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第1章『お仕置き生活は突然に』

第13話「定期魔法試験、十日後…金髪の下級生」

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「あ、あの! ユベールさんですよね!」

 大きな声に驚いて振り返ると、金髪をポニーテールにした可愛らしい女の子が、小さな包みを手に持って立っていた。
 彼女は顔中を真っ赤にしながら、身体を小刻みに震わせている。

「あ、はい、何でしょうか?」

「あ、あの、これ家庭科の授業で作ったクッキーです!」

 可愛らしいくまさんの袋にリボンをしてある。
 そして、ユベールの返答も待たずに、包みを強引に押し付けてくる。

「あ、ええと、僕にですか?」

「は、はい! ユベール先輩に食べて欲しくて……ごにょごにょ」

 彼女の顔の火照りは、いよいよ耳まで真っ赤に染めている。俯いてうつむいて伏し目がちに、ユベールの反応を探っているようだ。

「あ、ありがとうございます」

 言い方は素っ気ないが、実は内心かなり喜んでいる。
 レンヌに来てから、こういう風に生徒と会話したのはほとんどない。プレゼントを貰ったのはこれがはじめてだ。

 ユベールの個人資産の総計は、レンヌ王国そのものが20個くらい買えるほどあるが、それでもこのプレゼントはユベールにとって果てしなく価値がある。
 滅多に崩さない表情の裏側で、彼はそう感じていた。

「じゃあ!!」

 またしても返答を待たずに、大慌てで踵を返し、あっという間に姿を消した。
 
「ユベールさま!! モテモテですね!」

「嫉妬しないのですか?」

「はい! カミラは何番目でもいいので!!」

 目をキラキラさせながら、『何番目』と言う語句を強調している。そういう性癖なのかもしれない。

「そ、そうだったね……」

「あの女性は、エンデルス侯爵家令嬢のフェリシアさまですね」

「知っているの?」

「ええ、今年の一年生ですよ」

「ふうむ」

 道理で見た事ないと思ったよ。
 下級生か。ふうん。

「もしあれなら、3サイズから性感帯まで調べて来ますよ!」

 言いながら両手を『ワキワキ』させている。

「や、やめようね!! カミラさん、それ捕まるからね!!」

「カミラのは何時でも調べてくれて構いませんからね!!」

「う、うん、半年後くらいにね……」

「んもう! 可愛いんだから!」

 白い肌を紅に染めて、身体をくねくねさせている。このカミラの悩殺セクシー攻撃で、すぐ傍の男子学生が20人くらい卒倒してしまった。



―――



 宰相オーギュストからの報告書を、アラン王は、青筋を立てながら目を通していた。
 途中何度も報告書を、目の前でガタガタ震えながら跪くアリオス伯爵に投げつけてやろうかと思ったが、それを必死に抑えてようやく分厚い報告書の最後のページを読み終えた。

 そして傍にあったテーブルの上に『ドンッ』と大きな音を立てて、乱暴に放り投げた。

 額に大粒の冷や汗を幾つも貼り付けて、アリオス伯爵は上目遣いでアラン王を覗いてみたが、鬼の形相の王と目が合うと瞬時に目を伏せた。

 アラン王はひと言も発さずに、ひたすら憤怒している。

伯爵アリオス伯爵殿、何か申し開きがあるならどうぞ」

 傍らかたわらに控える宰相オーギュストがそう促す。

「わ、わわ、私に何かご用とか?」

 後ろめたい事が無ければ、人はこんなに動揺したりはしないものだ。言葉だけでは平静を保とうとしているが、明らかに様子がおかしかった。

「しらばっくれるつもりでしょうか?」

「な、何の事でしょう? もしかして、ユベールさまの事ですか?」 

「あの御方ユベールさまに何かしたのですか?」

「いいいえ! 滅相もありません!!」

「その事ではないです。交易品の事ですが本当に身に覚えは無いと?」

 証拠があるのにそれを口に出さず、宰相は無表情で、伯爵をじわじわ痛めつけようとしていた。

「こ、交易品? 何の事―――」

「たわけ!!! 貴様、命が要らないのか!!!」

 突如として玉座のアラン王が大音声だいおんじょうの叱責を飛ばしてきた。

「あひいいい!!! わ、私が何をしたとおおお!!」

 『ブチッ』という音がしたかと思えば、アラン王は先ほどの報告書を伯爵に向かって投げつけ、バッと玉座から立ち上がると、腰の剣を抜き放ち、あっという間に伯爵との間を詰めた。

 アラン王は武勇で鳴らした口の人物だ。
 腰の剣もかなりの業物だが、王自身も達人だ。

 その王の剣が伯爵の首の皮一枚を切り裂いていた。

「あ、ああ、へ、陛下……」

「二度は言わぬ。最後の機会だ、何か言う事はあるか?」

 アラン王は"ギロリ"と伯爵を睨みつけてそう言った。

「も、もも申し訳ありませんんんんん!!! 横領してましたああああ!!!!!」

「で?」

 低い唸るような声の調子で、王は短い言葉で先を促した。

「今まで横領した分は全て返金致します!!!!」

「賄賂として受け取った分も、没収しますよ?」

 宰相オーギュストが容赦の無い追い討ちをした。伯爵は壊れた玩具のように、首を激しく上下させている。

「このたわけが!!!! ユベール殿下から提供された紅炎石で不正を働くとは、貴様もか? 貴様もレンヌを滅ぼしたいのか!! 愚か者が!! そこへ直れ! 剣の錆にしてくれるわ!!!」

「へ、陛下、お許しを!!!!! ほ、ほげええええええ!!!」

「情けない!! 貴様のような輩でも優秀ゆえに放逐できぬとは!! アリオス伯爵カイゼル!! 伯爵位と領地を没収の上、男爵に降格する!! 屋敷で謹慎していろ!! いいか? ここへ顔を出したら斬り殺すぞ!!!!」

「ほげええええええ!!!!!」


 王と伯爵の様子を、階上から楽し気に見下ろす少年が居た。

 彼は火竜紋を持ち、大国カイトゥスの第3皇子でもある。

 今回の伯爵への仕置きはもちろん、この少年が裏で糸を引いていたのは言うまでも無い事だろう。

 少年は、伯爵の皮を表面から少しづつ削って、やがて肉を削ぎ落し、骨を粉々に砕いて、臓腑を犬ころか狼のエサにするだろう。

 未来の義父上ですから命は取りません。
 でも、心は壊してしまうかもしれません。
 だけど、安心してください。
 僕がシャルリーヌを『作り変えて』、貴方を世話するように命じますから。
 楽しみです。

 貴方の心が砕ける時は、どんな音がしますか?

 ユベールの顔には愉悦の笑みがいっぱいに広がっていた。





*****

新キャラは、ポニテの金髪眼鏡っ娘(´ー+`)

*****

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