40 / 49
第2章『お仕置き生活続行中』
第39話「シャルリーヌ②…羽化」
しおりを挟む
「……うあッ……う……うぐぅ……うッ……ううう……」
声にならない声を上げて、シャルリーヌはユベールの胸の中で泣いている。今の彼女は全身を襲い来るとてつもない安心感と、何とも言えない感情に埋め尽くされていて、我を失いかけていた。
けれども、辛うじて伝わってくるユベールの存在が、彼女を気持ちの部分を何とか繋ぎ止めてはいる。
しかし、あと何かひと欠片でも注ぎ足せばという段階を迎えていた。
どうするかはシャルリーヌを抱き留めている悪魔次第だ。
悪魔は優しいけれど、同時に妖しく微笑んだ。やはり彼の気は変わらないらしい。
「……良く頑張ったね、シャルリーヌ」
ずっと聞きたいと思っていた。
以前は望めばいつでもそうできたのに。
もうずっと望んでも聞けなかった声が聞こえてくる。
ユベールの優しい声色に、シャルリーヌは自身の全てを蝕まれて浸食されているのを理解していた。
そうなる事で何を生み出すかも分かっている。
その上でユベールに全てを投げ出して、包み込んでもらいたいと願っていた。
何故なら、それがとても心地よくて、淫らな気分を誘う極上の媚薬とも言うべき感覚を誘っていたから。
シャルリーヌはユベールの声だけで、身体の底の方から震えるほどの快楽を味わっている。ようやく訪れた比類のない安心感も手伝って、この快楽には到底抗う術を持っていない。
それにそもそも彼女には、ユベールを拒むつもりが全く無いのだ。
「ああ、ずっと聞きたかった言葉だわ。貴方の言葉だけを聞きたい。ずっとそうしたかった……」
恍惚としているように見えて、その実、強い快楽に悶えている様子を見せながら、シャルリーヌは更なる望みを心の中で膨れ上がらせていた。
できることなら優しい言葉と、微笑みと、そういうものをいっぱいに感じながら、目と、耳と、心と、そして身体中でユベールの存在を激しく感じたいと、心の内で激しく懇願している。
「キミを早く手にしたくて、僕も我慢するのが大変だったよ」
「……いじわる言わないで。そんな言葉は信じない」
声を聴くのはすこぶる心地が良い。
幾ら混乱していても、淫らな感覚に支配されていても、言葉が成す意味は理解できている。
ユベールの言っている言葉の意味は分かっているのだ。
つまり、もっと早くに会いに来れたけど、そうはしなかったと言っているのを、シャルリーヌはきちんと理解できている。
そう理解出来ているから、ユベールの言葉をいじわると解釈して、その言葉の意味を否定しようとしている。信じないと強く思う事でそうしようとしている。
「嘘じゃないよ。ずっと以前からキミの様子は把握していたからね」
ユベールは表情には出さないが内心では、途方もなく悦んでいる。
17歳という彼の年齢にまったくそぐわない黒いものが彼を包んでいる。包み込んで離そうとしないが、ある意味ではそれこそが彼の本質なのだろう。
「分かっている。私が貴方に酷いことをしたから、そうやっていじわるするのよね?」
言葉の意味だけを取るなら批判だが、声色や態度からはそんな感じは一切伝わってこない。どんな酷い言葉を浴びせられても、ユベールの隣から離れる気は微塵も持っていない。
「そうじゃないよ。キミが屋敷を追放される以前から、キミの様子はずっと監視していたんだよ」
いつもの無表情でひたすら淡々と、シャルリーヌにとっては、残酷で聞くに堪えない内容だけを選んで聞かせている。
「……いいの。これは私が受けるべき罰だから、貴方の気の済むようにして欲しい。何と言われようと私は貴方しか信じないし、信じたくないの」
もうシャルリーヌは、例えユベールの言う言葉でも、自分自身とユベールの間を引き離す言葉は受け入れない。
「今はまだ残っている欠片も失えば、もうキミでは無くなるとしても?」
あえて尋ねる必要は無い。
聞くまでも無く彼女の答えは分かり切っている。
それでも恋い焦がれた存在が、自分が望む完全な状態で手に入ろうとしている。
それなら聞かずにはいられない。
「くだらない。昔の私なんかどうでもいいの。大事なのはこれからよ……ユベール。これからの私と貴方が大事なの。くだらない過去の私は貴方の手で打ち壊してしまえばいいわ」
もうこの道しかない。
シャルリーヌの言葉からはそんな強さが伝わって来た。
申し分がない。
この完成度なら十分に満足できる。
できることなら遠い昔のシャルリーヌを手に入れたかった。
だが、いまのこのシャルリーヌなら、ユベール自身が彼女を見限らない限り、彼女の方から離れる事だけは絶対にないと言い切れる。
そのくらい現時点でもシャルリーヌは、ユベールに依存してしまっている。
だったらこれでいいだろう。
「いいよ。少しくらい異物が混じっていても。どうせすぐに消え去って純粋なキミになるはずだ」
「ねえ? ユベール。すぐに許して欲しいとは思っていないから、本当に貴方の気の済むように私を罰して構わない。でもお願い。もう離れたくないから、ずっと一緒に居させてほしいの……」
「何を言っているの、キミは僕の婚約者じゃないの? 僕の妻となるのがキミの運命だよ」
「嬉しい……」
「僕も嬉しいよ。ようやくキミを手に入れられたからね」
本当はすべてを砕いて作り変えるつもりだったけど。
今のところはこれでいいよ。
もう僕には刃向かわない方がいい。
もうそんな事はしないだろうけどね。
いいや、できないと言う方が正しいのかな?
