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第19話 台風直撃、段ボールテントの危機
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「セラフィーラさん! 入浴中に失礼します」
「あら? はやとさん、どうかしましたか?」
入浴中のセラフィーラさんは両の手でドラム缶の縁を掴みながら、ひょっこりと顔を出していた。
可愛いすぎだろ。そうだ、フィギュア化してガチャガチャの景品にしよう!
ってそれどころじゃない。
入浴中のセラフィーラさんから視線を逸らしながら、説明を始める。
「台風が直撃するらしく、慌てて山田さんから借りたラジオを聞いたんですが、予報によると、公園全体がバケツをひっくり返したような大雨で大変なことになります!」
「まぁ。そんなに大きなバケツがあったとは」
「ありません! とにかく、すぐに出てください。ここだと野晒しですし、段ボールテントも守らないと吹っ飛ばされちゃいます。とりあえず俺、先に戻ってま」
「それは大変です! 承知しました!」
セラフィーラさんは、バシャーとドラム缶風呂から立ち上がった。
「うわっ、ちょっといきなり立ち上がらないでください!」
「なぜです? すぐに出るように言ったのははやとさんではありませんか」
「言葉の綾です! せめて隠してください」
「何を隠すのです?」
「もういいです! と、とにかく俺先に戻ってますから」
心臓の音が鳴り止まない。
女神には羞恥心がないのか。
俺は悶々としながら段ボールテントへと戻った。
ビニールシートなどを用いてテントの補強を行いながら、セラフィーラさんの帰りを待つ。
その間も雨はどんどん強くなっていった。
「ただいま戻りました! これが雨なのですね!」
初めての雨に興奮している場合じゃないってば。
「おかえりなさいセラフィーラさん。このペースだとテントがもたないかもしれません。天候操作の魔法は使えませんか?」
「申し訳ございません。天界規定により、世界への大きな干渉は禁止されており、台風そのものへの干渉はできません」
天界規定許すまじ。そもそも俺が再転生できなかったのも規定のせいだし。
風が強く吹き荒れ、段ボールテントが悲鳴をあげる。
「魔法でテントの強度を上げることは?」
「残念ながら生命にしか適応できません」
仕方ない。
「物理的にテントを補強しましょう」
「承知しました!」
俺たちは段ボールテントの外に出て、テントと繋いだ棒を地面に打ちつけて補強した。
どしゃ降りの雨で段ボールがふやけて歪んでいく。
「セラフィーラさん、テントを抑えましょう!」
「はい!」
二人で中から段ボールテントを抑えているが限界が近い。
段ボールテントのビニールシートと段ボールが、一枚、また一枚と剥がれて吹き飛んでいく。
もうダメかもしれない。
俺が諦めかけていたその時。
「はやとさん、一かバチか防衛魔法を試してもよろしいでしょうか?」
「えっ防衛魔法? そんなものがあるんですか?」
「はい、バリアのようなものです。防衛魔法にも種類があるのですが、私が今回用に扱える魔法は一つしかありません。本来、半径50kmほどをカバーする大魔法なのですが、それを圧縮して佐々木公園のみを対象とします。小規模であれば天界規定には抵触しないでしょう。この魔法の圧縮は、一度も試したことがないので成功率は2割、といったところです」
もし、失敗したら……と聞こうとしたが、セラフィーラさんは既に決意を固めていた。ここで聞き返すのは野暮だ。
「わかりました。セラフィーラさん、お願いします!」
「はい! お任せください!」
セラフィーラさんはテントの外へ出た。俺も後を追う。
ゴロゴロと雷が鳴り響く。
「はやとさんと下界で暮らすことができて、とても楽しかったです。それでは、失礼します」
えっ。
セラフィーラさんの背中が一瞬だけ赤く発光し、純白の大きな翼が現れた。
大雨に打たれながら、そのままゆっくりと翼をはためかせて上空へと浮上した。
手を組んで祈りの姿勢をとり、詠唱を始める。
「解析……」
「作成……」
「最適化……」
「生成……」
「圧縮」
セラフィーラさんがまばゆい光に包まれる。
「我が、加護を受け取りたまえ」
「ハリウェルフィーリ」
強い光を発しながら、巨大な三層の魔法陣が浮かび上がり、魔法の膜が公園全体を覆っていく。
雨が止んだ。いや、膜が雨を公園の外へ受け流している。
セラフィーラさんが上空から手を振る。
「はやとさーーん! 大成功です!」
「セラフィーラさんーー! ありがとうございますー! お疲れ様ですーー! あっ」
本当によかった。
遺言のようなことを言うから、心配したじゃないですか。
セラフィーラさんは笑顔を見せていたが、ふらりと体勢を崩して落下を始めた。
まずい。
セラフィーラさんの真下へ全力で走った。
手を広げて受け取る姿勢をとる。
ふわりとセラフィーラさんが俺の中に収まった。
実績を解除。空から落ちてきた女の子をキャッチした。
お姫様だっこの状態になったセラフィーラさんがゆっくりと目を開いた。
「はやとさん、ありがとうございます。私、慣れないことをして少し疲れてしまったようです」
「ありがとうございました。どうかゆっくり休んでください」
◇
俺たちは段ボールテントへ戻った。
「びしょびしょですね。拭きましょうか?」
「女神なので髪や体はすぐに乾くのですが、翼はそうもいかないようです。お願いできますか?」
「もちろんです」
「あっ邪魔でしたよね」
セラフィーラさんが服を脱ぎ始める。
おっと。急いで後ろを向いてタオルを出す。
「準備できましたかー?」
「はーい」
「こっちに背中向けてますかー?」
「承知しました! 今向けましたー」
いや向けてなかったんかい。モロみえやないかい。
振り返るとセラフィーラさんが背を向けて正座で待っていた。
「では」
水を含んでしっとりした翼をタオルで拭う。
俺は今、とてつもなく貴重な経験をしている。
「ふふ、くすぐったいですね」
「やめましょうか?」
「いえ、続けてください」
翼にも神経が通っているのか、たまにもじもじする姿に加虐心を刺激されるが、俺は屈しない。
翼の水分が抜けてふさふさになってきた。心地よい肌触り。
「あれ? この羽根って今朝テントに落ちてた物と同じですか?」
「バレてしまいましたか……。抜け羽根を見られてしまうとは、お恥ずかしいです」
セラフィーラさんは翼をピクピクさせる。
裸は見られてもいいのに、抜けた羽根は見られたくないのか?
