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第五章 アンブレラナイン
第62話 矛盾とその解答
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俺たちは再び荒野を探索している。捕食者たるカイゼルディノがいないので、モンスターが急増してしまっている。俺たちはこいつらを狩る理由が特にないのでスルーしていると、この前出会ったアンブレラナインのメンバーがモンスターを狩っていた。
「ぐっ……」
男の方……確か、名前はケントと言ったか。そいつが草食獣の角で突かれて負傷してしまった。すかさずに角をナイフで切り落として、これ以上突かれるのを阻止する。硬い角をナイフで斬る……魔力を込めなければできない芸当だ。ケントか、女の方、ソフィアだったか……? のどちらかの能力か。
「ケント!」
角を折られた草食獣は軽快なステップで逃げようとする。しかし、ケントが「逃がすか」と叫ぶと同時にナイフを投げる。それが草食獣の急所に当たり、獲物はそこに倒れた。
「大丈夫? ケント? 今、治療するから」
「ああ、すまない。油断したようだ」
ソフィアが左手をかざしながら、右手でケントに刺さった角を持つ。ゆっくりと角を抜くと同時にケントの傷が塞がっていく。なるほど。ソフィアはヒーラーか。身のこなし的にはCランク相当の戦闘能力だが、回復魔法の技術的にはBランクはあってもおかしくはない。流石にAランクのリーダーとサブリーダーが抱える人材。冒険者全体で見ても上澄みに入る手練れだ。
治療が終わった彼らは俺たちに気づいた。
「ケントとソフィアだっけ? モンスター狩りも大変だな」
「あんた達は……まあな……カイゼルディノの個体数が少なくなっている以上は、変わりに俺たちが生態系の調整をしなければならない。全く、密猟者のせいで仕事増えてんだよ」
ケントが先程刺された腹部をさすりながら、現状を愚痴る。アンブレラ種は、その地域の生態系を守る存在。逆に言えば、アンブレラ種を狩り尽くせば、生態系は壊れてしまう。
「それはそうと、カイゼルディノならさっき見たよ、牙を抜かれた死体だったけどね」
「本当か?」
ソフィアが指さす方向を見た。そこには確かに巨大な恐竜モンスターが倒れている。周囲には鳥モンスターがたかっていて、死肉をあさっている。
「まあ、死体だけなら結構簡単に見つかってんだけどね」
ソフィアがそう零す。その時、アベルが神妙な顔をしている。
「ん? それっておかしくないですか?」
「どういうことだ? アベル」
俺はアベルに問いかける。今の話のどこにおかしい点があるのか俺にはわからない。
「僕はまだレンジャーとして未熟ですから、探知魔法を完璧に扱えません。例えば、対象の体の一部を手に入れたら、その対象の位置を特定できるパレーツ。僕はその体の一部の持ち主しか探索できませんが……」
アベルが息を飲む。俺もアベルの言おうとしていることがわかった。だが、それを口にした瞬間、とんでもないことが起こるのは確実だ。だが、アベルは口を開いた。
「サブリーダーのバロックさんはAランクのレンジャーなんですよね? だったら、パレーツの能力を更に拡張して近似値の検索。つまり、同種族のモンスターを探索できるんです」
Dランクのアベルですら努力してパレーツを身に付けることができた。Aランクのバロックがパレーツを使えないなんて言わせない。ましては、レンジャーの最高峰に位置する存在、アベルの言う近似値の検索ができない道理がない。
「え、えーと。キミは確かアベル君だったっけ? キミが何を言おうとしているのかお兄さんにはさっぱりわからないよ」
ケントがとぼけた感じでアベルの言うことをはぐらかそうとしている。ケントも薄々感づいているんだろう。アベルが感じた疑問、それが指し示す真実を。
「僕の疑問に納得がいく解答は3つあります。1つ目、それはバロックさんが高レベルのパレーツを使えないパターン。Aランクのレンジャーが使えないなんて考えれません。例えば、バロックさんがランク、もしくは、ロールのどちらか偽っているパターンですね」
「それはないよ。私はCランクのヒーラーでギルドの会報をある程度閲覧できる。その私がサブリーダーがレンジャーだって確認した」
ソフィアの証言により、この線は消えた。となると、残る回答パターンは2つだ。
「では、2つ目を言いましょう。バロックさんがパレーツでカイゼルディノの位置を特定できることを思いつかなかったパターンです。密猟者がカイゼルディノを確実に狙うのであれば、カイゼルディノの位置を特定して見張っていれば守れるはずです」
「なっ! 俺たちのサブリーダーをバカにしないでいただきたい! サブリーダーはリーダーと違って思慮深くて頭脳明晰な男だ! 自分が使える魔法を使えば解決できる問題なら、とっくの昔にそうしている!」
ケントが息を荒げる。余程、サブリーダーのバロックを信頼しているんだろう。しかし、アベル。そんなケントの前で3つ目の解答を言っても大丈夫か?
「そして、最後の1つ……この先は出来れば僕もあなた達の前で口にしたくありません」
「……! なんだよ! 言ってみろよ! お前の推理次第ではこのナイフの錆に――!」
「ケント! やめなさい! 続けてアベル君」
アンブレラナイン。名前に数字が入っているチーム名と言うのは、設立時のメンバーが誰も欠けないように。そんな、願掛けが込められている。つまり、メンバーが結成される前から、お互いのことを想いあっている……そんな絆があると想定できる。
俺はケントの気持ちが理解できる。信じたくないんだろう。アベルがこれから口にする真実を――
「わかりました……では、言います。アンブレラナインのサブリーダーのバロック。彼の正体は密猟者……もしくは、それと繋がりがある可能性が――」
「て、てめえ! 言いやがったな!」
ケントが食い気味に怒り出した。今にもアベルにも掴みかかろうとする勢いだったので、俺は思わずアベルの前に出て、彼を庇った。俺が前に出たのを察知して、ケントは冷静を取り戻したのか、1歩下がった。
「ごめんなさいケント……実は、私も薄々、リーダーたちのことを怪しいと思っていたの」
「リーダーたち?」
今はサブリーダーのバロックについての追求だったはず。それがそうして、リーダーのウィリアムが出てくるんだ?
「元々、私たちはツーマンセル、もしくはスリーマンセルで行動することが多い組織だった。組むメンバーはその時々の状況によって異なるけど……カイゼルディノの乱獲事件が起こる少し前から、ウィリアムとバロックのメンバーが固定化されていたの。他のメンバーを決して寄せ付けないと言った感じにね」
リーダーのウィリアムも疑惑のサブリーダーのバロックと常に一緒に行動している。ということは……子供でもわかる。この2人は共犯か。
「嘘だろ……俺は信じないぞ!」
「ケントおじさん。子供みたいなこと言ってないで現実を受け入れなよ」
「黙れ! 子供のお前に言われたくない!」
パドが無神経にもケントに油を注いだ。まあ、こういうのは逆に子供の方が理解できないのかもしれない。大人ってやつは、どうしても子供に比べて人間関係というやつが複雑になってしまう。長く一緒にいすぎたから、妄信してしまう。そんな時間と共に強固になっていく深い情が理解できなくても仕方ない。
「ケント、ソフィア。あんたたちのリーダーの行動範囲を教えてくれ。リーダーを張っていれば……その内密猟の瞬間を見つけられるかもしれない」
「は、はあ!? ふざけるな! 誰が……!」
「ケント! もし、リーダーたちを信じるんだったら、彼らに任せよう。潔白なら何の問題もないはず。それを彼らに証明してもらおうよ」
このソフィアも中々に口が上手いな。そう言われてしまったらケントも断れないだろう。
「ちっ、わかったよ。お前らの推理が間違っていることをお前ら自身で証明するんだな」
「ぐっ……」
男の方……確か、名前はケントと言ったか。そいつが草食獣の角で突かれて負傷してしまった。すかさずに角をナイフで切り落として、これ以上突かれるのを阻止する。硬い角をナイフで斬る……魔力を込めなければできない芸当だ。ケントか、女の方、ソフィアだったか……? のどちらかの能力か。
「ケント!」
角を折られた草食獣は軽快なステップで逃げようとする。しかし、ケントが「逃がすか」と叫ぶと同時にナイフを投げる。それが草食獣の急所に当たり、獲物はそこに倒れた。
「大丈夫? ケント? 今、治療するから」
「ああ、すまない。油断したようだ」
ソフィアが左手をかざしながら、右手でケントに刺さった角を持つ。ゆっくりと角を抜くと同時にケントの傷が塞がっていく。なるほど。ソフィアはヒーラーか。身のこなし的にはCランク相当の戦闘能力だが、回復魔法の技術的にはBランクはあってもおかしくはない。流石にAランクのリーダーとサブリーダーが抱える人材。冒険者全体で見ても上澄みに入る手練れだ。
治療が終わった彼らは俺たちに気づいた。
「ケントとソフィアだっけ? モンスター狩りも大変だな」
「あんた達は……まあな……カイゼルディノの個体数が少なくなっている以上は、変わりに俺たちが生態系の調整をしなければならない。全く、密猟者のせいで仕事増えてんだよ」
ケントが先程刺された腹部をさすりながら、現状を愚痴る。アンブレラ種は、その地域の生態系を守る存在。逆に言えば、アンブレラ種を狩り尽くせば、生態系は壊れてしまう。
「それはそうと、カイゼルディノならさっき見たよ、牙を抜かれた死体だったけどね」
「本当か?」
ソフィアが指さす方向を見た。そこには確かに巨大な恐竜モンスターが倒れている。周囲には鳥モンスターがたかっていて、死肉をあさっている。
「まあ、死体だけなら結構簡単に見つかってんだけどね」
ソフィアがそう零す。その時、アベルが神妙な顔をしている。
「ん? それっておかしくないですか?」
「どういうことだ? アベル」
俺はアベルに問いかける。今の話のどこにおかしい点があるのか俺にはわからない。
「僕はまだレンジャーとして未熟ですから、探知魔法を完璧に扱えません。例えば、対象の体の一部を手に入れたら、その対象の位置を特定できるパレーツ。僕はその体の一部の持ち主しか探索できませんが……」
アベルが息を飲む。俺もアベルの言おうとしていることがわかった。だが、それを口にした瞬間、とんでもないことが起こるのは確実だ。だが、アベルは口を開いた。
「サブリーダーのバロックさんはAランクのレンジャーなんですよね? だったら、パレーツの能力を更に拡張して近似値の検索。つまり、同種族のモンスターを探索できるんです」
Dランクのアベルですら努力してパレーツを身に付けることができた。Aランクのバロックがパレーツを使えないなんて言わせない。ましては、レンジャーの最高峰に位置する存在、アベルの言う近似値の検索ができない道理がない。
「え、えーと。キミは確かアベル君だったっけ? キミが何を言おうとしているのかお兄さんにはさっぱりわからないよ」
ケントがとぼけた感じでアベルの言うことをはぐらかそうとしている。ケントも薄々感づいているんだろう。アベルが感じた疑問、それが指し示す真実を。
「僕の疑問に納得がいく解答は3つあります。1つ目、それはバロックさんが高レベルのパレーツを使えないパターン。Aランクのレンジャーが使えないなんて考えれません。例えば、バロックさんがランク、もしくは、ロールのどちらか偽っているパターンですね」
「それはないよ。私はCランクのヒーラーでギルドの会報をある程度閲覧できる。その私がサブリーダーがレンジャーだって確認した」
ソフィアの証言により、この線は消えた。となると、残る回答パターンは2つだ。
「では、2つ目を言いましょう。バロックさんがパレーツでカイゼルディノの位置を特定できることを思いつかなかったパターンです。密猟者がカイゼルディノを確実に狙うのであれば、カイゼルディノの位置を特定して見張っていれば守れるはずです」
「なっ! 俺たちのサブリーダーをバカにしないでいただきたい! サブリーダーはリーダーと違って思慮深くて頭脳明晰な男だ! 自分が使える魔法を使えば解決できる問題なら、とっくの昔にそうしている!」
ケントが息を荒げる。余程、サブリーダーのバロックを信頼しているんだろう。しかし、アベル。そんなケントの前で3つ目の解答を言っても大丈夫か?
「そして、最後の1つ……この先は出来れば僕もあなた達の前で口にしたくありません」
「……! なんだよ! 言ってみろよ! お前の推理次第ではこのナイフの錆に――!」
「ケント! やめなさい! 続けてアベル君」
アンブレラナイン。名前に数字が入っているチーム名と言うのは、設立時のメンバーが誰も欠けないように。そんな、願掛けが込められている。つまり、メンバーが結成される前から、お互いのことを想いあっている……そんな絆があると想定できる。
俺はケントの気持ちが理解できる。信じたくないんだろう。アベルがこれから口にする真実を――
「わかりました……では、言います。アンブレラナインのサブリーダーのバロック。彼の正体は密猟者……もしくは、それと繋がりがある可能性が――」
「て、てめえ! 言いやがったな!」
ケントが食い気味に怒り出した。今にもアベルにも掴みかかろうとする勢いだったので、俺は思わずアベルの前に出て、彼を庇った。俺が前に出たのを察知して、ケントは冷静を取り戻したのか、1歩下がった。
「ごめんなさいケント……実は、私も薄々、リーダーたちのことを怪しいと思っていたの」
「リーダーたち?」
今はサブリーダーのバロックについての追求だったはず。それがそうして、リーダーのウィリアムが出てくるんだ?
「元々、私たちはツーマンセル、もしくはスリーマンセルで行動することが多い組織だった。組むメンバーはその時々の状況によって異なるけど……カイゼルディノの乱獲事件が起こる少し前から、ウィリアムとバロックのメンバーが固定化されていたの。他のメンバーを決して寄せ付けないと言った感じにね」
リーダーのウィリアムも疑惑のサブリーダーのバロックと常に一緒に行動している。ということは……子供でもわかる。この2人は共犯か。
「嘘だろ……俺は信じないぞ!」
「ケントおじさん。子供みたいなこと言ってないで現実を受け入れなよ」
「黙れ! 子供のお前に言われたくない!」
パドが無神経にもケントに油を注いだ。まあ、こういうのは逆に子供の方が理解できないのかもしれない。大人ってやつは、どうしても子供に比べて人間関係というやつが複雑になってしまう。長く一緒にいすぎたから、妄信してしまう。そんな時間と共に強固になっていく深い情が理解できなくても仕方ない。
「ケント、ソフィア。あんたたちのリーダーの行動範囲を教えてくれ。リーダーを張っていれば……その内密猟の瞬間を見つけられるかもしれない」
「は、はあ!? ふざけるな! 誰が……!」
「ケント! もし、リーダーたちを信じるんだったら、彼らに任せよう。潔白なら何の問題もないはず。それを彼らに証明してもらおうよ」
このソフィアも中々に口が上手いな。そう言われてしまったらケントも断れないだろう。
「ちっ、わかったよ。お前らの推理が間違っていることをお前ら自身で証明するんだな」
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わーい、一話読んでかわいいレンジャーさんにドキュンですわ。期待。
作者としても可愛く書いたつもりなので、期待通りの感想で嬉しいです(*'ω'*)