*****
次回から第3章です。あの男が再登場!(´ー+`)
*****
声にならない声を上げて、シャルリーヌはユベールの胸の中で泣いている。今の彼女は全身を襲い来るとてつもない安心感と、何とも言えない感情に埋め尽くされていて、我を失いかけていた。
けれども、辛うじて伝わってくるユベールの存在が、彼女を気持ちの部分を何とか繋ぎ止めてはいる。
しかし、あと何かひと欠片でも注ぎ足せばという段階を迎えていた。
どうするかはシャルリーヌを抱き留めている悪魔次第だ。
悪魔は優しいけれど、同時に妖しく微笑んだ。やはり彼の気は変わらないらしい。
「……良く頑張ったね、シャルリーヌ」
ずっと聞きたいと思っていた。
以前は望めばいつでもそうできたのに。
もうずっと望んでも聞けなかった声が聞こえてくる。
ユベールの優しい声色に、シャルリーヌは自身の全てを蝕まれて浸食されているのを理解していた。
そうなる事で何を生み出すかも分かっている。
その上でユベールに全てを投げ出して、包み込んでもらいたいと願っていた。
何故なら、それがとても心地よくて、淫らな気分を誘う極上の媚薬とも言うべき感覚を誘っていたから。
シャルリーヌはユベールの声だけで、身体の底の方から震えるほどの快楽を味わっている。ようやく訪れた比類のない安心感も手伝って、この快楽には到底抗う術を持っていない。
それにそもそも彼女には、ユベールを拒むつもりが全く無いのだ。
「ああ、ずっと聞きたかった言葉だわ。貴方の言葉だけを聞きたい。ずっとそうしたかった……」
恍惚としているように見えて、その実、強い快楽に悶えている様子を見せながら、シャルリーヌは更なる望みを心の中で膨れ上がらせていた。
できることなら優しい言葉と、微笑みと、そういうものをいっぱいに感じながら、目と、耳と、心と、そして身体中でユベールの存在を激しく感じたいと、心の内で激しく懇願している。
「キミを早く手にしたくて、僕も我慢するのが大変だったよ」
「……いじわる言わないで。そんな言葉は信じない」
声を聴くのはすこぶる心地が良い。
幾ら混乱していても、淫らな感覚に支配されていても、言葉が成す意味は理解できている。
ユベールの言っている言葉の意味は分かっているのだ。
つまり、もっと早くに会いに来れたけど、そうはしなかったと言っているのを、シャルリーヌはきちんと理解できている。
そう理解出来ているから、ユベールの言葉をいじわると解釈して、その言葉の意味を否定しようとしている。信じないと強く思う事でそうしようとしている。
「嘘じゃないよ。ずっと以前からキミの様子は把握していたからね」
ユベールは表情には出さないが内心では、途方もなく悦んでいる。
17歳という彼の年齢にまったくそぐわない黒いものが彼を包んでいる。包み込んで離そうとしないが、ある意味ではそれこそが彼の本質なのだろう。
「分かっている。私が貴方に酷いことをしたから、そうやっていじわるするのよね?」
言葉の意味だけを取るなら批判だが、声色や態度からはそんな感じは一切伝わってこない。どんな酷い言葉を浴びせられても、ユベールの隣から離れる気は微塵も持っていない。
「そうじゃないよ。キミが屋敷を追放される以前から、キミの様子はずっと監視していたんだよ」
いつもの無表情でひたすら淡々と、シャルリーヌにとっては、残酷で聞くに堪えない内容だけを選んで聞かせている。
「……いいの。これは私が受けるべき罰だから、貴方の気の済むようにして欲しい。何と言われようと私は貴方しか信じないし、信じたくないの」
もうシャルリーヌは、例えユベールの言う言葉でも、自分自身とユベールの間を引き離す言葉は受け入れない。
「今はまだ残っている欠片も失えば、もうキミでは無くなるとしても?」
あえて尋ねる必要は無い。
聞くまでも無く彼女の答えは分かり切っている。
それでも恋い焦がれた存在が、自分が望む完全な状態で手に入ろうとしている。