基準がわからん。
「はい、拭き終わりました」
「ありがとうございます」
セラフィーラさんの翼は光を放ちながら消えた。代わりに翼を模した赤い紋章が背中に浮かび上がっていた。
「乾いてさえいれば、このように翼をしまえるのです」
「すげー」
俺たちは就寝の準備をして、テントで横になった。
「あの魔法陣、目立ちませんか?」
「ご安心ください。公園の中からしか見えないようになっておりますので」
もし内側に人がいたら……って時間も時間で山田さんも留守だからその心配は不要か。
「今日はお疲れ様でした」
「はい、お疲れ様です」
「でははやとさん。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
俺は昨日のように耳元で睡眠魔法を唱えられて眠りに落ちた。
◇
ここは、どこだ?
私は目を覚ますと見知らぬ土地にいた。
「森……?」
私は魔王に勝ったのか? それとも敗れたのか?
竜種が一匹も飛んでいない静かな空だが、巨大な三層の魔法陣が浮かび上がっている。
あれは最高位防衛魔法ハリウェルフィーリ。
王国にあの魔法を扱える者は存在しない。
魔王の手先がまだ残っていたということか。
団長である私が直接、裁きを下す。
「あら? はやとさん、どうかしましたか?」
入浴中のセラフィーラさんは両の手でドラム缶の縁を掴みながら、ひょっこりと顔を出していた。
可愛いすぎだろ。そうだ、フィギュア化してガチャガチャの景品にしよう!
ってそれどころじゃない。
入浴中のセラフィーラさんから視線を逸らしながら、説明を始める。
「台風が直撃するらしく、慌てて山田さんから借りたラジオを聞いたんですが、予報によると、公園全体がバケツをひっくり返したような大雨で大変なことになります!」
「まぁ。そんなに大きなバケツがあったとは」
「ありません! とにかく、すぐに出てください。ここだと野晒しですし、段ボールテントも守らないと吹っ飛ばされちゃいます。とりあえず俺、先に戻ってま」
「それは大変です! 承知しました!」
セラフィーラさんは、バシャーとドラム缶風呂から立ち上がった。
「うわっ、ちょっといきなり立ち上がらないでください!」
「なぜです? すぐに出るように言ったのははやとさんではありませんか」
「言葉の綾です! せめて隠してください」
「何を隠すのです?」
「もういいです! と、とにかく俺先に戻ってますから」
心臓の音が鳴り止まない。
女神には羞恥心がないのか。
俺は悶々としながら段ボールテントへと戻った。
ビニールシートなどを用いてテントの補強を行いながら、セラフィーラさんの帰りを待つ。
その間も雨はどんどん強くなっていった。
「ただいま戻りました! これが雨なのですね!」
初めての雨に興奮している場合じゃないってば。
「おかえりなさいセラフィーラさん。このペースだとテントがもたないかもしれません。天候操作の魔法は使えませんか?」
「申し訳ございません。天界規定により、世界への大きな干渉は禁止されており、台風そのものへの干渉はできません」
天界規定許すまじ。そもそも俺が再転生できなかったのも規定のせいだし。
風が強く吹き荒れ、段ボールテントが悲鳴をあげる。
「魔法でテントの強度を上げることは?」
「残念ながら生命にしか適応できません」
仕方ない。
「物理的にテントを補強しましょう」
「承知しました!」
俺たちは段ボールテントの外に出て、テントと繋いだ棒を地面に打ちつけて補強した。
どしゃ降りの雨で段ボールがふやけて歪んでいく。
「セラフィーラさん、テントを抑えましょう!」
「はい!」
二人で中から段ボールテントを抑えているが限界が近い。
段ボールテントのビニールシートと段ボールが、一枚、また一枚と剥がれて吹き飛んでいく。
もうダメかもしれない。
俺が諦めかけていたその時。
「はやとさん、一かバチか防衛魔法を試してもよろしいでしょうか?」
「えっ防衛魔法? そんなものがあるんですか?」
「はい、バリアのようなものです。防衛魔法にも種類があるのですが、私が今回用に扱える魔法は一つしかありません。本来、半径50kmほどをカバーする大魔法なのですが、それを圧縮して佐々木公園のみを対象とします。小規模であれば天界規定には抵触しないでしょう。この魔法の圧縮は、一度も試したことがないので成功率は2割、といったところです」
