無能の烙印を押されたFランク回復術士~実は一流の最強回復術士でした~

下垣

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第四章 命の選択

第51話 アレサの実験

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「まず、私はどうしてナイアは女性しか襲わないのか考えてみたの」

「普通に見た目で判断しているんじゃないのか?」

「そう思ってね。細身の男性に女装させて見たけれど彼は襲われなかった」

 俺の疑問の答えを既に持っていたアレサ。人体実験をしていたのにも関わらず全く悪びれる様子もない。こいつは、行商人というか学者向きのマインドをしているのかもしれない。

「更なるデータのために俺たちに女装しろって言うのか? バカバカしい。二次性徴前のアベルならともかく、俺やカインは骨格からして完全な男だぞ」

「ちょっと。リオンさん。僕だって女装は嫌ですよ。それに僕だって身長伸び始めているんですから、二次性徴始まってるとは思います」

 声変わりしてない説得力のない声で憤慨するアベル。まあ、一部の変態には需要がありそうだけど、本人が嫌がっているならさせるべきではないな。

「あはは。そうじゃなくてね。ナイアは見た目で男女の区別がついてないとしたら……嗅覚で判断しているのかもしれないって。だから、次はこの香水を使って実験したいの」

「香水……? またロクでもない商品でも売りつけようってつもりか?」

「いやいや。これはビジネスチャンスなの。だって、考えても見てごらんなさいよ。ブルムの街の冒険者がクレイア国に行く時に通る道は、メガロブラキオンの森とミストレスレイク。この2か所が近道で、そこを避ければ更にルートは膨らんでしまう。要は、メガロブラキオンの森とミストレスレイクも両方通れないランクの低い女冒険者はそれだけ時間的に不利ってこと」

 確かにアレサの言っていることは筋が通っている。俺たちは全員男だから全く気にしてないけれど、もしパーティに女がいたらこの道は一気に危険なものへと変貌する。ナイアに勝てる実力がないなら、この道は避けるところだ

「女冒険者が主力になっているパーティなら彼女たちを外す選択肢は取れないから泣く泣く遠回りをするしかない。でも、それをお金で解決できたら素敵だとは思わない? 時は金なり。早くクレイア国に辿り着ければ、それだけ依頼の期日に余裕が持てるし、時間制限による失敗も少なくなる。この香水がナイア避けに対して効果があれば……私は儲かるってわけ」

「商魂たくましいな。そこは尊敬する」

「ありがとうお兄さん。素直に誉め言葉として受け取っておくね」

 アレサはニコっと俺に笑いかける。その笑顔の裏側がどことなく物欲に塗れているんだろうなと邪推してしまう。

「アレサさん。その香水は一体どんな効能があるんですか?」

「お、いい質問だねえアベル君。この香水は……なんと! 体臭を消す効果があるの。ほら、男性と女性の匂いって違うでしょ? だから、私は女特有の匂いをこの香水で消して逆に男の匂いをつける。そんな香水なの」

「へー。あんまり嗅ぎたくない香水ですね」

「ふっふっふ。甘いなアベル君。この香水からは女性が好む匂いを分析して研究しているの。つまり、この香水をつければ女性からのモテ度も必然的にアップ。そうした男性の需要も満たせる優れものってわけ」

 女冒険者にしか売れないものかと思いきや……隙の生じぬ二段構えと来たか。恐れ入った。

「と言う訳で、私がこの香水をつけます。そしてナイアたちの目の前を横切ります。そのまま何もなければ実験成功。もし、私が襲われるようなことがあれば、お兄さんたちが助けてくれる。どう? 万一の時のためのボディガード。実験成功でも失敗でも報酬はちゃんと払うから安心してね」

「まあ、即決ってわけにはいかないな。少し仲間と相談させてくれ」

「あいよ。お兄さんのそういう慎重なとこ良いね!」

 アレサがグーに親指を立ててグッドサインを示す。俺たちは一旦はアレサから遠ざかって相談することにした。

「リオンさん。あの女商人信用して良いんですか?」

 カインが当然の疑問を言う。俺とアベルはアレサとは何度かやり取りしているし、それなりに関係を築いているが、カインは初対面だ。

「アレサはきちんと正当な報酬を支払う奴だ。どうせ俺たちはこの道を通らないといけない。ならアレサを連れて歩こうが同じことだ。それだけで報酬が手に入るならお得……って普通は考えるよな?」

「ええ。実験が成功すればリスクなしで報酬が手に入りますが……実験に失敗したら、いらない戦闘をする必要があります。それに気になるんですよ。あのアレサ……私たちがここに来なかったらどうするつもりだったんだろうって」

「ああ、そうだな。この道は確かに男冒険者がよく通る道だ。だから、ここで張っていれば誰かしら冒険者を捕まえることはできる。それがたまたま俺たちだった……ってところか?」

「リオンさん。やっぱり、僕はどうしても気になります。どうして、僕たちの行く先々でアレサさんと遭遇するんでしょうか。最初のルスコ村の件については、彼女から接触してきたから気になりませんでしたけれど、モノフォビア捜索の時や今回の件で偶然遭遇するなんて考えにくいですね」

「偶然は2度3度も重ならないか……確かにな。行商人が護衛もつけずにここまで来れているのも異常だ」

 俺はアレサと言う存在が時々わからなくなる。この女は一体何者なんだろうか。その答えを本人に訊いたところではぐらかされるのがオチだろう。

「でも、アレサも放ってはおけない。1人で実験をして死なれでもしたら……」

「そうですね。最悪のケースを避けるとしたら、私たちが彼女の依頼を引き受けるのが最善なのですかねえ」

 結局、アレサの正体に疑問を抱きながらも、俺たちは彼女の依頼を引き受けることにした。依頼を了承する旨を伝えるとアレサはニコっと笑った。だけど、その笑顔に若干の不気味さを覚えてしまった。

「それじゃあ、ナイアのところに行くよ」

 アレサはしゅっしゅと自分に香水を吹きかけた。

「お兄さんも付けます? モテますよ?」

「いらん」

 ミストレスレイクの奥地へと入っていく。湖の付近にはナイアが寝転がって寛いでいる。顔のない不気味な女性型モンスター。同じ女性型モンスターならまだガイノフォビアの方が可愛げはあったであろう。

 一歩一歩ナイアへと近づく。俺たちはアレサを囲み守る陣形を取った。アレサの前方に俺、後方にカイン。湖側にアベルを配置。最もアレサを守りやすい陣形だ。

 このまま何事もなければ、ナイアをやり過ごせる。そうすれば実験も依頼も成功だ。俺はそうなることを祈った。

 ナイアの隣を横切る。ナイアは反応を示さない。勝った。そう思った次の瞬間だった。

 サバーンと音がしたと思ったら、湖の中からナイアが飛び出てきた。そのナイアには……顔があった。俺たちに視線を合わせるとナイアはニタァと笑い口を開く。

「そいつは女だ……」

 ナイアが指さした先にはアレサがいた。その言葉を聞いた他のナイアたちは起き上がり、こちらに……いや、アレサに襲い掛かって来た。

「来るぞ!」

 顔のあるナイアなんて聞いたことがない。だが、そんな新種の存在なんかよりも、まずはアレサを護衛する方が先だ。俺は杖で飛び掛かって来たナイアを払いのけた。殴打で飛ばされたナイアは湖近くの木に激突する。

 続いて飛び掛かってきたナイアだが、次はカインのメイスが処理をする。メイスの頭部が発射されてナイアの鳩尾にクリーンヒットする。見ているだけで痛そうである。食らいたくない攻撃だ。

「カイン油断するな。そいつはまだ倒れてない」

 カインの攻撃を食らったナイアが立ち上がり、アレサに向かって突進しようとする。その眉間にアベルのボウガンが刺さる。

「ふう……危なかった」

「サンキュ、アベル。助かった」

 仲間たちがやられて顔のあるナイアは悔しそうにギリギリと歯ぎしりを立てる。

「ぐぎぎ……覚えておけ」

 顔のあるナイアはそれだけ言うと湖に潜った。どうやら撃退したようである。

「うーん……これって実験成功って言えるのだろうか。あの顔のある希少種のナイアがいなければ実験は成功してたっぽいしな。更なる実験がが必要か? でも、あのナイアにも気づかれないような工夫が取れないのだろうか」

 アレサがぶつくさと言っている。懲りない女だ。
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