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第0章「夢のつづき」

第1話「虐げられる日常①」(2020.05.20 改) 

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 冒険者になってもう4年も経つが…
 一向に芽が出る気配もなく、さすがに嫌気が差してくる。
 何年経っても少しも成長しない役立たずの剣士。
 それが俺だ。
 いまからおよそ4年前、この古代遺跡都市に出てきた。
 あの頃は無邪気に自分の将来に希望を抱いていた。
 この町ではそんな思いを共有できる、新米の冒険者仲間との出会いもあった。
 そんな彼らと冒険をはじめたんだ。

 だが、その後は実に残酷だった。
 パーティの仲間たちは着実に実力を伸ばして行くのに、なぜか俺だけは取り残されてしまった。
 
 何故、俺だけが? 何故、俺なんだ?

 冒険者には向いていなかったのかもしれない。
 そろそろ潮時だと思う。

 メンバーたちからの厭味や虐めにもいい加減に辟易している。
 戦闘でもほぼ役に立てないし、採集や解体も人並みに出来れば調子がいいほうだ。
 だからアイツらに文句を言われるのはわかる。
 言われても仕方ないのもわかっている。
 何もアイツらが一方的に悪いってわけじゃないんだ。

 だけど。だけどな…
 働いてる分くらいは報酬を貰ってもいいはずだ。
 これなら苦労してアイツらと一緒に冒険稼業に精を出す意味がない。
 『役立たずにはこれで十分だ』そう言っては、わずかばかりの銅貨を投げて寄越す。
 それでも貰えるだけまだマシだった。
 依頼が上手く行かなかったり、メンバーが怪我でもしようものなら、その責任は俺にあると言わんばかりに責任を取らされる。そういう時は分け前は一切貰えない。

 わかりやすくいえば奴隷だ。俺はアイツらの奴隷なのさ。

 もう半年近く、まともな収入がない。
 おかげで装備はどれもガタガタだ。落ち武者かってくらいに酷い有様だ。
 その上、貯金もほとんど底をついてしまい、馬屋の厩舎で眠るのにも随分慣れた。
 不味いとはいえ、食事を口にできるだけマシなのか。
 そんなふうに思えている時点で、自分のことながらどうかしてると思う。

 こんなふうになる前に、他所のパーティへの移籍も考えたさ。
 だが、アイツらがそんなことを黙って許すわけがない。
 便利なサンドバック、何でも言うことを聞く都合の良い人形。そんな俺をタダで逃すわけがない。
 アイツらの根回しで、俺はすっかりどこに行っても役立たずとして烙印を押されている。
 もうどこにも行き場がないんだよ。

 どんな危険も考慮に入れないなら…
 移籍先が無いわけじゃない。
 でもそういうパーティはだいたい何か大きな問題がある。
 そんなところへ入ってしまったなら、よくて牢獄送り、下手をすれば首が飛ぶ。

 それならまだ現状維持するほうがマシだ。

 結局はこうなんだ。だから潮時なんだ。

 もう夢など捨てて田舎で畑でも耕したほうがマシだ。堅実に生きるのも悪くない。
 少なくともバカにされないし、ベッドの上で眠れて、毎日まともな食事にもありつける。
 どうしてそんな普通の生活で満足しなかったのかと、あの頃の俺に言ってやりたいと思うが、もうそんなことを、あれこれ考える余力もない。



「よう、アデラール」

 こいつはリーダーのイオス。
 いつも"ニヤニヤ"と意地の悪い笑みを浮かべている。
 実際、最悪な性格をしているが、こんなヤツでも剣術の腕前は確かだ。
 経験的には中堅くらいだろう。

「イオス、おはよう」
「今日は東の森までワイルドボアの討伐依頼だからよ、いつものように雑用と荷物運びは任せたぜ」

 さも当然のように言ってるが、普通は自分の荷物を他人に持たせたりはしないし、雑用も交代制でするのが常だ。そもそもコイツらは雑用系のスキルをまったく伸ばしていない。
 使ってもいないから、当然のように低ランクのままだ。
 コイツらほど冒険者としてのランクと、戦闘スキル以外のランクが、ちぐはぐな奴らも珍しいんじゃないか?
 そうであることは、それだけ基本をサボってるってことなのを、イオスたちは理解していない。
 まあ俺には関係ないけどさ。

「そうか、すぐに出発するのか?」
「いいや。ギルドで野暮用を済ませてからだ」
「だったら荷物はとりあえず、ギルドに運んでおくよ」

 野暮用って…
 また下らない嫌がらせでも考えているんだろう。
 まったく飽きずに良くやる。


 俺が冒険者として暮らすこの町の名は、古代遺跡都市カイユテ。
 ダンジョン化した古代遺跡の周囲に冒険者が集まり、やがて町が興った。この町の周囲にも幾つかのダンジョンが点在している。国内でも有数の、冒険者が大勢活動している町だ。
 町中にあるダンジョンには、その奥地にすごい財宝が手付かずで残っていると言われており、命知らずの者たちを引き付けてやまない。