もし、失敗したら……と聞こうとしたが、セラフィーラさんは既に決意を固めていた。ここで聞き返すのは野暮だ。
「わかりました。セラフィーラさん、お願いします!」
「はい! お任せください!」
セラフィーラさんはテントの外へ出た。俺も後を追う。
ゴロゴロと雷が鳴り響く。
「はやとさんと下界で暮らすことができて、とても楽しかったです。それでは、失礼します」
えっ。
セラフィーラさんの背中が一瞬だけ赤く発光し、純白の大きな翼が現れた。
大雨に打たれながら、そのままゆっくりと翼をはためかせて上空へと浮上した。
手を組んで祈りの姿勢をとり、詠唱を始める。
「解析……」
「作成……」
「最適化……」
「生成……」
「圧縮」
セラフィーラさんがまばゆい光に包まれる。
「我が、加護を受け取りたまえ」
「ハリウェルフィーリ」
強い光を発しながら、巨大な三層の魔法陣が浮かび上がり、魔法の膜が公園全体を覆っていく。
雨が止んだ。いや、膜が雨を公園の外へ受け流している。
セラフィーラさんが上空から手を振る。
「はやとさーーん! 大成功です!」
「セラフィーラさんーー! ありがとうございますー! お疲れ様ですーー! あっ」
本当によかった。
遺言のようなことを言うから、心配したじゃないですか。
セラフィーラさんは笑顔を見せていたが、ふらりと体勢を崩して落下を始めた。
まずい。
セラフィーラさんの真下へ全力で走った。
手を広げて受け取る姿勢をとる。
ふわりとセラフィーラさんが俺の中に収まった。
実績を解除。空から落ちてきた女の子をキャッチした。
お姫様だっこの状態になったセラフィーラさんがゆっくりと目を開いた。
「はやとさん、ありがとうございます。私、慣れないことをして少し疲れてしまったようです」
「ありがとうございました。どうかゆっくり休んでください」
◇
俺たちは段ボールテントへ戻った。
「びしょびしょですね。拭きましょうか?」
「女神なので髪や体はすぐに乾くのですが、翼はそうもいかないようです。お願いできますか?」
「もちろんです」
「あっ邪魔でしたよね」
セラフィーラさんが服を脱ぎ始める。
おっと。急いで後ろを向いてタオルを出す。
「準備できましたかー?」
「はーい」
「こっちに背中向けてますかー?」
「承知しました! 今向けましたー」
いや向けてなかったんかい。モロみえやないかい。
振り返るとセラフィーラさんが背を向けて正座で待っていた。
「では」
水を含んでしっとりした翼をタオルで拭う。
俺は今、とてつもなく貴重な経験をしている。
「ふふ、くすぐったいですね」
「やめましょうか?」
「いえ、続けてください」
翼にも神経が通っているのか、たまにもじもじする姿に加虐心を刺激されるが、俺は屈しない。
翼の水分が抜けてふさふさになってきた。心地よい肌触り。
「あれ? この羽根って今朝テントに落ちてた物と同じですか?」
「バレてしまいましたか……。抜け羽根を見られてしまうとは、お恥ずかしいです」
セラフィーラさんは翼をピクピクさせる。
裸は見られてもいいのに、抜けた羽根は見られたくないのか?
基準がわからん。
「はい、拭き終わりました」
「ありがとうございます」
セラフィーラさんの翼は光を放ちながら消えた。代わりに翼を模した赤い紋章が背中に浮かび上がっていた。
「乾いてさえいれば、このように翼をしまえるのです」
「すげー」
俺たちは就寝の準備をして、テントで横になった。
「あの魔法陣、目立ちませんか?」
「ご安心ください。公園の中からしか見えないようになっておりますので」
もし内側に人がいたら……って時間も時間で山田さんも留守だからその心配は不要か。
「今日はお疲れ様でした」
「はい、お疲れ様です」
「でははやとさん。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
俺は昨日のように耳元で睡眠魔法を唱えられて眠りに落ちた。
◇
ここは、どこだ?
私は目を覚ますと見知らぬ土地にいた。
「森……?」
私は魔王に勝ったのか? それとも敗れたのか?
竜種が一匹も飛んでいない静かな空だが、巨大な三層の魔法陣が浮かび上がっている。
あれは最高位防衛魔法ハリウェルフィーリ。
王国にあの魔法を扱える者は存在しない。
魔王の手先がまだ残っていたということか。
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