それなら聞かずにはいられない。
「くだらない。昔の私なんかどうでもいいの。大事なのはこれからよ……ユベール。これからの私と貴方が大事なの。くだらない過去の私は貴方の手で打ち壊してしまえばいいわ」
もうこの道しかない。
シャルリーヌの言葉からはそんな強さが伝わって来た。
申し分がない。
この完成度なら十分に満足できる。
できることなら遠い昔のシャルリーヌを手に入れたかった。
だが、いまのこのシャルリーヌなら、ユベール自身が彼女を見限らない限り、彼女の方から離れる事だけは絶対にないと言い切れる。
そのくらい現時点でもシャルリーヌは、ユベールに依存してしまっている。
だったらこれでいいだろう。
「いいよ。少しくらい異物が混じっていても。どうせすぐに消え去って純粋なキミになるはずだ」
「ねえ? ユベール。すぐに許して欲しいとは思っていないから、本当に貴方の気の済むように私を罰して構わない。でもお願い。もう離れたくないから、ずっと一緒に居させてほしいの……」
「何を言っているの、キミは僕の婚約者じゃないの? 僕の妻となるのがキミの運命だよ」
「嬉しい……」
「僕も嬉しいよ。ようやくキミを手に入れられたからね」
本当はすべてを砕いて作り変えるつもりだったけど。
今のところはこれでいいよ。
もう僕には刃向かわない方がいい。
もうそんな事はしないだろうけどね。
いいや、できないと言う方が正しいのかな?
*****
次回から第3章です。あの男が再登場!(´ー+`)
*****
0
お気に入りに追加
1,606
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
護衛がエロい~巨乳と幼女と異世界と~
TEN
ファンタジー
妹大好きのシスコン兄は、ある日念願のバイクを購入し妹を乗せて走っていると、大好きな妹に気を取られて事故ってしまう。それも大事故。
そして今どきの転生ってやつをしてしまった兄は、異世界でも可愛い巨乳たちに囲まれていた。
「もう少し気絶しとこ」
それを堪能していたシスコン兄。
が、いつの間にか結婚する事になっていた。
そして、成り行きで"こっち"のイケメン君の人生を歩む事に。
これは現実世界でシスコン童貞だった男が、異世界でムフフな生活を送る物語。
俺は異世界でのし上がる! って張り切ったのに、周りの女たちのせいで計画が台無しじゃぁぁぁ!
====================
2020.07.18
小 説 1551位
ジャンル別 410位
※一部完結。
====================
※この作品はちょっとエロいです……。
R18とまではいきませんが、ちょっとだけエロいです。
そういうのが大丈夫な方はご閲覧下さい。お願いします(*´з`)
====================
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
異世界で【神の愛娘】となりました
あさのうみうし
ファンタジー
どうやら私は死んでしまったらしい。
浮遊魂となって漂っていたら異世界に呼ばれたとかマジですか。
それにしても異世界の神様ってなんという超絶美形。
この世界の聖女になって欲しいってことだけど。
聖女って……あんまり嬉しくないよね。
*
異世界に聖女候補として呼ばれたものの、一人だけ聖女転生に同意しなかったことで、まさかの【神の娘】となりました。
神様の加護が厚過ぎて、これもうほぼ神様レベルだよ!
*
神様の娘がお伴(神獣)を携えて、暇に任せて無双していきます。気の向くまま、思うまま。助けたい者だけを助けます。
いーのいーの。だって私は神様じゃなくて、その娘だもの。
*「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる