妖隠れの街灯

文字の大きさ
上 下
1 / 1

灯に行く迷い手と誘い手

しおりを挟む
ここは「人間が存在しない」場所。
代わりに妖怪という者達が人の目を逃れるために住んでいる。

一昔の人間が住んでいそうな、まるで「京の都」にも似た風景がひたすら広がり旅館や温泉、呉服屋や家屋など他にも沢山の和風の建物が立ち並び、
そしてそこら中に置かれた仄かに灯る街灯が淡い夕陽色の光を周りに飛ばす度にその場所がまるで人間の居て良い場所ではないかのように感じさせる。

そこに人ではないが人の形をした者達が住み合い跋扈する。


そこに青白い花柄の着物を着つけた長髪の1人の女性が走る。

女性「ハッ・・・・・ハッ・・・・・・・」

妖怪達が行き交う中をかき分け、一直線に走る途中、誰かにぶつかる。

ドンッ!!

?「わっ」

女性「いっ・・!」

ぶつかった者同士後ろに飛ぶ。
女性が尻餅をつき痛がっている間に相手が立ち上がり、こちらに手を差し伸べる。

?「大丈夫?」

相手は少し軟派な着付けをした神主のような格好をした男性。
その顔は服装とは相反して真面目そうでありながら朗らかな顔をした短髪の好青年。

女性「大丈夫です・・・すみません」

差し伸べられた手を取り、起き上がる。

男性「どうしたんだい、そんな何かから逃げるように走って」

そういいながら着物についた汚れを落とす

女性「別にそういう訳では・・・・・いや、ごめんなさい、実はそうなんです・・・」

女性も汚れを叩いて落とす。

男性「ん?どういうこと?」

女性の改変した発言に少し疑問を抱く男性。

女性「私この場所に気づいていたら居て・・・それでここの雰囲気が段々怖くなってきて・・・」

女性は少し震えがちに言う。

男性「成程。ここに来たものに良くあることだね。今まで見てきたもの感じてきたものが「向こう」とは大違いなんだから。
しかし君の様子を見るようだと自らここに来たようではないね。」

男性は淡々と女性にこの場所が女性が元いた場所とは違うことを告げる。

女性「どういうことですか?・・・」

ポカンとした顔で疑問を抱く女性

男性「要は君は誰かに誘われてきた。その誰かはわからないけども・・・恐らく向こうも君を探してるだろうね」

女性「誘った・・・?この私を?」

男性「そう、しかし強制的に飛ばされたってことは、誘われたというより無理矢理連れ込まれた感じだね」

そう説明すると、男性は後ろを振り向き

男性「まあ君がここにはじめて来たってことは、これから君には行かなきゃならないところがある。付いてきて」

笑いながらそういい、歩き出す。

女性「・・・?・・・はい・・・」

少し不安にも思うが悪い人ではなさそうなのでついていく女性





・・・・・・・・




男性「ついたよ、ここ」

男性が歩みを止めた先には大きな建物。一見銭湯のようにも見えたが窓の隙間から見える中がやけに薄暗い。

女性「ここは?・・・」

女性が問う

男性「まいいからさ、入って。不安だったら僕も一緒に行ってあげるから」

そういいながら女性に入るよう促す。

女性「・・・」

男性の後ろ着き、巨大な布掛けでカーテンのように塞がれた入口に入る。
入った先はやはりかなり暗い。女性は不安になり、男性の袖を無意識に掴む。

?「なに?だれかきたのか?」

奥の方から低い男性の声が聞こえる。

女性「ッ!」

女性は急に聞こえてきた声に少し驚く。

男性「うん、誰かにここに連れてこられたらしいんだけど」

?「そう・・・で、その娘をここへ何しに?」

2人は知り合いのようだが、向こうの顔は暗闇の向こうで全く見えず、女性はまだ恐怖感を拭えずにいた。

男性「この子怖がってるみたいだし、明かりくらいつけてやったら?僕も暗くて君がどこにいるかわかんないや」

?「ふっ・・・お前が他人を気遣うなぞ珍しい。なんかあったか?」

というと部屋の奥から段々といくつもの灯篭の灯りがついていき、部屋全体に光が行き渡る。

男性「いいや別に。まあ、身元もわからないんじゃそこらで野たれ死ぬだけだし、身の安全が取れるまで君の処で預かってくれない?」

女性がポカンとした顔でいると謎の相手の姿が見えてくる。

自分たちの目の前で雛壇の様な場所に座っている。古痩けた白い着物を着ているというか羽織っていて伸びきった髪もボサボサの浮浪者のような見た目。とてもこの大きい建物の家主とは思えない程ぼろぼろな見た目だが、顔はかなり若そうだ。

古痩けた男「ん~~~~・・・・・まあいいだろう。その代わりお前も顔出せよ。で、そういうことでこのまま貴女に行くところがなければここに居てもらうけど、いい?」

古痩けた男は優しい声で女性に語りかけ、初めて来た者はこの場で暫く過ごさないといけないと告げる。

女性「え・・・と・・・・・行くところがないなら・・・はい、いいです・・・」

男性「そういうことで、じゃ」

そう言ってこの場から立ち去ろうとすると

女性「あの・・・!」

女性が去ろうとする男性を呼び止める。

男性「ん?」

女性「名前を教えてください・・・」

男性「名前・・・そうね、僕は窮奇(きゅうき)。君は?」

女性「私は・・・伊代(いよ)です・・・」

窮奇「そう・・・いい名前だよ。じゃあ、君がここにいる限り僕、また来るから」

そういって窮奇は軽い会釈して立ち去っていく。
それを見て、伊代は深々頭を下げて見送る。

古痩けた男「・・・・・じゃ、俺からも自己紹介しとこうか、俺は陰陽師の宥梅季(なだめき)。君には、今からここで誘い手が見つかるまで過ごしてもらう」

伊代「陰陽師・・・?ということは人・・・?」

宥梅季「元ね、今はここの連中の仲間入り。ここの街灯の光に晒されると嫌でも物怪に成り変わる。君の種族がなんなのか後で調べるとして、もしも人間だったらこの街の街灯に長いこと当て続けることはしたくないしね」

そう告げると、宥梅季は立ち上がり伊代に手招きする。

宥梅季「来て。君は見た限り、ここに来た衝撃かもともとかわからないが、自分の種族を把握していないみたいだ」

女性「え、あ・・・はぁ・・・」

宥梅季についていき、奥の部屋へと入ると針が数本置かれたテーブルがあり、そこに座るよう仕草をされた。

宥梅季「じゃ、いまから君の血を1滴だけ貰う。腕、出して」

伊代「え・・・?」

少し不安になる伊代

宥梅季「君の血を水に垂らして広がり方を見るんだ。煙のような広がり方をしたら人間、それ以外は妖怪だけど、妖怪にもそれぞれ反応が違う」

伊代「そうですか・・・やっぱり、痛みますか?」

宥梅季「いいやそんなに。毛を1本抜かれる程度の痛みよ」

伊代「・・・はぁ・・・」

恐る恐る手を出す。
宥梅季はゆっくりと腕に針を指し、針についた血を水瓶の中に漬ける。

宥梅季「・・・・・成程ね」

血は煙のように広がったものの、水の中に沈まず水面の上で煙の様になった血が磁石同士が反発するように浮く。

宥梅季「こりゃ珍しい。人間と妖怪の混合か。妖怪は・・・見た限り鴆(ちん)  だな。だが少し人間が濃ゆい」

伊代「私が、人間と妖怪の・・・?」

宥梅季「そ。これじゃ外の街灯には当てられねえな。やっぱりここにいるべきだな」

伊代は少し俯くと同時に問う。

伊代「あの・・・もし私を探してる人に会えたら、私は帰れるんですか・・・?」

宥梅季「ん~~~、それはその人次第だな。もしかしたらただ話があるかもしれないし、もしかしたらここで君と過ごすつもりかもしれない」

伊代「そうですか・・・」

伊代はまた不安そうな顔をすると

宥梅季「まあ、その時はその時。自分で決めりゃいい。それまでは、俺の所でゆっくり心を落ち着かせながら過ごしな」

伊代「はい・・・」

宥梅季「少し話が長くなったな・・・すっかり日が落ちてしまった。どうだ?空腹感はあるか?」

伊代「あ、はい・・・」

宥梅季「そうか、じゃあ別の部屋で一緒に飯にするか」

そういい宥梅季は立ち上がる。

伊代「はい・・・」

宥梅季「あ、そういや寝られる部屋も一つしかないから寝るのも一緒だぞ」

伊代「えっ」

宥梅季「他の部屋は他のやつらが使ってるからな」

伊代「え~~・・・何するつもりです?」

宥梅季「何もしねえよ!・・・・・
あんた結構そういうところあんだな・・・」

宥梅季は微かに笑いながら部屋に入り、伊代も共に微笑みながら着いていく・・・

                                                                       
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...