上 下
46 / 49
第3章『長期休暇は辺境で』

第44話「寄生虫コンビの末路④…因果応報」

しおりを挟む
「ごほごほッ……ぶふッ……ぐうう、空気が淀んでいて息苦しい……」

 粗末な食事を急いで口に入れながらも、ガ・スキーは息苦しさに咳き込んで、辛い表情をしている。

「……そうっすね。酷い所っすよ……それにこのメシにも、うんざりっすよ」

 ガ・スキーとモ・スキーは労役場送りにされて、わずか数日も耐えられずに嫌気が差していた。
 毎朝4時に叩き起こされて、昼前までひたすらツルハシを振るか、鉱石を満載した一輪車を押す。

 それからこの時間になって昼食にありつけるのだが、味気がしない硬いパンと、カップ一杯分の具が浮いていないスープが配られる。
 鉱山内は空調が整備されておらず、常に濃い粉塵が舞っている。スープが粉っぽい気がするのは、その粉塵が混じっているからかもしれない。

 どちらにせよ酷い食事だ。
 ただ、そんな物でも腹に入れておかないと、午後の労役には耐えれない。
 だから仕方なくでも食べるしかない。

「これがあと30年って……無理だろ……」

 ガ・スキーのこの台詞に答える者は居なかった。
 ガ・スキーとモ・スキー以外にも、この鉱山とその周辺の施設には数百人の罪人が収容されている。

 その中でも、この鉱山内の労役が最も過酷だった。
 何しろ眠るときでさえ、鉱山内の施設で眠らなくてはならない。

 次に太陽を拝める日は相当先になるだろう。
 それはもしかすると、本当に30年後かもしれない。
 そう思っているから、モ・スキーは答える気にはなれなかった。



―――



「ぐあッ……か、身体があちこち痛い。メシを食うのが辛い……」
 
 一日の労役を終えてガ・スキーの身体は悲鳴を上げていた。

「ほんとっすよ……、腕がぱんぱんでスープを口に運ぶのが辛いっす……」

 モ・スキーにしても同様だった。
 この二人は魔法学園に通っていた生徒だ。
 そもそもの話、力仕事には向いていない。これが剣術とか弓術の学生だったなら、腕力にも筋力にも優れていただろうから、過酷な労役にもある程度は耐えられたかもしれない。
 だがこの二人は重労働に全く向いていないのだ。

 しかし、早めに慣れた方が身のためだ。
 病気にでもなったらろくに治療もされずに放置される。
 それでも運が良ければ生き延びるが、そのまま死ぬ可能性も低くはない。
 もし感染症でも患えば、まず間違いなく命を落とすだろう。

 だから、早めに慣れておいた方がいいのだ。
 むしろ30年後まで無事に生き永らえれば運が良いとも言える。
 47歳で解放されれば、それからでも第二の人生は歩めるだろう。

「おい、お前ら。悪い事は言わねえ。早めに慣れておけ……」

「ああ、その方がいい。じゃないと後が辛いぞ?」

 ガ・スキーたちの会話が耳に入ったのだろう。
 中年の男が二人、近寄ってきてそう言ってきた。

「……慣れるの自体が無理っぽい……そもそも力仕事は向いていないのに」

「そうっすよ。元魔法学園の学生なのに……」

「そんな事は関係ねえんだよ。何でここに来たのかは知らねえが……もう諦める事だな」

 男の一人が自嘲気味にそう言っている。

「どこで間違ってこうなったんだ?」

「騙されただけなのに……こんなの酷いっす。何もしていないのに、理不尽な目に遭わされる人間の気持ちにもなれってやつっすよ……」

「そうだよな……酷い目に遭う人間の気持ちを考えろよな……世の中、本当にクズばっかりだぜ……」


 この二人には恨む時間も、悔い改める時間も、それこそ30年分ある。
 今はまだ収容されて間もないが、全く人の気持ちの分からないこの二人でも、30年もあれば悔恨の極みに達して反省できるかもしれない。

 だが、もう遅すぎだ。
 彼らの場合、因果応報なのだ。
 やった分以上に返ってきてはいるが、やらなければこうはならなかった。
 後はもう無事に、30年後を迎えられるように祈るしかない。





*****

30年もあれば反省くらいするかもしません(´ー+`)

*****

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...