に意味不明の事態が急速に進行していた。
『ザザザザ…ザザザザザザ……ザザザザザザザザザザ!』
ふたたび大量に湧き出た大根がクワの周りで儀式をはじめた。
村人たちは異様な光景に”ぽかん”としている。
それは当然の反応だった。
なぜなら畑の土の中からとんでもない”モノ”が這い出してきたからだ。
「……はじめまして、我が主……あなたさまの真名をうかがいたく思います」
うん。這い出てきた大きめの大根が喋ったな。
「え? ええと…はあ!?」
なんとも言えない事態に俺は混乱していた。
周囲を取り囲む村人やルミエラさまたちでさえも混乱していた。
当たり前だ。なんだこの謎生物は? しかも、主って?
「申し遅れました、わらわの名は『ジンギス・パンナ=チャン』と申します。マスター、今後はパンナとお呼びください。」
「な、なまえぇ!?」
すっかり混乱する俺。
しゃべる大根は器用に頷いて、俺の質問にもならない叫びに無言で回答した。
「全ての大根的な事象を司る大精霊として、マスターの祭器の力を借り受け、この聖地で、この世界に世を受けました。あなたさまはわらわの主であり、同時に愛すべき父でもあります」
なんだコイツは。
これ以上混乱させないでほしい。
「マスター、あなたさまの真名をお聞かせ願いますか?」
「真名? ああ、名前のことか? アデラールと言うが…。」
「承りました。アデラールさま、このときを以て、わらわとこの世のすべての大根は、あなたさまを主と定めます。いついかなるときも、わらわと大根はあなたさまと共に在ります」
「大根マスター………」
「「「大根マスターだ! 大根マスターさまが降臨なさったぞ!」」」
「ババロさんとこの大根マスターだ!!」
「きゃあああ! お兄ちゃんが大根マスターだって!」
「どうじゃ! 皆の衆、ワシのフィアンセは大根マスターじゃ!」
「トメさん…フィ、フィアンセって……トトカルチェ堂の3連リング買ってあげたら、ワシと、りょ、旅行にいくって約束が!」
「3連リングのゴールド買ってから出直しな!」
どうやら俺には変な方向に魔力があるようだ。
パンナの言うことは真実なのだろう。
俺がこのふざけた大根たちを生み出したのだろうし、パンナを創造したのも俺なのだろう…。
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2020/05/27 加筆修正
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