 イオスたちもいつかは、ダンジョンに挑みたいと考えているようだ。
 俺にはまったくどうでもいいけどな。

 それからこのカイユテの町には、冒険者以外にも冒険をする生業の者たちが暮らしている。
 彼らはさまざまな仕事で冒険者をサポートしているが、もっともメジャーなものが荷物持ちだろう。
 文字通りの仕事内容だが、重い装備の上に荷物を担ぐのは骨が折れる。
 それを代わりにこなしてくれる彼らはそれなりに人気がある。

 冒険者になるには才能や、恵まれた体格、体力、そういう物が必要なのは言うまでもないが、それ以外にも初期資金が必要だ。俺だって村を出てくる時にある程度の金を持参してきた。
 その金を使って最低限のだが、いろいろ装備を揃えて冒険の準備をしたものだ。
 実家が土地持ちの農家だったことが幸いしたが、サポート職に就く者たちは大抵の場合、親が居ないとか、居たとしても病気だったり、大怪我があったり、冒険稼業をはじめる以前のスタートラインがずっと後ろなんだよ。
 そんな状況ではろくに装備も揃えられない。だからサポート職で日銭を稼いで、なんとか生きている。
 もっとも下を見ればキリはない。
 サポート職の連中よりも、もっと酷い状況の者たちだって山ほどいる。
 教会辺りをちょっと覗いてみれば、そんな酷い有様の連中に幾らでも会えるだろう。
 1日1切れのパンと、薄汚れた毛布にくるまり、決して広いとはいえない教会の建物で、身を寄せあって寒さを凌いでいる連中がな。

 泣けてくるのが…俺の収入だ。
 サポート職の連中で日当は銅貨で2~30枚、町で働く一般職で40枚かそこら。
 でも俺の収入は5枚だ。銅貨で5枚だ。
 それなら乞食や浮浪者のほうが、まだ稼ぎは良いかもしれない。

 でもな。
 イオスたちの懐には銀貨で数十枚は入ってる。
 運良く当たりを引けば金貨数枚に化けることだってある。



「やっときましたね、アデラールさん」
「ああ、悪い。エリス」
「遅いんだよ、お前、本当にノロマだな」
「まちくたびれたじゃないの!」

 口々に自分勝手を言ってるが…
 こいつらの荷物まで運んでいて、こいつらより早く着くわけがない。
 そう言ってやりたいが、その言葉は飲みこんでおく。
 そもそも、ここへ寄越したのはイオスだ。
 こいつが野暮用があるからと言った癖に何を言ってやがる。

「紹介します、新メンバーのカルロさんです」
「カルロだ、よろしくな!」

 一般的なパーティのメンバー構成は4人だ。
 このタイミングでメンバーを加えるということは俺はクビってことか。
 まあそれならそれでいい。
 むしろ歓迎だ。

「ええと、5人パーティにするってこと?」
「いいえ、今まで通りの4人パーティよ」

 この女は計算が出来ないのか。
 まあ、また何か企んでるな…

「4人パーティ+役立たずの間違いだな! ククク」

 何がクククだ。
 嫌な予感がする…
 俺が役立たずなのは異論はないが、即座に納得できて悲しくなる。

「たかが数枚の銅貨の為に、1日の雑用をすべて丸投げされて文句も言わないなんて…お前ってマゾのド変態だろ?
 クッ…クハハハハ」

 文句は言ってるがこいつらが聞かないだけだ。
 もう少し人の言葉を理解できるように改めて欲しいんだが。

「うははは! おいおいカルロ、仮にも先輩のアデラールを、加入した初日に虐めるなよ! 可哀相だろ!!」
「そうよそうよ! 幾らこのバカがこの町1番のクズでも、さすがに酷いわ! あはははは!!」

 イオスに同調して俺を貶す女はリタ。
 見てくれだけはいいんだが、類は友を呼ぶというのか、イオスと良く似た性格の性悪女だ。
 もう一人の女性メンバーのエリスは、俺にはあまり興味がないようで、他のヤツラのように甚振ったりはしてこない。だが俺を歓迎もしないし、むしろ見下しているフシがある。
 そりゃな、エリスは天才だって言われるんだから、そんな彼女から見たら俺はカスだろう。

 そのエリスが言う。

「あなたは今日から戦闘は一切しなくて構いません。アデラールさん」

 この冒険者パーティ『ファミリア』の攻撃の要、4属性の魔法を操る天才魔導師。

「そうだ、今日からお前は俺らの荷物持ちな?」

 カルロが突然、とんでもないことを言い出す。

「待ってくれ、俺はそんな――」
「てめえの意見は聞いてないんだよ、黙って言うことを聞け、豚野郎が」

 カルロが入って5分でブタに降格したよ。
 どうでもいいがコイツら、ここがギルドホールだって忘れてないか。
 見るからに品性の悪さを露呈するような態度を晒しているのに。

「カルロさん、あなた少し言い過ぎですよ」
「こういう豚野郎には最初からきっちり教え込んでおかねえとな!」

 やれやれ。
 どうしてこう似たようなバカが集まるんだ。




*****

『大根と魔導師』の書き直しになります。

*****

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