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第2章『お仕置き生活続行中』

第29話「冒険者ショベリアンの不遇②」(ジュリアン視点)

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「小便さま、まだっすか?」

「小便さまって……ぶふッ……幾ら何でも失礼だろ……小便さまに!」

 こ、こいつら……
 見捨てるのは気の毒だと思って、面倒を見てやっているのに……
 日に日に増長して行きやがるな……
 こいつらを見ていると、かつての自分がどんなだったのか良く分かる。
 確かにムカつくわ。

 今更それに気付いても遅いけどな。
 もう俺は何者でもないが、これ以上堕ちるつもりはないぜ。

「おい! まだかって聞いてるじゃないっすか!」

 待ちきれない事を態度でも表して、モ・スキーは箸をジュリアンに投げつけてきた。

「……料理くらい自分でやれよ」

 俺も人の事は言えないが、こいつらはすぐ調子に乗る。しかも、際限なく調子に乗る。
 俺が出て行ったらお前ら、即座に無収入だぞ?
 小遣い遣ってもあっという間に使い切りやがる。
 収入が無いなら少しは溜めとけよ……

「面倒だから小便さまにやらせてるんですよ? もっと自分の立場を理解したらどうですか」

「ああ、そうかよ。気付かなくて悪かったな」

「悪いと思うなら早くしろよっす!」

 依頼に着いて来なくなって喜んでいたら、今度は前にも増して寄生してきやがる。

 こいつら魔法奪われてなくても、ろくな人間にならなかったな。
 まあ、その場合は俺もそうだっただろうけどな。

 だが、俺はこいつらとは違う。
 どれだけ時間が掛かろうが、必ずもとのAランクに戻してやる。
 そして青い火炎を再現して、ドラゴンブレスも再現してやろうじゃねえか!
 
 ユベールだって人間だ。
 どうやらアイツはすげえ奴みたいだが。
 それでも人間だ。

 同じ人間のアイツにできるのなら、可能性はゼロじゃない。

「おら、できたぞ勝手に食え。俺はもう出掛けるならな」

 まったくよ。
 座って待ってるだけでメシが出てくるなんて……
 貴族や王族なんてのは、ずいぶんと贅沢な身の上だったな。
 ガ・スキーも、モ・スキーも、かつての生活の癖が抜けきれねえのか?
 もうそんなのは幻想だ。
 メシを食うには仕事をする。
 言われた事をやって、与えられた仕事をこなすんだ。
 そうやってれば良い事だってある。

「ジュリアン! 待ってたよ!!」

 緑の髪の女性がジュリアンを見つけると、笑顔を見せて手を振っている。

「悪いな。アイツらの世話をしてたら時間を食っちまってな」

 小走りに寄ってくる女性を抱き留めて、ジュリアンも嬉しそうな顔をしている。


 今までの女と比べたら数段劣るが、コイツは今の俺を理解している女だ。
 俺自体が落ちぶれているんだから、こんな女でも上等な女だ。
 下手をしたら首が飛んでいたかもしれねえ。
 そんな俺が女の相手をしているんだ。

 こんな生活も悪くはないだろ。

 まあ、あれだな。
 今になって思っているのが、レンヌがどうなっているかだな。
 父上には迷惑を掛けたな。
 俺のせいで国とか無くなってねえだろうな?
 王位は弟が継ぐだろうから良いとして……

 あの超絶ドSなユベールの事だ、国を滅ぼすかもしれねえ。

 俺はもうアイツには関わらない。
 命が幾つあっても足りねえ。

「何を考えているの?」

「ん? 今日もお前は別嬪べっぴんだって考えたんだよ」

「もう、いっつもそんな事ばっかり言って! ジュリアンってすごくカッコイイのに、あんまり気取ってないし厭味いやみじゃない所が素敵だと思う」

 緑髪の女性は真剣な声色で、ジュリアンに対してそう言っている。

「俺も昔は下らねえ男だった。それに王子でもあったが、今では何者でもねえ。ただのジュリアンだ」

「ねえ? 本当に王子さまだったの? たまにそういう事言うけどさ……」

「そんなわけねえだろ? 冗談だよ、俺は昔からただの普通の男だよ」
 
 そうさ。
 王子とか王位とか、そんな失ったものに縋って何になる?
 あの審問の後、シーシアに出くわして、殺されるって思ったんだが。
 あの女はこう言いやがった。

 『しばらく思い直す時間をあげます』

 思い直したぞ?
 思い直したら、不思議と澱が無くなったみたいだ。

「今日は行きたい所があるの……」

 緑髪の女性は頬を染めて告白めいた事を言う。

「気持ちは分かるけどよ、焦るな。俺は逃げねえから、もっと良く考えろ」

 そう言って彼女の頭を撫でてやる。彼女は、『わかった』と言って笑顔で応えた。

 俺はこの女を大事にしたいんだ。
 今までみたいな不実な振る舞いはしたくない。
 
 このクソみたいな辺境の暮らしも、エレーナが居れば悪くはない。

 はははは。まさか俺がこんな事を思うとはなあ。





*****

某主人公と違って、ジュリアンは女の子の扱いは上手です(´ー+`)

*****

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